◇SH3564◇ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第2回 取締役会実効性向上と取締役会事務局の課題 牧田隆行(2021/04/06)

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ガバナンスの現場――企業担当者の視点から
第2回 取締役会実効性向上と取締役会事務局の課題

J. フロント リテイリング株式会社

取締役会事務局長 牧 田 隆 行

 

 コーポレートガバナンスコードが2015年に導入されたことにより、日本のガバナンス改革は着実に進んできたと認識している。

 一方、社会全体を見渡すと、ガバナンス改革に真正面から取り組んでいる企業と、形式的な対応に終始している企業に依然大きく分かれている。より多くの企業が形式から実質的な取り組みを行うようにするため、本年度3回目のガバナンスコードの見直しが実施されるものと理解している。

 真正面からガバナンス改革に取り組んでいる企業についても、独立社外取締役の増員や指名委員会等設置会社など機関設計の見直しを行い、取り組みの実効性が着実に高まっているものの、それで課題が全て解決したわけではない(それがゴールではない)。

 ガバナンス改革の目的が、企業の持続的成長と企業価値の向上にあるとするならば、取締役会を中心に改革が進んだとしても、経営の執行のスピードが高まり、成果に結びつかなければ、目的を十分に達成したとはいえない。そういう意味では、ガバナンス改革は未だ道半ばにあるのではないかと感じている。

 それでは成果に結びつけるために、取締役会はどのようにすべきであろうか?

 経産省をはじめ、各機関から様々な指針が出されているが、私は『「急所」を押さえた取締役会での審議』⇒『経営へのフィードバック」⇒『経営の実践』⇒「実践を踏まえた取締役会での審議(モニタリング)』の一連のサイクルの高度化に尽きるのではないかと考える。

 その中でも『「急所」を押さえた取締役会の審議』が特にポイントになると思うが、それを行うためには、「①適切な審議テーマの設定(アジェンダセッティング)」「②深堀りした審議」が重要となる。

 「①適切な審議テーマの設定(アジェンダセッティング)」とは、今企業がおかれている環境/状況(リスク)、ステークホルダーから求められている内容を理解し、その中で経営側は何を実践しようとしているのか、そして実践している内容が当を得たものかどうか、ということを的確に把握した上で、企業価値の向上につながる審議テーマを決めることである。

 たとえばサステナビリティ(ESG)に関するテーマは、社会や株主等ステークホルダーの認識・期待を踏まえると、テーマとして取り上げることは当然であり、さらにそのテーマも、経営側の取り組みにとどまらず、広い範囲で審議を行うことができるようにテーマ設定をする必要がある。

 また、「②深堀りした審議」とは、経営側の実践状況の適切な進捗確認と課題に対する高い視座からのアドバイスを含めた論議を行うことである。

 そのためには審議テーマに関する情報を取締役会で共有することが必須で有るが、特に提案資料からだけでは読み取ることができない関連する情報を社外取締役に共有できるようにする必要がある。さらに、DXやサステナビリティ、環境問題など、社会から新たに求められ、経営側も取締役会もこれまでの知見・経験だけでは必ずしも論議に十分な自信が持てないテーマについては、取締役会が高い視座で審議ができるように、情報を得る機会を設けるなど環境を整える必要がある。

 また、「深堀りした審議」をするための前提として、限られた取締役会の中で、当該議題の審議時間をいかに確保するかということも、当たり前のこととはいえ重要である。

 そして、この①②の実現のためには、取締役会の運営を担う取締役会議長の役割が大きいというものの、取締役会を支援する「③取締役会事務局の対応力の高度化」が一層求められていると強く感じている。

 取締役会事務局は、①の「適切な審議テーマの設定(アジェンダセッティング)」のためには、取締役会と経営側の両方に近いことを活かして、橋渡しではないが、経営側の状況/課題を的確に把握し、ときには取締役会の考え方を経営に反映し、年間の取締役会の議題計画を前提としながらも、今まさに何を取締役会で審議しなければならないかを考えて、臨機応変なテーマ設定を支援していかなければならないと考える。

 また②の「深堀りした審議」のための取締役会における情報共有のためには、取締役会以外での情報共有の機会を作ったり、関連情報の資料提供など、工夫が必要になってくる。特にDXやサステナビリティ、環境問題などの新しいテーマについては、事務局が自らの知見を高めることとあわせて、知見のある外部機関とのパイプづくり、取締役会がそのような機関の支援を得る機会づくりを行う必要がある。

 加えて、審議時間の確保のためには、議題の絞り込みだけでなく、決議や報告の方法について、事前の説明や書面/メール等取締役会以外の場/手段の活用の工夫が求められる。

 事務局を担うものとしては、現状を是とするのではなく、何を行えば、取締役会の審議の高度化につながるかを常に意識しながら取り組みを進める必要があると感じている。

 ここに記してきたことは、既に各企業が取り組んでいることでもあり、決して目新しいことではないとは思っているが、このような取り組みを愚直に進めることが、企業の持続的成長と企業価値の向上につながるガバナンス改革になると考えている。

以 上

 


(まきた・たかゆき)

1987年慶應義塾大学卒業後、(株)大丸入社。同社では大丸神戸店にて婦人服、本社において
営業改革、大丸梅田店において営業企画および店舗改装、大丸神戸店で営業企画を担当。そ
の間、慶應義塾大学経営管理研究科において経営修学士を得る。2014年よりJ.フロントリテイリ
ングにて、IR・広報担当後、コーポレートガバナンスコードが公表される2015年に設置された
コーポレートガバナンス推進部を担い同社のガバナンス改革に寄与する。その後経
営企画を担当した後、2020年より現職。

 

本欄の概要と趣旨

  1.   SH3555 ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第0回 連載開始に当たって 旬刊商事法務編集部(2021/03/30)

 

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