ベトナム:新労働法による変更点⑪
セクシャルハラスメント(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
新労働法(45/2019/QH14、以下「新法」)が2021年1月1日に施行されました。本稿では、引き続き新法による変更点を解説していきます。職場におけるセクシャルハラスメントの解説の続きです。
2 使用者の取るべきセクハラの予防・対応策
使用者が取るべきセクハラの予防・対応策は、次のような基本的内容を含む必要があるとされています(同政令第85条)。この予防・対応策は、就業規則に規定される必要があります。
- ・ 職場におけるセクハラ行為は厳禁であること。
- ・ 業務と職場の性質と特徴に適した、職場におけるセクハラ行為を詳しく、具体的に規定すること。
- ・ 不服申立て・告訴・告発とそれらの解決の責任、期限、手順、手続及び関連するその他の規定を含む、職場におけるセクハラ行為についての内部処分の責任、期限、手順と手順。
- ・ 違反行為の性質と程度に応じた、セクハラ行為を行った者又は虚偽の告訴告発告をした者に対する労働規律処分の形式。
- ・ 被害者への損害賠償と影響の克服措置。
なお、セクハラの不服申立て・告訴・告発及び処分に関しては、迅速にかつ遅滞なく行うこと、被害者や不服申立者・告発者の秘密、名誉、威信、人格、安全を守るという原則が遵守されなければならないとされています。
政令では、労働者や労働者代表組織に対しても、セクハラ防止に努めること、セクハラのない労働環境づくりに協力すること等を求めています。
3 就業規則への規定
就業規則には、使用者が取るべきセクハラの予防・対応策に関する内容をすべて含む必要がありますが、詳細な規定が求められているため、非常に大部にわたることが想定されます。そのため、就業規則に直接規定するのではなく、就業規則の別紙として作成することも認められます。
また、政令の規定もまだ抽象的なもので、具体的な規定にまで落とし込むにはさらなる検討が必要です。その際に参考になる一例として、労働傷病兵社会省、ベトナム労働総同盟及びベトナム商工会議所(VCCI)が作成した2015年5月25日付「ベトナムの職場でのセクハラに関する行動規範」が参考になると思いますので、一度ご覧になることをお勧めします。
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。
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