SH3995 監査役協会、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点 ―公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に―」を公表 藤田浩貴(2022/05/13)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

監査役協会、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点―公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に―」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

 

1 公益通報者保護法の改正

 令和2年6月8日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)が成立し、同月12日に公布された。同法律は、令和4年6月1日から施行される予定であるが、改正の概要は以下のとおりである(当該改正後の公益通報者保護法を、以下「改正法」という。)。

 

出典:消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律の概要」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system
/overview/assets/overview_200615_0001.pdf

 

 公益通報者保護法の改正を受け、日本監査役協会は、監査役、監査委員又は監査等委員(以下「監査役等」という。)としての留意点を明確にすべく、消費者庁に照会を行い、令和4年4月25日、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点 ―公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に―」(以下「本留意点」という。)を公表した。

 以下では、本留意点のうち、(a)内部公益通報受付窓口となっていない監査役等を改正法11条1項で定める公益通報対応業務従事者(以下「業務従事者」という。)として指定しなければならない場合はどのような場合か、(b)業務従事者の監査役等に対する情報提供は改正法12条で定める守秘義務に違反しないかという各論点に関するQ&Aを取り上げ、解説することとしたい。

 

2 監査役等を業務従事者として指定する必要がある場合(Q&A2-1~2-4)

 改正法では、事業者は、以下の①及び②を満たす者を業務従事者として定めなければならないとされている[1]

  1. ① 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務(公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務)を行う者
  2. ② 当該業務に関して公益通報者を特定させる事項(以下「通報者特定事項」という。)を伝達される者

 そして、「公益通報対応業務」については、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に、「公益通報対応業務」に該当するとされている[2]

 この点、監査役等が内部公益通報受付窓口として指定されている場合には監査役等を業務従事者として指定する必要があると考えられる。他方、本留意点によれば、監査役等が内部公益通報受付窓口として指定されていない場合であっても、監査役等がその職務に関して通報者特定事項を伝達される場合には、業務従事者に指定する必要が生じ得る。

 すなわち、まず、内部通報に関する情報が監査役等に対して定期的に報告される体制、又は内部通報が行われる都度、その内容について監査役等にも報告される体制が構築されている場合において、監査役等に対して通報者特定事項を含む形で報告がなされたときは、監査役等は、業務従事者に指定される必要があると解される。

 確かに、理論上は、監査役等が報告を受けた具体的な内部通報について、内部通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行ったり、又は当該業務の重要部分について関与したりすることが想定されていない場合には、当該監査役等は、「公益通報対応業務」を行う者ではないため、当該監査役等を業務従事者に指定する必要はないということになるとも考えられる。

 もっとも、実際には、監査役等において、「調査、是正に必要な措置」を行うことが想定されていないにもかかわらず、通報者特定事項を含む形で監査役等が報告を受けることは考えにくく、通報者特定事項をも含む形で報告を受けている場合には、監査役等は、報告を受けた具体的な内部通報について、当該通報者に対する聞き取り調査等を含め、「調査、是正に必要な措置」を行うことが想定されているといえる。

 したがって、監査役等に対して通報者特定事項を含む形で報告がなされたときは、監査役等を業務従事者に指定する必要があると解される(Q2-1-1~Q2-2-2)。

 また、監査役等は、会社の業務及び財産の状況に対する調査権、取締役等及び支配人その他の使用人に対する報告徴求権並びに取締役の目的外行為その他法令・定款違反行為の差止請求権(以下「調査権等」という。)を有している(会社法381条2項、385条1項、399条の3第1項、399条の6第1項、405条1項、407条1項)。

 監査役等が、調査権等を行使し通報者特定事項を入手した場合、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行ったといえるので、業務従事者に指定される必要があると解される(Q2-3)。

 なお、監査役等が調査権等を行使した結果、業務従事者に指定されるべき要件を満たした場合、事業者の側において、当該監査役等を業務従事者に指定する必要があることに留意が必要である(Q2-4)。

 

3 監査役等への情報提供と守秘義務違反(Q&A2-5)

 業務従事者又は業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとされており(改正法12条)、これに違反した場合、30万円以下の罰金に処されることになる(改正法21条)。

 そこで、業務従事者が前記の調査権等を行使した監査役等に対して「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの」を情報提供した場合、当該業務従事者は、改正法12条の守秘義務違反となるか(それとも、改正法12条の「正当な理由」があるといえるか)が問題となる。

 この点、「正当な理由」がある場合とは、漏らす行為に違法性がないとして許容される場合をいい、例えば、公益通報者本人の同意がある場合のほか、法令に基づく場合や、調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合等が想定されている[3]

 したがって、業務従事者が会社法上の監査役等の調査権等の行使に応じるために情報提供を行う場合、「法令に基づく」場合に該当し、「正当な理由」があると認められるといえ、改正法12条の違反とはならないと考えられる。

 もっとも、通報者保護の観点から、監査業務遂行上の支障がない限り、通報者特定事項は情報提供の範囲から外す等の通報者保護への配慮が求められることに留意が必要である。

 また、法令に基づく情報提供として「正当な理由」が認められる場合であっても、当該情報提供により、監査役等を業務従事者に指定すべき条件を満たした場合には、当該監査役等を業務従事者に指定する必要があることに留意されたい(以上につき、Q&A2-5)。

 

4 まとめ

 前記のとおり、公益通報者保護法の改正に伴い、事業者は、業務従事者を指定しなければならないことになった。

 事業者において、監査役等を業務従事者に指定しようと考える場合には、監査役等の権限等との関係で疑問が生じる可能性があり、その際には、本留意点が役に立つであろう。

 どのような者を業務従事者に指定することが適切かについては、今後の事例の集積を待つ必要があるが、前記のとおり、監査役等が調査権等を行使した結果、業務従事者に指定されるべき要件を満たした場合、事業者の側において、当該監査役等を業務従事者に指定する必要があると解される。事業者としては、予め監査役等を業務従事者として指定しておくことも1つの手段として考えられるであろう。

以 上



[1] 改正後の公益通報者保護法11条1項、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)第3の1〔2頁〕
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system
/overview/assets/overview_210820_0001.pdf

[2] 「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」第3のⅠ1③〔5頁〕
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system
/overview/assets/overview_211013_0001.pdf

[3] 「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」第2の1脚注32〔19頁〕
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials
/review_meeting_003/assets/review_meeting_001_210421_0001.pdf

 


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(ふじた・ひろき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年大阪大学法学部卒業。2015年京都大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>
〒100-6315 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング15階 電話 03-3214-6205(代表)

 

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