ベトナム:労働組合費の支払
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
最近、社内に企業内労働組合がない会社に対して、その地区の労働組合から労働組合費を払えという請求が来たという話をよく聞く。労働組合の自主性を担保するため、雇用者が労働組合に対して経理上の支援をすることが禁止されている日本の感覚からすると、労働組合費を会社が払うこと自体に違和感がある上、社内に労働組合がない場合にまでこれを負担するのは不合理ではないかと思われるが、ベトナムでは法令上、この労働組合費を支払う必要があることになっているため、留意が必要である。
ベトナムにおいて、労働組合は労働者が自主的に設立するべきもので、企業内労働組合の設置は雇用者の義務ではない(労働組合法6条)。但し、企業に就労しているベトナム人労働者は、労働組合を結成し、これに加入し活動する権利を有し(労働法189条1項、労働組合法5条)、雇用者が労働組合の設立を妨害することも強制することも禁止されている(労働法190条1項及び2項)。実際のところ、日系の企業でも、労働者が多い製造業では労働組合が存在しているところが多いものの、規模の小さいサービス業等では存在しないところが多い。
そして、政令191/2013/ND-CP号4条において、企業内労働組合の有無にかかわらず、全ての企業が労働組合費を支払う義務があることが明記されている。その金額は、労働者が社会保険へ納付する際の基準となる賃金基本額(社会保険に関する法律上、社会保険に強制加入している労働者に支払われる賃金の総額をいう(政令191/2013/ND-CP号5条))の2%である(労働組合法26条2項)。企業内労働組合がない企業に対しては、省級又は直属の上部労働組合がこの金額を徴収することになっている(労働総同盟(VGCL)決定第1935/QD-TLD号4条)。
政令191号が施行されて企業内労働組合がなくとも労働組合費の支払義務があることが明確にされたのは2014年1月であるが、その直後はこの点はあまり認識されていなかったかもしれない。しかし、2015年10月25日から施行されている政令88/2015/ND-CP号により政令95/2013/ND-CP号が改正され、その24c条において、労働組合費未払いについての最大7500万VNDの罰則が明記されて以降、実際に上部労働組合から請求が来たという話も多くなってきたようである。また、就業規則を登録するに当たって、企業内労働組合がない場合には上部労働組合との協議が必要であるところ、労働組合を支払っていないとその協議に応じてもらえないという問題も発生している。
なお、企業内労働組合が存在する場合には、雇用者が支払う労働組合費のうち65%はその企業内組合において運用され、残りの35%は上部労働組合に上納されることになっている(労働総同盟決定第1935/QD-TLD号6条1項)。地域によっても異なるようであるが、企業内労働組合が存在しない場合でも、一定の手続きを行えば、雇用者が上部労働組合に支払った労働組合費のうち65%が、その企業の従業員代表に戻ってきて、企業内の福利厚生に利用できることもあるので、あわせて確認されたい。