経産省、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のための
インセンティブプラン導入の手引-』
岩田合同法律事務所
弁護士 佐 藤 修 二
1. はじめに
経済産業省は、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-(平成29年4月28日時点版)』(以下「29年版手引」という。)を公表した。これは、本年3月に国会で成立し、4月から施行された平成29年度税制改正によって、役員報酬に係る税制上の自由度が高められたことを受け、その内容を一般に周知するものである。「役員報酬改革」と言えば、昨年度税制改正でいわゆる日本版リストリクテッド・ストックが解禁されたが、このときも経済産業省は、『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』を公表している。経済産業省は、コーポレート・ガバナンスに係る制度改革推進役であり、29年版手引の策定もその一環であろう。
2. 役員報酬に係る税制改正の概要
29年版手引に即して、平成29年度税制改正による役員報酬に係る税制改正の概要を紹介すると、以下のとおりである。
まず、役員報酬全体として整合性ある税制となるよう配慮された。すなわち、改正前は、日本版リストリクテッド・ストック、信託を活用した自社株報酬である株式交付信託というように多様化し始めたインセンティブ報酬の中でも、その報酬類型によって損金算入の可否が異なっていたが、改正によって、今後は類型の違いによらず、一定要件を満たすことで損金算入が可能とされた。
また、グループ経営の実態を反映し、従前は、非居住者の役員、完全子会社以外の子会社の役員に付与される株式報酬については損金算入が認められていなかったところ、非居住者役員や完全子会社以外の子会社の役員に付与される株式報酬についても損金算入を認めることとした。
さらに、業績連動給与については、平成28年度税制改正によって、利用できる指標の追加等の改正がなされていたが、更に自由度を拡大し、複数年度の利益に連動したものや、株価に連動したものも損金算入の対象とすることとした。
3. 改正の意義と位置付け
数年前から、「攻めの経営」を目指し、経営陣のインセンティブを会社と一致させるための自社株報酬を拡大すべきであるという議論が活性化し、コーポレートガバナンス・コードにおいても、インセンティブ報酬、とりわけ自社株報酬の積極的な導入が提言された(原則4-2、補充原則4-2①)。こうした流れを受けて、株式交付信託の導入実例が増加し、また、平成28年度税制改正によって日本版リストリクテッド・ストックも解禁された。平成29年度税制改正は、こうした役員報酬多様化の流れを更に推し進めるものである。
従前、法人税法における役員報酬規制は、損金算入可能な報酬を限定しすぎの嫌いがあり、企業の自由な報酬制度設計の桎梏となっている面が否めなかった。それが、平成28年、29年の年度改正により、近年の潮流に促される形で税制の柔軟性が高められたものであり、わが国経済の活性化にとって、好ましい改革であると言えよう。
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(29年版手引20頁より)