監査役協会、監査等委員会による企業のリスクテイクに対する関与について報告書を公表
――SDGs・ESGへの関与も対象に、一部で指名委員会等設置会社との比較も――
日本監査役協会は12月16日、同協会の監査等委員会実務研究会(幹事・長濱守信第一生命ホールディングス取締役(上席常勤監査等委員))が取りまとめた報告書「企業の健全なリスクテイクに対する監査等委員会の関与の在り方」を公表した。
同研究会によると、「企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上という目的達成に向けた経営上の意思決定に対して、監査等委員会が監督機能を果たすためにどのような検討を行うべきか」という観点から研究を進めた。検討に当たっては、今年5月25日~6月19日の間に会員である監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を対象に実施した「監査(等)委員の監督機能領域の検討に関するアンケート」による調査結果・実例を参考としている。アンケートは計960社を対象に依頼、監査等委員会設置会社410社・指名委員会等設置会社24社の計434社から回答を得た(回答率45.2%)。なお、会員会社である監査等委員会設置会社のうち、90%以上において常勤監査等委員が選定されているという。
経営陣から独立した非業務執行役員が投資家等の対話の相手方として重視されつつあるなか、監査等委員会設置会社においては監査等委員会が積極的な役割を果たすことが期待されるとともに、その前提として「投資家目線で関心が高いと思われる各事項について、監査等委員会の中で十分な議論がなされている必要がある」との問題意識から、監査等委員会が監督機能を果たしていくうえで検討を行うべき事項の例とし、(1)中期経営計画等を含む経営基本戦略、(2)設備投資・システム投資などのリスク投資、(3)SDGs・ESGを意識した経営への取組みの3つを挙げた。総論・各論・補論の3章で構成された本報告書では、各論においてこれらの3点を取り上げている。
うち上記(3)を具体的にみると、①各社の検討の態様として「SDGs、ESGを意識した経営に関する基本方針の策定状況」について、策定済みである会社は監査等委員会設置会社:91社(回答410社に対して22.2%。ただし、未策定会社中「策定に向けて検討中である」会社は36.8%に上る)、指名委員会等設置会社:16社(回答24社に対して66.7%)であった。個別の回答によれば、「経営ビジョンの中に織り込み」「企業理念や倫理綱領に盛り込まれている」「中期計画に位置付けて(いる)」「事業計画に取り込んでいる」といった例もみられる。
次いで「SDGs・ESGを意識した経営に関する取締役会における議論の状況について」尋ねる設問では、「決議事項となっている」が監査等委員会設置会社:35社(回答90社に対して38.9%)、指名委員会等設置会社:4社(回答16社に対して25.0%)、「報告事項となっている」が監査等委員会設置会社:38社(42.2%)、指名委員会等設置会社:11社(68.8%)。同じ内容の設問を「経営会議等における議論の状況」として訊くと、「決議事項となっている」が監査等委員会設置会社:43社(回答89社に対して48.3%)、指名委員会等設置会社:6社(回答15社に対して40.0%)、「報告事項となっている」が監査等委員会設置会社:29社(32.6%)、指名委員会等設置会社:6社(40.0%)となった。検討会議体としては、会社横断的に取組みを進めるために「サステナビリティ委員会」が組織される例も多いとされる。
また、②監査等委員会としての関与の在り方とし、指名委員会等設置会社では「担当役員から直接の情報収集を行っている」が12社(回答23社に対して52.2%)、「報告書作成部門等から直接意見を聞く等の機会を設定している」が10社(43.5%)に上るのに対し、監査等委員会設置会社では「担当役員から直接の情報収集を行っている」が70社(回答406社に対して17.2%)、「報告書作成部門等から直接意見を聞く等の機会を設定している」が72社(17.7%)と割合として低くなっており、一方で「とくに対応していない」が197社(48.5%)と半数近くに達する現状となった。
監査等委員会実務研究会では「全体的な傾向として、状況は未だ途上と言わざるを得ない」と評価しつつ、(ア)SDGs、ESGに直結する問題が実際に現場を訪れることにより肌感覚で理解できることが多く、(イ)往査を通じてこのような機会を定常的に得ることができる監査等委員会が監査等委員でない社外取締役にはないメリットを有していると考えられることから、今後、監査等委員会ならではの強みを発揮していくことを期待するとしている。