国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第18回 第4章・Variation及びAdjustment(1)――工事等の内容の変更
京都大学特命教授 大 本 俊 彦
森・濱田松本法律事務所
弁護士 関 戸 麦
弁護士 高 橋 茜 莉
第18回 第4章・Variation及びAdjustment(1)――工事等の内容の変更
1 Variationの意義及び種類
大規模な建設プロジェクトにおいては、最初に計画したとおりに工事が進むことはほとんどなく、状況に応じて計画を変更する必要に迫られるのが常である。こうした計画変更に対応するうえで重要なのが、Variationという仕組みである(なお、アメリカではChange Orderと呼ぶのが一般的である)。
Variationとは、FIDICの定義によれば、Worksの変更であり(1.1.86項)、Worksとは、契約上、Contractorによる遂行が求められる作業等のことである(1.1.87項、1.1.64項、1.1.80項)。
Variationは、基本的にEngineerによって主導される。これは、Engineerはプロジェクトを管理するための様々な作業を行う役割を担っているところ、Variationの管理もかかる作業の一環と位置付けられることに起因すると思われる。なお、EngineerがいないSilver Bookにおいては、基本的にEmployerによって主導される。施主としては、最終的な構造物が利用者のニーズに合うことを確保するインセンティブがあるため、Employer側がVariationを主導する建付けは合理的と考えられる。
EngineerがVariationを指示する契機は、大きく分けて2つである。1つは、Employerの要望による場合であり、資金不足による工事等の縮小もこれに含まれる。もう1つは、Engineerの専門家としての判断に基づき、工事等の適切な遂行のため、作業の追加や変更を行う場合である。なお、この2つは連動することもある。例としては、Engineerの専門家としての判断によるVariationが多数に上った結果、コストも多額に上り、Employerの資金が不足して工事等の縮小を行う場合などが考えられる。
Engineer(Silver Bookの場合にはEmployer)によって主導されるVariationには、強制的なものと、Contractorからの提案を通じて行われるものの2種類がある。一方、例外的に、Contractorが主導するVariationもある。今回から、それぞれのVariationについて、3回にわたって論じる。
2 Engineerによる強制的なVariation
⑴ 要件及び効果
「Variation」という単語の意味は、「変化」や「変動」であり、まさにこれがVariationの効果である。すなわち、VariationによりWorksが「変化」し、工事等の内容という契約内容が変更されるということである。これは、Contractorから見ると義務内容の変更であり、Employerから見ると権利内容の変更である。
Red Bookでは、Variationに当たる変更には、以下の変更が含まれると明示されている(13.1項)。
- ▶ 作業項目の量の変更(ただし、これにはVariationに該当しないものもある)
- ▶ 作業項目の品質または性質の変更
- ▶ 高さ、配置または寸法の変更
- ▶ 作業の削減
- ▶ 作業、機材、資材またはサービスの追加
- ▶ 作業の順序やタイミングの変更
これらはあくまで例であり、要件ではないため、変更内容が上記のいずれかに当てはまらなければVariationに当たらないというわけではない。たとえば、建物の外壁の色を、元の計画で指定されていたものから変更する場合でも、Variationに当たり得る(ただし、「作業項目の品質または性質」等の文言は広く解釈できるため、かかる変更もカバーすると解する余地もある)。
強制的なVariationを起こす要件は、原則として、Engineerからの指示(instruction)のみである。換言すれば、Engineerは、その裁量で、適宜Variationとして工事等の内容を変更できるというのが原則である。
ただし、次のような事情がある場合には、ContractorはEngineerに速やかに通知することにより、Variationに異議を唱えることができる(13.1項)。
- ① 契約上指定された仕様における作業等の範囲や性質に鑑みて、合理的に予見できなかった変更の場合
- ② 当該変更のために必要となる機材、資材等を、Contractorが容易に調達できない場合
- ③ 当該変更が、Contractorに義務付けられた健康と安全に関する法令の遵守等(4.8項)および環境保全(4.18項)の履行に悪影響を及ぼす場合
なお、上記の要件および効果は、Yellow BookおよびSliver Bookでも、大きくは異ならない。異なるのは、Yellow BookおよびSilver Bookでは、上記のVariationに当たる変更に含まれる事項の明示がないこと、Silver Bookでは、EngineerではなくEmployerによって、Variationの指示が発せられること、Yellow BookおよびSilver Bookでは、Contractorが異議を唱えることのできる理由が追加されていることである(これは、Yellow BookおよびSilver Bookでは、Red Bookに比べて重い義務がContractorに課されているためと解される)。
⑵ 手続
▶ Engineerからの通知
まず、Engineerが、Contractorに対し、Variationを指示する通知(Notice)を発する(13.3.1項)。これに対するContractorの対応は、次の2通りである。
▶ Contractorが異議を唱える場合
前記 ⑴ の①から③のいずれかの理由により、Variationに異議を唱えるのであれば、上記通知受領後速やかに、Engineerに対し、当該理由の説明資料とともに通知を送付する(13.1項)。
その場合、Engineerは、もとのVariationの指示を、(i)撤回するか、(ii)修正するか、あるいは(iii)修正せずに維持するかを、Contractorに対して通知する(13.1項)。
(i)撤回の場合、Contractorはそれ以上争うことはないが、(ii)修正の場合には、修正後の内容に対しても、前記 ⑴ の①から③のいずれかの理由により、Contractorは再度異議を唱えることができる。
(iii)修正せずに維持された場合は、EngineerがContractorの異議を拒絶する形となるため、Contractorの異議が正当であるか否かをめぐって紛争が発生することとなる。この場合、Contractorには、再度異議を唱え、変更後の作業の遂行を拒むという選択肢も理論的にはあり得るかに見える。ただし、のちに債務不履行等の責任を問われるリスクをできるだけ抑えたいのであれば、変更後の作業等に着手する一方で、DAAB(Dispute Avoidance/Adjudication Board)や仲裁といった紛争解決手続による処理を見据えて、工期延長や追加費用の請求等に関する通知(20.2項)をEngineerに送付しておくのが賢明であろう。
▶ Contractorが異議を唱えない場合
EngineerからのVariationを指示する通知に対し、Contractorが争わない場合、Contractorは、当該通知を受領してから28日以内に、次の各点を記載した通知をEngineerに提出する。
- ① 変更後の作業の詳細
- ② 変更後の作業を遂行するための工程表(コンピュータプログラム、工事等の全体に関するプログラムの変更が必要であれば、その提案)
- ③ 変更後の作業を遂行するために工期の変更が必要であれば、その提案
- ④ 代金額の変更に関する提案
これらのうち、工期の変更および代金の額変更につき、Contractorの提案が受け入れられない場合の手続については、紛争の予防および解決の章で詳述するが、大きな流れは以下のとおりである。
Engineerによる和解協議のあっせん |
↓
Engineerによる暫定的な判断 |
↓
DAAB(Dispute Avoidance/Adjudication Board)による和解協議あっせん |
↓
DAABによる判断 |
↓
(DAABによる判断に異議が唱えられた場合)仲裁廷による判断 |
なお、上記の各手続は、Yellow BookおよびSilver Bookにおいても、特に異ならない。Silver Bookにおいて、Engineerが、EmployerまたはEmployer’s Representativeにとって代わられる程度である。