◇SH3527◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第6回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に 長島匡克(2021/03/11)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第6回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律
著作権を中心に

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

 前回は従来型スポーツのフェアプレイに関する議論を参考に、eスポーツとフェアプレイについて検討したが、今回は、eスポーツがゲームという著作物を通じて行われるため、著作権法の観点からeスポーツとフェアプレイについて考えてみたい。オンラインゲームにおけるアンフェアなプレイはチート行為と呼ばれており、eスポーツにおいても踏襲されている。そこで、チート行為を著作権法の観点から検討してみたい。

 

1 チート行為

 チート行為とは、ゲームのデータやプログラムを改ざんして、ゲームの制作者が意図していない動作(ゲーム内通貨やレアアイテムを不正に増やす、キャラクターのレベルを急激に上げるなど)を不正にできるようにする行為をいう[1]

 (オンライン)ゲームに対するチート行為の態様は一様ではない。(i)ゲーム内のキャラクターのパラメータ―を変更する行為、(ii)本来表示されない他のプレイヤーの位置情報を表示できるようにするウォールハック、(iii)マウスやキーボード等をひとつのアクションで複数の動作が行われるように改変する行為、(iv)一人称視点のプレイヤーが実際にプレイしているゲームの観戦用画面を参考にし相手の場所等を確認するストリームスニッピング(Stream Sniping)、(v)ネットワークや特定の相手方にDDoS攻撃を行い遅延や強制終了をもたらす行為、(vi)ゲームの入力をプログラムでシミュレーションし、自動でゲームをプレイする行為(ボッティング)、(vii)FPSにおいて自動照準を可能にするオートエイムなど、様々なものがある。

 これらのチート行為はゲームバランスを壊しひいてはゲーム自体の魅力を大きく損なうことになるため、ゲーム会社は厳しい姿勢でチート行為への対策を行っている。ゲームのエンドユーザーライセンス契約等における契約上の規律は当然として、技術的には不正発見ツールの開発[2]、サイバーセキュリティの強化を行い、法的にも不正を発見した際の制裁の実行などによる対策が行われている。

 今回は、法的な対応の前半として、チート行為と著作権法(以下「法」という。)との関係を検討したい。

 

2 チート行為と著作権法

⑴ 同一性保持権

 チート行為により、ゲームのプログラム、ストーリーやゲーム影像に改変を加えられることがあり、その場合には、同一性保持権(法20条1項)が問題となる。法20条1項は、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」と定めており、著作物及びその題号に対する著作者の「意に反する」「改変」を禁じている。意に反する改変であっても、例えば著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変(同法20条2項4号)等、例外的に認められる場合はあるものの、同一性保持権には私的使用目的での複製(同法30条1項)のような免責規定は存在せず、文言上は私的領域での改変を含め、幅広い行為が侵害となりうる。そのため、著作物の加工や修正が容易になったデジタル時代におけるコンテンツの発展にとって足枷となる可能性もあるという指摘もあるところである[3]

 以下では従前のゲームに対するチート行為に関する裁判例を照会し、eスポーツを含むオンラインゲームにおけるチート行為を考えてみたい。

  1.  ア パラメータの変更
  2.   (著作権法的に)最も典型的なチート行為として、パラメータの改変行為がある。オンラインゲームにおけるキャラクターのパラメータは、ゲームバランスを考慮してゲーム会社により調整されることもあるゲームにおける重要な要素である。パラメータそれ自身は単なる数字であり著作物ではないため、その改変が直ちに同一性保持権侵害になるとは言えないであろう。

    1.  (ア)三國志Ⅲ能力値付加事件
    2.    では、ゲームのプログラムという側面に着目し、プログラム自体の改変があったと考えることができないか。この点について争われたのが三國志Ⅲ能力値付加事件である[4]。同事件は、PCゲームの「三國志Ⅲ」に登場する君主や武将の能力値が、本来の値の範囲(1から100まで)を超えて設定できるプログラムを頒布した行為が、同ゲームのプログラムの同一性保持権侵害に該当するかが争われた。同一性保持権侵害を成立させるためには、著作物が改変されたことを立証する必要があるが、裁判所は、当該ゲームは、ユーザーの自由な作動により、ユーザーの自由な選択に基づいて多様に展開することが特色となっており、当該ゲームのプログラムの表現としてゲーム展開が具体的にどのような範囲のものを指すのかは客観的に明らかになっているとはいえず、100を超える能力値を入力した場合のゲーム展開が、能力値100以内である場合のそれと明確な差異があるとは認め難い、と判断して、同一性保持権侵害を否定した。
    3.  (イ)ときめきメモリアル事件
    4.    一方で、プログラム自体ではなく、ゲームソフトが予定しているストーリーを改変行為の対象とした裁判例がときめきメモリアル事件[5]である。裁判所は、チートツールを用いたパラメータの変更によって、当該ゲームにおけるパラメータによって表現される主人公の人物像が改変され、それに応じてゲームのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開し、ストーリーの改変をもたらすので、同一性保持権侵害が成立すると判断した[6]。この点、三國志Ⅲ能力値付加事件との整合性が問題になるが、同判決の解説においては、プログラム自体の侵害がない場合でもゲームソフトが予定している人物像ないしストーリーの侵害は考えられること、ゲームはプレイ毎に異なる表現態様となるものの、当該ゲームにおいてはその表現態様は全く無制限なものではなく、許容された一定の範囲内で表現される有限なものであることが指摘されている[7]。もっとも、同判決に反対する学説もあり、先例としてどの程度の価値があるかは議論の余地があろう。
       
  3.  イ キャラクターのコスチュームの変更
  4.    近時のゲームにおいてはキャラクターのコスチュームが課金の対象となっているように、ゲーム内キャラクターのコスチュームはゲームのひとつの魅力を構成する。では、チートによってこのようなコスチュームに改変を加える行為はどのように考えるべきであろうか。
  5.    この点は、DEAD OR ALIVE事件[8]が参考になる。同判決は、チートツールにより同ゲームに登場するキャラクター「かすみ」の対戦用コスチュームを、通常は使用できない裸体に変更できるようにするプログラムをCD-ROMに収録して販売した行為に対して、「ゲームソフトの対戦画面の影像ないしゲーム展開が、本来予定された範囲を超える」と指摘して、同一性保持権侵害を肯定した。このように、コスチュームを無断で改変するチート行為は、同一性保持権侵害を構成しうるといえるだろう。
     
  6.  ウ プラットフォームの機能の追加・変更
  7.    最後に、ゲームのコンソール(ゲーム機)はゲームのプラットフォームとして機能しているところ、プラットフォームに第三者が新たな機能を追加・変更する行為が当該プラットフォーム上でプレイされるゲームという著作物の改変に該当するかについて、連射機能を付加したゲーム機専用コントローラーの販売行為が同一性保持権侵害として争われたNEO・GEO事件が参考になる[9]。同事件の判決は、連射機能が使用されることで結果的に具体的なゲームソフトが想定している難易度を下げるなど、当該ゲームソフトの面白さを左右する重要な要素に影響を与えるという原告の主張を認めず、当該連射機能の使用によりゲームのプログラム自体には何らの改変も加えず、その影像の変化ないしストーリー展開は原告が著作したゲームソフトが予定した範囲内のもので、同ゲームソフトに込められた著作者の思想及び感情をその意に反して改変するものとはいえない、と判断して、同一性保持権侵害の成立を否定した。この裁判例を前提とするならば、マウスやキーボード等をひとつのアクションで複数の動作が行われるように改造して使用する行為が、ゲームの同一性保持権侵害となる場合は、限定的であると考えられる。
     
  8.  エ オンラインゲームのチート行為
  9.    このように、チート行為がなされた場合の著作権法的な分析は、プログラム自体の改変を伴うか、ゲーム影像やストーリーがどのように改変されたかなどの視点から、具体的内容に応じて、検討される必要があろう。
  10.    このような視点に基づいてオンラインゲームのチート行為を検討すると、ボッティングやオートエイムは、プログラム自体に改変を加えるものであれば同一性保持権の問題は生じ得るものの、そうでなければゲームというプログラムや、著作物の影像やストーリーそれ自体の変更をもたらすものとまでは言えず、同一性保持権侵害とまでは言い難いものといえよう。一方で、ウォールハックは、(プログラムそれ自体に改変を加えるのであればプログラムの著作物の同一性保持権侵害であるが、プログラム自体への改変がない場合でも)ゲーム影像に本来予定されていない壁の裏側に位置する他のプレイヤーの位置情報を影像面に表示するものであるから、影像の改変の程度は軽微なものになる場合もあろうが、ゲーム会社として明確に禁止している点でもあることから、同一性保持権の問題が生ずる可能性もあるように思われる。
     
  11.  オ チート行為を可能にするプログラムの販売等の行為
  12.    以上の検討は、プレイヤーによる同一性保持権侵害であるが、改変行為はプレイヤーによってなされるため、このようなチート行為を可能にするプログラム等を販売する者が、ゲームに対する同一性保持権侵害の侵害主体となるかについては別途考慮が必要である。ときめきメモリアル事件においては、①問題となったゲームソフトの改変のみを目的としているメモリーカードを輸入、販売したこと、②使用者を予期して当該メモリーカードを流通に置いたことから、当該メモリーカードを流通に置いた者は、当該行為が、使用者の使用による同ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、不法行為に基づく損害賠償を負うと判断された。この点については、侵害行為の主体を規範的に拡張したと考えるか、侵害行為の主体はあくまでもプレイヤーで、その侵害行為を幇助したと考えるかは明確ではない。そのため、チートプログラムの販売に対するゲームの同一性保持権侵害に基づく差止請求の可否は明らかではない。もっとも、当該行為に刑事罰が課されることは変わりなく、実際に人気ゲーム(パズル&ドラゴン)のデータを改ざんする不正プログラムを販売する行為について、著作権法違反の容疑で逮捕され、2015年7月10日に横浜簡易裁判所で罰金50万円の略式命令が出されているなど、刑事事件化している事案もある。

⑵ 技術的保護手段の回避や技術的利用制限手段の回避

 ゲームにおいては、不正な複製や利用等を防止するために技術的保護手段(いわゆるコピーコントロール)や技術的利用制限手段(いわゆるアクセスコントロール)が備えられている。技術的保護手段を回避する行為は私的使用目的でも許容されず(法30条1項2号)、技術的利用制限手段を回避する行為は著作権侵害であるとみなされる(同法113条6項)。

 また、近年、オンラインゲームを含むコンテンツ提供方法がパッケージ販売からインターネット配信に移行しており、それに伴い、不正使用を防止するための保護技術として、シリアルコード等を活用したライセンス認証技術(いわゆるアクティベーション方式)が広く普及している一方で、ライセンス認証技術の回避によるソフトウェア等の不正使用も蔓延している。そのため、令和2年改正(令和3年1月1日施行)では、①ライセンス認証技術のように、不正利用防止のための信号がコンテンツとは別途(後から)送信・記録されるものについても、技術的保護手段及び技術的利用制限手段の対象となることを明確化するため、それぞれの定義規定の改正を行い、②これらを回避する機能を有する不正なシリアルコードの提供等について、著作権等を侵害する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問い得るようにすることとされた(同法113条7項、120条の2第4号)。これにより、ライセンス認証の技術を回避したゲームの不正使用が抑止され、著作権等の適切な保護に資することが期待されている[10]

第7回につづく

 


[1] 警視庁「チート行為はやめましょう!」(2019年10月25日)(https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/cyber/notes/cheat.html
安田和史「オンラインゲーム上のチート行為への法的対応」日本知財学会誌12巻2号(2015)52頁

[2] 「League of Legends」では、AIでBOTを検知・識別したうえ排除するというBOT排除システムが導入されている(https://nexus.leagueoflegends.com/en-us/2018/10/dev-removing-cheaters-from-lol/)。

[3] 中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020)618頁

[4] 東京高判平成11・3・18判時1684号112頁(三国志Ⅲ能力値付加事件)

[5] 最三判平成13・2・13民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件)

[6] 本判決の評価は分かれている。また、著作権法20条2項4号「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」の適用の余地があるとの主張もなされている。

[7] 高部眞規子「判解」判解民平成13年度(上)119頁、120頁

[8] 東京高判平成16・3・31判時1864号158頁

[9] 大阪地判平成9・7・17判タ973号203頁

[10] 文化庁「令和2年通常国会著作権法改正について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

TMI総合法律事務所は、新しい時代が要請する総合的なプロフェッショナルサービスへの需要に応えることを目的として、1990年10月1日に設立されました。設立以来、企業法務、M&A、知的財産、ファイナンス、労務・倒産・紛争処理を中心に、専門化と総合化をさらに進め、2021年1月1日現在、弁護士494名、弁理士85名、外国弁護士37名の規模を有しています。クライアントの皆さまとの信頼関係を重視し、最高レベルのリーガルサービスを提供できるよう努めております。

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