◇SH0289◇ベトナム:新労働法の細則を定める法令第05号の施行(雇用契約・賃金) 田島圭貴(2015/04/15)

未分類

ベトナム:新労働法の細則を定める法令第05号の施行(雇用契約・賃金)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 田 島 圭 貴

 2013年5月1日に新労働法が施行されてから、その細則を規定する多くの法令が公布・施行されているが、2015年1月12日、雇用契約、団体交渉・労働協約、賃金、懲戒処分・物的責任及び労働争議に関する労働法の細則について規定する法令第05/2015/ND-CP号(「法令05号」)が公布された。この法令05号は、2015年3月1日から既に施行されているが、同施行日より前に締結又は施行済みの雇用契約、労働協約、就業規則その他の労務制度についても、関係当事者はそれらの内容を見直し、同法令の内容に従って修正しなければならないとされている(法令05号38条1項)。したがって、法令05号の施行日以降に締結又は施行した雇用契約、労働協約、就業規則その他の労務制度が法令05号の内容に準拠していなければならないことはもとより、同施行日より前に締結又は施行した既存の雇用契約、労働協約、就業規則その他の労務制度についても、法令05号の内容に準拠しているかについて確認のうえ、必要に応じて修正しなければならないことに注意が必要である。本稿では、法令05号の内容のうち、特に関心が高いと思われる雇用契約と賃金に関する規定について解説する。

1.  雇用契約

  • 法令05号では、労働法が定める雇用契約の必要的記載事項(労働法23条1項)の各項目が明確化された(法令05号4条)。例えば、労働法では「雇用者の名称及び住所」とのみ規定されていたところについて、法令05号では、雇用者の法的代表者等の氏名、生年月日、身分証番号、現住所及び雇用者内における肩書も含まれることが明確化された(法令05号4条1項(c))。また、労働法では「就業時間」とのみ規定されていたところについて、法令05号では、休憩時間の始期及び終期が含まれることが明確化された(法令05号4条7項(b))。

  • 法令05号では、雇用契約の期間に関して変更契約による変更が許されるのは、原則として1回のみであるとされた(但し、当該雇用契約の種類を変更することはできない。法令05号5条)。

  • 労働法では、労働者が試用期間中に要件を満たした場合は、雇用者は当該労働者との間で雇用契約を締結しなければならないと規定されていたが(労働法29条1項)、これに関して、法令05号では、試用期間の上限が60日又は30日の場合は試用期間満了の3日前までに、試用期間の上限が6日の場合は試用期間満了時に、かかる試用の結果について労働者に通知しなければならないとされた(法令05号7条)。また、法令05号では、労働者が試用期間中に要件を満たした場合は、「直ちに」雇用契約を締結しなければならないことが明確化された(同7条)。

  • 法令05号では、労働法が定める雇用者からの一方的な雇用契約の解除事由(労働法38条1項)の明確化がなされた(法令05号12条)。具体的には、「雇用契約上の条件に従った業務の遂行を繰り返し懈怠する場合」(労働法38条1項(a))という解除事由について、法令05号では、雇用者は、かかる場合に該当するか否かの判断基準を、労働者代表組織の意見を聴取した上で、社内規則により明確化しなければならないとされた(法令05号12条1項)。また、「その他の不可抗力により」(労働法38条1項(c))という規定について、法令05号では、戦闘行為、伝染病、及びベトナム政府の要求による生産拠点又は事業拠点の移転又は縮小を意味することが明確化された(法令05号12条2項)。

2.  賃金

  • ベトナム国内における外貨使用の制限に関する通達32/2013/TT-NHNN号(2014年2月10日施行)により、ベトナム非居住者及び外国人であるベトナム居住者に対する賃金は外貨建てで合意することが認められているが(同4条14項)、法令05号は、上記の場合を除き、賃金はベトナムドン建てで合意されなければならないことについて確認した(法令05号21条3項)。

  • 労働法上、労働者の未消化の有給休暇について雇用者の買取義務が規定されているが(労働法114条)、法令05号では、かかる買取額の算定方法が明確化された(法令05号26条3項、4項)。

(勤続6か月以上の場合)

買取額=(直近6か月間の平均月給額/買取の前月の勤務日数)×未消化の有給休暇の日数

(勤続6か月未満の場合)

買取額=(全雇用期間の平均月給額/買取の前月の勤務日数)×未消化の有給休暇の日数

 

(たじま・きよたか)

2005年京都大学法学部卒業、2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2012年University of Southern California Gould School of Law卒業(LL.M.)、2012年~2013年Amarchand & Mangaldas & Suresh A. Shroff & Co.(New Delhi)勤務、2014年~長島・大野・常松法律事務所ホーチミン・オフィス勤務。ベトナム及び周辺諸国への日系企業の進出、M&A、現地子会社の管理・再編、競争法への対応等、企業法務全般にわたり日系企業の支援を行なっている。

長島・大野・常松法律事務所      www.noandt.com

長島・大野・常松法律事務所は、弁護士約350 名が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野に対応できるワンストップファームとして、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

東京オフィスにおいてアジア法務を取り扱う「中国プラクティスグループ(CPG)」及び「アジアプラクティスグループ(APG)」、並びにアジアプラクティスの現地拠点であるシンガポール・オフィス、バンコク・オフィス、ホーチミン・オフィス、ハノイ・オフィス、上海オフィス及びアジアの他の主要な都市に駐在する当事務所の日本人弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携・人的交流を含めた長年の協力関係も活かして、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を効率的に支援する体制を整えております。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

 
 
タイトルとURLをコピーしました