◇SH4022◇中国:上海ロックダウンとその影響、関連する法律問題(1) 若江悠(2022/06/09)

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中国:上海ロックダウンとその影響、関連する法律問題(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 2,500万人の人口を擁する中国随一の国際経済都市である上海市において新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウン措置がとられ、すでに1ヶ月半が経とうとしている。本稿では、感染状況及びロックダウン措置の概要とともに、関連する法律問題のうち、操業停止及び操業再開に関連する契約上の問題点について紹介する。

 

1 上海における新型コロナウイルスの感染急増とロックダウン措置

 中国では、2020年1月に武漢で新型コロナウイルス感染者が報告されて以降、同市の封鎖を行うなど厳しい措置がとられ、同年4月上旬にはコロナをほぼ封じ込め、その後は、海外からの入国者や貨物等を起点として一部の都市で散発的に市中感染が発生することがあっても、早期に発見、追跡し、隔離することで、市中の感染者数をほぼゼロに抑えるいわゆる「動態清零」(動態的ゼロコロナ)戦略がとられ、国際的な人の移動についてはビザの発出や入国後集中隔離など制限があるものの、中国国内では、会食や出張、旅行を含めてほぼコロナ前と変わらない社会生活や経済活動が可能になっていた。

 上海市においてもこの2年間、数ヶ月に一度、少数の市中感染が発生したことがあったがいずれも局地的で、短期間のうちに収束した。特に上海市では、全都市ロックダウンを行うのではなく、徹底した接触者追跡(contact tracing)、濃厚接触者や関連者などの対象者に限って移動制限措置、複数回のPCR検査を行い、中国の他の都市と比しても、社会生活や経済活動に極力影響を与えずに感染を早期に封じ込める手法(「精准防控」(精密コントロール)、「上海モデル」などと呼ばれた。)が採用されていた。これにより2022年2月末までの上海市における累計市内感染者数は426人(無症状感染者を含む。以下同じ。)で、累計死者数は7人(2020年4月中旬以降はゼロ)であった。

 しかし、2022年3月、おそらくは当時感染爆発していた香港からの入境者の隔離ホテルからの漏れ出しを端緒として、上海市においてオミクロンBA.2変異株の市中感染拡大が始まった。学校はいちはやくオンライン授業に移行したものの、当初は精密コントロールが堅持され、関連する場所や職場の短期的封鎖と全員検査、小区(一定の敷地を有するマンション群の区画)単位でのグリッド式全員スクリーニング検査などが試みられたが、指数関数的な感染者急増が続いた。すなわち、一日あたり新規感染者数が3月13日には100人、同月24日には1,000人を超え、4月初旬には2万人を超えるなど、3月以降の累計感染者数は60万人を超え、(中国製ワクチンも重症及び死亡防止には効果があるとされるが、中国では高齢者の未接種者が多いこともあり)死者数も約600人に及んでいる(5月10日現在、以下別途記載ない限り同じ。)。

 この状況を受け、上海のうち黄浦江の東側、つまり浦東は3月25日から、西側の浦西は4月1日から、原則として市民全員を対象に、小区敷地内で行われるPCR検査以外には自分の家から外に出てはならない(足不出戸)との厳格なロックダウン措置がとられるに至った。特別に操業が許されているもの(下記で詳述)を除き、上海市内のオフィスや工場は閉鎖され、政府機関の窓口も基本的に閉鎖されている。銀行、物流(通行許可証が必要)や、食料を含む必要物資の小売(ネットショップや団体購入)等の分野は、一部人員が「閉環」管理に服して事業を継続しているが、日常生活や業務に支障をきたす事態も少なからず発生している。

 ロックダウン中のPCR検査の結果を踏まえ、4月中旬以降は全市を対象に、市内各地の感染状況に応じて「封控区」(7日以内に感染者が1人でも出た小区。家から外に出られない。)、「管控区」(8日以上14日以内に感染者が1人でも出た小区。小区内での活動のみ可能。)及び「防范区」(14日以内に1人も感染者が出ていない小区)の三区に分類する三区管理が行われている。本来は居住する行政区域内であれば小区の外に出てもよいとされる「防范区」の住民が1,800万人を超えたとされるが、それら住民の多くも、「管控区」に準じて小区の外に出ることができないとするなどの制限が課せられている。

 現状、感染者数は減少を続けており、5月16日現在、すでに1日の新規感染者数が1,000人を下回る水準となっている。また、5月1日時点では一部の区のみが「社会面基本ゼロコロナ」(「封控区」住民や隔離措置を受ける濃厚接触者などの中で発見される感染者を除いた、「社会面」での日毎新規感染者数が10万人あたり1人以下を3日間連続して満たすことが基準とされる。)を満たしていたが、5月16日には、上海市全体で「社会面ゼロコロナ」(「社会面」での1日の新規感染者数がゼロを3日間連続して満たすこと)が達成された。今後、5月16日から5月21日まで、5月22日から5月31日まで、6月1日から6月中下旬までの3つの段階に分けて、正常の生産生活秩序を回復するものとされている。

 内外資問わず多くの企業の研究開発、生産、販売、物流拠点が所在するこの上海で、過去に例のない規模の厳格なロックダウンが実施されたことの影響は大きく、上海に拠点を有する日系企業をはじめ、中国に関連する事業を行う企業は何かしらの対応を余儀なくされている。

(2)につづく


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(わかえ・ゆう)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。

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