◇SH0872◇Brexitによる投資離れを回避するために提示される英国からの特別な援助は、EU競争法上問題となるか 亀岡悦子(2016/11/09)

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Brexitによる投資離れを回避するために提示される英国からの特別な援助は、EU競争法上問題となるか

亀 岡 悦 子

 英国がEUからの正式脱退を検討しているため、英国に投資した海外企業は今後の影響を懸念している。そのため、英国政府は、EU離脱の声が多数となった国民投票の後、既に英国に投資している日産に対し、英国のEU離脱後も英国に継続して投資するする点につき懸念がないことを約束する書簡を送っていることが報道された。その結果、2016年秋、欧州委員会は、本件について、欧州委員会に国家援助規制に基づく届け出をしていない英国当局に連絡をし、その書簡によって保証されたと報道されている事柄の内容について情報を求めている。

 EUでは、EU機能条約107条などの規定が国家援助について規定している。EUでは、政府・公共団体による特別な企業への補助金や優遇措置は規制されており、一定の条件の下、欧州委から承認を得るための届け出義務が課されている。租税回避策や好条件での欧州直接投資を求めて投資先を探す多国籍企業に対し、極端な税制優遇措置などにより加盟国が外資誘致をしたり、特定の産業セクターを保護するなどし、他の加盟国との健全な競争を害し、域内市場の競争を害することはEU競争法上違法となる。EUでは、国家援助規制について数多くの判例があり、公共機関による措置、加盟国間の取引への影響の解釈などについて裁判所が判断を下している。

 EU加盟国間の取引に影響を及ぼすことは違法な国家援助の条件の1つであるが、広く解釈されている。すなわち、公共機関によって与えられた優遇措置が、他の企業と比較して、加盟国間取引においてその企業の相対的地位を強化するものであればよい。注意すべきことは、企業・援助の規模、企業の比較的限られた活動地域に関わらず、ほとんどの優遇措置が加盟国間取引に影響すると判断されている。例えば、EUに拠点を置く企業のEU外への輸出に特化した援助であっても、加盟国間の取引に影響を与えると解釈される可能性がある。例外的にこの条件を満たさないと判断されるケースは、EU加盟国外での取引が想定されない場合で、例えば、加盟国内に限った輸送事業、加盟国やその地域限定出版、小規模外食産業などであろう。

 条件を満たす優遇措置は、実際に援助の実施を待つことなく、単なる約束が交わされた段階で違法な国家援助に当たると判断される。欧州委員会によって違法と判断された援助は、利息を付けて返還しなければならない。例えば、英国進出企業の生産する製品のEUへの輸出ついて、英国EU離脱後、現行あるいはより低い関税を許すEU・英国間の取り決めがないため、WTOのルールに従った関税が適用される場合、その企業が支払わなければならない関税増額分を政府が肩代わりしたり、増額に相当する援助を公的機関から受けることができるなどの約束を政府が投資企業と交わした場合、EU国家援助規制上問題となる可能性が高い。

 このような欧州委員会からの国家援助規制に基づく情報提供要請は、本件に限ったものではないが、この件と通して、EUから正式脱退するまで国家援助法を含むEU競争法の規制を遵守する義務がある点を、英国に対し欧州委員会が明らかにしたことが興味深い。

以 上

 

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