◇SH2548◇経産省、第16回CGS研究会第2期――グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案) 柏木健佑(2019/05/21)

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経産省、第16回CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第2期

グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案)

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 

1 はじめに

 2019年5月8日、経済産業省が公表した第16回CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第2期(4月18日開催)開催資料として、グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案)(以下「GGS実務指針案」という。)が公表された。同じく開催資料として公表されたスケジュールでは、予備日を除く研究会の日程は完了しており、GGS実務指針案は相当程度煮詰まった内容であることが窺える。そこで、以下において、GGS実務指針案の全体像について解説するとともに、特に、上場子会社に関するガバナンスの在り方について取り上げて解説する。

 

2 GGS実務指針の全体像

(1) グループ・ガバナンス・システムに関する議論の状況

 2017年3月、CGS研究会による報告書「CGS研究会報告書~実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引き~」が公表され、経済産業省は、これを踏まえて、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定した。これらの動向を踏まえて各企業におけるガバナンス強化に関する取組みが進められてきた一方で、従来のガバナンスの議論においては法人単位の議論が先行しており、グループ企業のガバナンスについての議論は進んでいなかった。上記CGS研究会報告書においても、グループ企業のガバナンスをどうするかについては「空白地帯として残っている」との指摘がなされていた。

 かかる指摘を受け、CGS研究会第2期において議論を重ねた成果が、今般、GGS実務指針案として取りまとめられた。

(2) GGS実務指針案の主要な内容

 GGS実務指針案は、グループ経営を行う上場企業、特に多数の子会社を保有して多様な事業分野への展開やグローバル化を進める大規模なグループ企業を主たる対象と想定している。同案における議論は、グループ設計の在り方から子会社経営陣の指名・報酬の在り方まで多岐にわたる。目次に沿ってその主要な内容を概観すると、以下の表のとおりである。

目次 表題 概要
2 グループ設計の在り方  
2.3 本社の役割
  1. ▷ グループ本社の取締役会はグループ全体のガバナンスと子会社における機動的な意思決定の両立の観点から適切な関与の在り方を検討すべき
3 事業ポートフォリオマネジメントの在り方  
3.2 事業ポートフォリオマネジメントの基本的な考え方
  1. ▷ グループ会社の取締役会は、事業ポートフォリオマネジメントのための仕組みの構築において主導的な役割を果たすとともに、その運用の監督を行うことが期待される。中でも社外取締役の主体的な関与が重要
4 内部統制システムの在り方  
4.5 内部統制システムに関する監査役等の役割等
  1. ▷ グループ全体の内部統制システムの監査については、親会社の監査役等と子会社の監査役等の連携により、効率的に行うことを検討すべき
4.9 サイバーセキュリティ対策の在り方
  1. ▷ サイバーセキュリティについて、グループ全体やサプライチェーンも考慮に入れた対策の在り方を検討すべき
4.10.3 子会社で不祥事が発生した場合における親会社の対応の在り方
  1. ▷ 子会社で不祥事が発生した場合、親会社は、事案の態様や重大性、子会社における対応可能性等を勘案し、特に必要な場合には、事案の原因究明や事態の収束、再発防止策の策定に向けた対応を主導することも期待される
5 子会社経営陣の指名・報酬の在り方  
5.3.2 グループとしての経営陣の人材育成・人事管理の在り方
  1. ▷ グループ全体として一定レベル以上のポスト・人材を選定し、評価・選抜を行う仕組みを構築し、将来の経営人材の計画的育成を行うことを検討すべき
5.4.2 グループ企業における報酬水準の在り方
  1. ▷ 中長期的には、グローバルな報酬水準に関する考え方の統一を目指すことが望ましいが、当面の対応としては、職務格付けなどを用いた客観的かつ統一的な基準を導入することを検討すべき
5.4.4 グループ企業における報酬情報の開示
  1. ▷ グループとしての報酬政策や具体的指標について、その基本的な項目を積極的に開示することを検討すべき
6 上場子会社に関するガバナンスの在り方 【下記において解説】

 

3 上場子会社に関するガバナンスの在り方について

(1) はじめに

 上場子会社については、グループ本社(親会社)が事業ポートフォリオの最適化について株主に対する説明責任を負う一方で、支配株主である親会社と上場子会社の一般株主との間の利益相反リスクが存するためその調整が問題となる。GGS実務指針案は、かかる構造的な利益相反リスクを踏まえて、親会社における対応及び上場子会社におけるガバナンス体制の在り方の両面から検討を行っている。以下その内容について解説する。

(2) 親会社における対応の在り方

 GGS実務指針案は、組織再編に伴う中間形態として等、過渡的な選択肢としての上場子会社の意義を認めつつ、上場子会社における支配株主と一般株主との間の構造的な利益相反リスクが、グループとして事業ポートフォリオ戦略の実効や経営資源の再配分を行う際に制約となり得ることを指摘する。そのため、親会社は、グループ全体としての企業価値向上や資本効率性の観点から、上場子会社として維持することが最適なものであるか、定期的に点検することが必要であるとされる。また、上場子会社が維持される場合においては、その合理的理由や、上場子会社のガバナンス体制の実効性確保について取締役会で審議し、投資家に対して情報開示を通じて説明責任を果たすことが求められている。

(2) 上場子会社におけるガバナンス体制の在り方

 一方で、上場子会社については、親会社と一般株主との間の利益相反リスクを踏まえた独立性担保のための実効的なガバナンス体制の構築が求められる。

 そのような観点から、GGS実務指針案においては、上場会社の独立社外取締役には、親会社からの独立性が求められるとして、上場子会社の独立社外取締役として10年以内に親会社に所属していた者を選任しないこととすることを検討すべき(6.3.3「上場子会社における独立社外取締役の独立性に関する考え方」)、上場子会社の利益相反リスク対応として、重要な利益相反取引については独立社外取締役(又は独立社外監査役)を中心とした委員会で審議・検討を行う仕組みの導入を検討すべき(6.3.4「上場子会社における実効的なガバナンスの仕組みの在り方」)といった具体的な内容に踏み込んだ提言もなされている。

 加えて、上場子会社の経営陣の親会社からの独立性を担保するため、上場子会社の指名委員会・報酬委員会は親会社からの独立性が実質的に担保されるべきことも指摘されている。

 

4 まとめ

 ここまで見たとおり、GGS実務指針案はグループ会社経営に関し、多岐にわたる内容について議論を加えており、具体的な提言も含まれることから、グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針が正式に策定されれば、グループ経営を行う上場企業のガバナンス設計に影響を及ぼすことが想定される。

 第16回CGS研究会第2期の議事内容は未公表であり、今回公表されたGGS実務指針案で内容が確定したかは不明である。そのため、今後予定されていると考えられる、グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針の正式策定についても、引き続き注視を要する。

以上

 

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