約束手形の利用の5年後廃止に向けて中企庁検討会が報告書を公表
――今後3年を目途に支払サイトは60日以内へ、廃止に向けては産業界・金融界に自主行動計画の策定を求める
中小企業庁は3月15日、「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)による昨年来の検討の成果を取りまとめた報告書を公表した。
検討会は中小企業の支払手段の適正化、具体的には約束手形のさらなる現金化などを課題として2020年7月31日、初会合が開かれた(設立の背景・目的、当初の検討予定日程などについて、SH3270 中小企業の支払手段の適正化で中企庁検討会が議論を開始、9月に中間とりまとめへ――約束手形のさらなる現金払い化、サイト短縮、割引料負担適正化に加えて新たな決済手段の検討も (2020/08/19)既報)。今年2月19日には報告書を取りまとめる最終会合(第6回会合)を開催していたことから、報告書の公表が注目されていたものである。
本文および参考資料で29ページ建てとなる本報告書は「1 本検討会設立の背景と目的」「2 約束手形の歴史と現状」「3 約束手形を用いた取引の問題点」「4 約束手形に対する今後の方向性」「5 約束手形の利用を廃止していくにあたっての課題」「6 ファクタリング」「7 「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」の策定」の全7章構成。「3 約束手形を用いた取引の問題点」では、(i)取引先に資金繰りの負担を求める取引慣行(長い支払サイト)、(ii)取引先が利息・割引料を負担する取引慣行、(iii)「紙」を取り扱う事務負担・リスク負担――の3点の課題について、中企庁が昨年9月に実施した支払いの実態に関する3,350社(大企業158社、中小企業3,192社)へのアンケート調査の結果、諸外国の状況、実務の実態・実情に照らしながら分析したうえで、4点目の課題として「受取人の9割、振出人の7割超が「やめたい」との意向」を掲げて紹介。上記アンケート調査に基づき、受取人の実に92.6%が「手形支払をやめたい(回答2,056社に対して54.6%、以下同様)」「やめたいがやめられない(38.0%)」と回答し、一方、振出人においても76.4%が「やめたい(回答1,772社に対して46.5%、以下同様)」「やめたいがやめられない(29.9%)」と回答した状況をその理由とともに明らかにしている。なお、受取人がやめられない理由の最多回答は「振出側が手形による支払を希望している」であり、振出人がやめられない理由の最多回答は「電子記録債権にしたいが受取側が利用していない」であった。
報告書がこれらの課題の解消のために「4 約束手形に対する今後の方向性」において提唱するのが、まず「手形通達の再改正」である。その内容として、①サイトを業種にかかわらず60日以内とする、②割引料に関する協議の促進のため、本体価格分と割引料相当額を分けて明示するべきである、③施行については取引の実態や周知期間を考慮し、たとえば3年(後)とすることが想定されるとした。
これに続いて示される課題解消策が「約束手形の利用の廃止」となる。諸課題を踏まえた場合に「約束手形の利用を廃止していくべきである」と端的に述べるもので、併せて、具体的な代替手段とし、①「支払サイトを短くしていくためには約束手形よりも支払サイトの短い決済手段(現金振込)への切り替えが進められるべきである」こと、②「発注企業の資金繰り負担などから直ちに切り替えができない場合であっても、少なくとも「紙」による決済をやめる観点から、電子的決済手段(電子記録債権等)への切り替えを進めるべきである」ことを盛り込んだ。
報告書「5 約束手形の利用を廃止していくにあたっての課題」では、廃止に向けた課題として(i)業界全体での取り組み・サプライチェーン全体での取り組みの必要性、(ii)代替手段である電子的手段(銀行振込や電子記録債権等)の利便性の向上、(iii)資金繰り、(iv)支払サイトの短縮化の4点を掲げる。(iii)資金繰りについては、①取引先の支払条件の改善に取り組む企業に対する公的支援としての「日本政策金融公庫による低利融資制度」を約束手形をやめるための手段として活用すること、②下請中小企業振興法に基づく、下請事業者への支払条件の改善に取り組むための公的支援としての「日本政策金融公庫による低利融資や債務保証など」(の活用)を案内。
上記(iv)支払サイトの短縮化は「支払サイトを維持したまま支払手段を現金振込とすると、……支払条件が悪くなる可能性がある」との懸念を踏まえたもので、約束手形の利用の廃止が支払サイトの短縮化と併せて行われる必要があることを指摘している。①支払条件に関する社内基準を見直して支払サイトを短縮化していくことが求められるほか、②有価証券報告書のデータによれば、同一の業種であっても企業により支払サイトに幅があり、たとえば、業界平均値よりも長いサイトとなっている企業は業界平均を目指すといった取組みが求められる。
次章「6 ファクタリング」では、利用状況とこれに伴う課題を紹介したうえで「対応策」を掲げた。「中小企業にとって使い勝手の良いファクタリング」について、「手数料が安い」「取扱金額が低い」「短時間で現金化できる」「信頼できるファクタリング会社である」と整理している。
上述のような課題と対応について言及したうえで最終章で述べられるのが「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」の策定についてである。従来の取引慣行を見直していく過程で留意すべき点、検討されるべき項目を指摘しながら、①産業界・金融界がそれぞれ「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」を策定すべきとするもので、②行動計画は自主的な取組みであることから「具体的な目標期限を設定し、また進捗を把握・管理しつつ実行する仕組み(PDCAを回していく場の設定)を併せて講じる必要がある」とした。目標期限のスケジュール感を「自主行動計画の期間は5年間とする」と想定しており、約束手形の利用を5年後の2026年を目途として廃止することを見据える。
かかる自主行動計画については「毎年のフォローアップの状況もみながら3年後に自主行動計画の中間的な評価を行い、必要な見直しを行う」べきものともした。なお、経済産業省が所管する業界については中小企業政策審議会で自主行動計画のフォローアップを行う方針が盛り込まれたほか、自主行動計画を新たに策定する金融界においては「少なくとも金融界の中に、約束手形のユーザーである産業界にも参加を呼びかけ、約束手形の利用の廃止に向けた現状と課題をフォローアップする場を設置することが望ましい」としている。
自主行動計画について「検討されるべき項目」として例示されるのは、産業界の場合、大別して(1)約束手形の運用改善、(2)約束手形の利用廃止、(3)支払条件に関する情報開示の充実の3点。より具体的に(1)では「手形サイトの短縮化(下請法対象外企業への支払を含む)」「振出人による割引料の負担および割引料の明示」を、(2)では「大企業間取引を含めた発注者側の大企業における取引から、約束手形の利用を廃止し、振込払いへ移行(振込払いへの移行が困難な場合には、電子記録債権への移行) 」することのほか、「支払サイトの短縮」「サプライチェーン全体への働きかけ」を挙げている。上記(3)の開示充実は、求められる開示事項を「約束手形の残高や支払サイトを開示」と示したうえで「時系列比較や業界平均比較の実施」について言及するものとなっている。