経営法友会、「第12次 法務部門実態調査」中間報告公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 門 永 真 紀
1 はじめに
このたび、経営法友会より「第12次 法務部門実態調査」(以下「本調査」)の集計結果の一部が中間報告(以下「本中間報告」)として公表された。この法務部門実態調査は、法務業務の処理体制に関する実態を把握することを目的として、5年に1回の頻度で行われている継続的調査で、今回の調査では、1,233社(回答率23.8%)が回答した。
本中間報告では、法務部門に関する基礎的な数値や主要なテーマにかかわる質問、 社会的に注目されている質問への回答全体を集計した結果が速報的に紹介されている。
2 「法務部門実態調査」の主要な設問に対する回答結果と考察
本調査の質問項目の構成は、以下のとおりである。
- Ⅰ 法務部門の構成と法務担当者の位置付け
- Ⅱ 法務部門の役割
- Ⅲ 法務組織の管理・運営
- Ⅳ 弁護士
- Ⅴ 法律事務の分担状況
- Ⅵ 企業法務部門の将来
本中間報告では、主要な設問に関する回答状況およびそれらの回答結果に関する分析が掲載されているが、本稿では、その中から数点取り上げて考察したい。
⑴ 法務部門の位置づけと構成
本中間報告によれば、社内において法務専門部門を置いている企業は、回答企業のうち69.3%である。企業の法務担当者の配置に関しては、1つの事業所に集中している企業が89.4%を占める一方、企業規模や法務部門の規模が大きな企業を中心に、複数の事業所に分散しているとの回答も一定数あった。後者のうち、72.7%は、本社法務部門が各事業所の法務担当者に対して、定期的に報告させる仕組みを構築しているとの回答であった。
次に、法務部門内の構成について、法務担当者数は、各社平均で8.4名である。法務経験のある中途採用者も、2000年の調査以降、在籍企業数・人員ともに一貫して増加傾向がみられ、法務担当者の採用(配属)方針についても、中途採用を活用する企業が 6割以上を占めた。
また、日本の弁護士資格保有者についても年々増加傾向にあり、今や3社に1社程度の法務部門に日本の弁護士資格保有者が所属するという状況になっている。
多くの企業の法務部門では、案件ごとに担当者が割り振られ、個々の法務担当者が経験値として習得していく情報・知識・知恵・経験等(以下「ナレッジ」)が横展開されにくい傾向がある。ナレッジの属人化は、多くの企業が抱える課題ともいえる。
他方で、本調査の回答結果でも示された中途採用者の増加傾向に見られるとおり、法務人材は、以前に比べて流動的な傾向が強まっている。そのため、担当者変更が生じる場面も多く、その都度「引継ぎ」が必要となる。
そのような状況下において、担当者引継ぎ「のため」の作業を大幅に削減し、担当者変更による業務への影響を最小限に抑えるためには、法務部門内におけるナレッジの蓄積、共有を行うための仕組みづくり(ナレッジ・マネジメント)を行っていくことが不可欠である。
ナレッジ・マネジメントは、業務の効率化や生産性の向上に資することはもちろん、法務人材の育成や、法的アドバイスに関する内容の一貫性を担保するという観点からもきわめて重要である。そのような意味で、ナレッジ・マネジメントへの取組みは、社内における法務部門の存在価値を大きく左右し得るといっても過言ではない[1]。
⑵ 法務部門の役割・経営陣との関係
本中間報告によれば、法務部門の役割としては、9割を超える企業がリスク予防への取組みを重視しており、その他は、重要案件対応、紛争・訴訟対応、コーポレートガバナンス等、各社の事情に応じてばらつきがみられる。
重要案件への関与度合いに関しては、「重要案件などの事前検討会に出席して法的見解を述べている」が50.0%、「経営判断の前に、担当取締役や社長に対して法的見解を述べている」が46.0%、「役員会等に出席して、案件に関連して法的見解を述べている」が28.1%であった。また、法務部門が重要な経営判断の際に経営陣から判断・意見を求められるかとの質問に対しては、約8割(79.9%)の企業で法務部門が重要な経営判断に関与する機会があるとの回答結果が得られており、本中間報告においても、法務部門が経営陣に対して影響力を行使する機会を得ているとの分析がなされている。
2019年に経済産業省が公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」によれば、法務機能は、ガーディアン機能(守り)とパートナー機能(攻め)に区分され、さらに後者は、ナビゲーション機能とクリエーション機能に区分されている。同報告書では、ガーディアン機能とナビゲーション機能を中心とした従来からの法務部門の役割に加えて、クリエーション機能の充実化を提案している。
本中間報告の内容からも、企業の重要な経営判断において、法務部門が果たす役割がより大きくなってきていることが窺われ、今後ますますクリエーション機能の重要性は高まっていくものと思われる。
⑶ 法務部門における契約書審査とリーガルテック導入への動き
本中間報告によれば、法務部門における契約書の作成・審査の過程への関与や管理方法については、「標準的な取引について、契約書のひな形を作成している」との回答が81.4%、次いで「契約書について法務部門の審査を受けるルールがある」との回答が70.2%となった。
また、契約書に関する業務の IT 化については、 文書管理システムを導入している企業が4分の1程度、電子署名・電子契約サービスは 15%強、AI を活用した契約書作成・審査サービスの利用については、10%を超える企業において導入されているとの回答があった。この点に関しては、コロナ禍の下でのリモートワークの普及やDXの進展などがみられ、これらによる法務の業務効率化の認識が高まったことが背景にあるものと分析されている。(下図参照)
出所:経営法友会「第12次 法務部門実態調査」中間報告10頁
「契約書の管理についてお答えください(複数回答可)」との設問に対する回答結果
2019年頃から日本においてリーガルテックのブームが到来して以降、次々と新たなサービスが展開されている。さらに、コロナ禍による“追い風”を受けて、リーガルテックの具体的な導入を検討する企業は急増している。
リーガルテックは、業務効率化を推進するために積極的に活用するべきであるが、導入に当たっては、現状の業務プロセスを見直し、まずはオペレーションの改善を試みることが必要である。その上で、テクノロジーを導入することにより効果が得られる業務は何か、自社の課題を解決し得るテクノロジーは何か、といった視点で最適なサービスを選定していく。このような業務の整流化を丁寧に行うことは、リーガルテック導入を成功に導くための重要なポイントである。
上記のようなアプローチは、「リーガルオペレーションズ」改善の取組みとして近年注目されており、リーガルオペレーションズの改善に関する議論も活発化している[2]。
3 おわりに
本中間報告は、あくまでも暫定的なものであり、今後、企業の属性や法務部門のパフォーマンスに影響があると思われるカテゴリーごとのクロス集計により、より詳細な事情を明らかにする方向で検討が進められているとのことである。
今秋公表予定の最終報告における分析結果についても、注目していきたい。
[1] 拙著『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務、2020)12頁以下を参照されたい。
[2] 日本版リーガルオペレーションズ研究会「日本版リーガルオペレーションズのすゝめ」NBL1191号(2021)1頁によれば、同研究会では、2021年を「日本版リーガルオペレーションズ元年」と捉え、リーガルオペレーションズに関する議論を促進している。
(かどなが・まき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業弁護士。2005年慶應義塾大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年1月Chief Knowledge Officer就任。
外資系メーカー、大手総合商社など複数の出向経験を有し、2017年よりナレッジ・マネジメントを専門として、主に所内のナレッジ・マネジメント業務に従事する他、所外向けにもナレッジ・マネジメントに関するセミナーを多数行っている。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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