国交省、不動産取引における人の死の告知に関して宅建業法上負うべき義務の
解釈をガイドラインとして策定
――宅地建物取引業者に原則として自発的調査義務なし、トラブルの未然防止の観点からは慎重な対応を促す――
国土交通省不動産・建設経済局不動産業課は10月8日、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定したとし、公表した。人の死が生じた不動産の取引に際して宅建業者の判断基準となるよう取りまとめたもので、表紙・目次を含めた全体を10ページに収めた本ガイドラインは「1.本ガイドライン制定の趣旨・背景」から「5.結び」まで全5章で構成されている。
国交省では2020年2月、「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」(座長・中城康彦明海大学不動産学部長。以下「検討会」という)を設置した。「不動産取引において、取引対象の不動産において過去に死亡事故が発生した事実など、心理的瑕疵をどのように取扱うかが課題となっており、このことが、既存住宅市場活性化の阻害の一因となっていることを踏まえ、心理的瑕疵に係る適切な告知、取扱いに係るガイドライン策定に向けた検討を行うことを目的」(検討会開催要項2条)とし、同年2月5日の初会合以後、2021年4月27日までに計6回の会合を開催。同日の審議を経て5月20日、「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」が公表され、6月19日までの意見募集に付された。
その後、9月15日に開かれた第7回会合において、意見募集結果に基づく「パブリックコメントにて寄せられた意見概要と回答(案)」とともに「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(案)」が示され、ガイドライン案の細部の文言調整などについては座長に一任。10月8日、成案となった「パブリックコメントにて寄せられた意見概要と回答」「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が公表されたものである。意見募集の前後において、本ガイドラインが「不動産において過去に人の死が生じた場合において、当該不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応に関し、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、トラブルの未然防止の観点から、現時点において裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と考えられるものを整理し、とりまとめた」と位置付けられる点は同一である。
一方、成案ではガイドラインそのものの名称が変更されているほか、上記「意見概要と回答」によると、寄せられた計218件の意見を踏まえて(ア)「ガイドラインの全体構成を再検討した結果、告げなくてよい範囲を明確化することとし」た、(イ)本ガイドラインが「人の死の告知に関して宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈であることを明記し、また、取引当事者が参考とすべき旨は削除し」た、(ウ)(遺族のプライバシー権への配慮を指摘する意見に対し)「『亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない。』と明記」した、(オ)「案において記載していた判例は削除」した――といった諸調整がみられ、このような点、宅建業者におかれてはとくに留意しておきたい。
公表されたガイドラインは「取引の対象となる不動産において生じた人の死に関する事案」を対象に、人の生活の本拠として用いられる「居住用不動産を取り扱う」ものとされている(「2.本ガイドラインの適用範囲」参照)。そのうえで、宅建業者による「3.調査について」および「4.告知について」を規定。
上記3の調査に関しては、宅建業者が負う「販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行うべき業務上の一般的な義務」を指摘しつつ、①ただし、人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、人の死に関する事案が発生したか否かを自発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上は認められないことを明記した。しかしながら、通常の情報収集等の調査過程において、②(a)売主・貸主・管理業者から過去に人の死に関する事案が発生したことを知らされた場合や自ら事案が発生したことを認識した場合であって(b)この事実が取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合、宅建業者は買主・借主に対してこれを告げなければならない。
媒介を行う宅建業者の調査義務は、具体的には「売主・貸主に対して、告知書(物件状況等報告書)その他の書面(以下「告知書等」という。)に過去に生じた事案についての記載を求めること」で通常の情報収集としての義務を果たしたものとされる。(i)告知書等に記載されなかった事案の存在が後日に判明した場合には、当該宅建業者に重大な過失がない限り、人の死に関する事案に関する調査は適正になされたものとされ、また(ii)照会先の売主・貸主・管理業者より事案の有無・内容について不明であると回答された場合または回答がなかった場合も、宅建業者に重大な過失がない限り、照会を行った事実をもって調査はなされたものとされる。一方、(iii)告知書等により売主・貸主からの告知がない場合であっても、人の死に関する事案の存在を疑う事情があるときは、宅建業者において売主・貸主に確認する必要がある。なお、告知書等への売主・貸主による記載に際し、宅建業者は「記載が適切に行われるよう必要に応じて助言する」こと、「事案の存在について故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝える」ことが望ましいとされている。
上記4の告知については、まず「(1)宅地建物取引業者が告げなくてもよい場合について」として、「①賃貸借取引及び売買取引の対象不動産において自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合」「②賃貸借取引の対象不動産において①以外の死が発生又は特殊清掃等が行われることとなった①の死が発覚して、その後概ね3年が経過した場合」「③賃貸借取引及び売買取引の対象不動産の隣接住戸又は借主若しくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において①以外の死が発生した場合又は①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合」の一般的な基準を提示。続いて「(2)上記(1)①~③以外の場合」「(3)買主・借主から問われた場合及び買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等」について示す。
上記①は原則として「賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、これを告げなくてもよい」とされる場合である。ポイントとなる視点は「日常生活の中で生じた不慮の事故による死については、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、これが買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられる」ことであるが、「過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等(以下「特殊清掃等」という。)が行われた場合」については「買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられる」ことから、上記②・③および(2)に従うものとされている。
上記②は、かかる場合に「①以外の死が発生又は特殊清掃等が行われることとなった①の死が発覚してから概ね3年間を経過した後は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい」とする基準であり、ただし「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」とした。上記③の基準も、結論として②と同様に「原則として、これを告げなくてもよい」としつつ、事件性等が特に高い事案を例外としたものである。
上記(2)の「(1)①~③以外の場合」には、宅建業者は「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、買主・借主に対してこれを告げなければならない」こととされている。また(3)は、要すれば「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる」場合等について、宅建業者が上述の「調査を通じて判明した点を告げる必要がある」とする基準となっている。
本ガイドラインにおける上記「4.告知について」の最終項目には「(4)留意事項」が置かれ、①亡くなった方やその遺族等の名誉および生活の平穏に十分配慮し、不当に侵害することのないようにする必要があること、したがって、②氏名、年齢、 住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はないこと、また、③買主・借主に事案の存在を告げる際には後日のトラブル防止の観点から「書面の交付等によることが望ましい」ことが掲げられている。