ベトナム:新投資法第9次草案
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
ベトナムでは10月20日、第13期第8回国会が開幕した。投資に関連する重要な法律の新法が今年秋の国会で成立することが予定されている旨は、以前の記事(タイムライン6月23日及び7月31日)でもご紹介したとおりである。しかしながら、その後、様々な権益を持つ関係省庁・部局との調整などもあり、これらの新法の草案には度々修正が加えられている。今国会で実際に審議されている新法の草案の内容については、現時点では定かではない。しかし、例えば、新投資法の草案として入手している中では最新の第9次草案では、以前の記事でご紹介した草案の内容からは大きく変わった点も少なくなく、今国会で審議される草案も、第9次草案とほぼ同様の内容である可能性が高い。以下では、現時点で入手できている最新の情報をもとに、以前の記事でご紹介した内容から大きく変更された代表的な点をご紹介したい。
1 外国企業による投資の場合には、常に投資登録証を取得する必要がある?
新投資法における改正点の中で一つの目玉ともされていた点は、以前ご紹介した、「取得に時間を要する投資登録証を取得しなければならないのは、所定の条件付投資分野に投資する場合に限定され、それ以外は、投資優遇措置を受けたい場合などの一定の場合に、投資家が任意に取得すればよい」とする枠組みが採用されていた点である(タイムライン6月23日参照)。その後変更が加えられた第5次草案では、投資登録証を取得しなくてもよい場合には投資通知を行う必要があることが盛り込まれたが、条件付投資分野への投資でなければ投資登録証の取得は不要という大きな枠組みは維持されていた(タイムライン7月31日参照)。しかしながら、第9次草案では、かかる枠組み自体が変更され、外国企業等がベトナムに子会社等を設立する場合には、所定の条件付分野への投資であるか否かを問わず、常に投資登録証を取得しなければならないとされた。ベトナムに進出している日系企業の約半数は製造業と言われているが、製造業は条件付投資分野ではないため、第5次草案の内容を前提とすれば、投資優遇措置を得ようとする場合などを除き、ベトナムローカル企業と同様の簡便な企業登録証を取得すれば良かったが、第9次草案の内容を前提とすれば、常に投資登録証を取得しなければならず、現行法の下での取り扱いとほぼ同様の結論になることが想定される。
2 事業目的による制限
タイムライン7月31日の記事でご紹介したとおり、新企業法の草案では、企業は法律上禁止されていない範囲内で事業目的を自由に選択し、それを実施することができることとされており、かかる枠組みは、今国会で審議される新企業法の草案でも維持されているようである。しかしながら、上記のとおり、新投資法上、外資企業等による投資については投資登録証の取得が常に必要とされる場合には、投資登録証上、投資プロジェクトの目的・内容が特定される結果、外資系企業が行うことができる事業目的は、投資登録証に記載の事業目的に限定され、結果として、仮に新企業法が改正されたとしても、外資系企業にとっては、現状の取扱いと何ら変更はないということになるのではないかと危惧される。
3 まとめ
昨年から今年にかけ、新労働法や新憲法などが施行されてきたが、これらにおいても新法の草案段階では外国投資家からの要望を踏まえた改正案が検討されつつ、その後の国会での審議の過程などを経て押し戻され、ふたを開けてみれば大きな変更はなかったという点は少なからず見受けられた。今回の新投資法及び新企業法においても、結局は同じではないかという冷めた見方があるのも事実である。他方で、新企業法の草案作成担当者は、今月東京で開催されたセミナーにおいて、「外国投資家から見て、より魅力的な投資環境となること」を新企業法草案作成の基本方針に掲げていることを強調し、その熱い想いを語っていた。現在の予定では、11月下旬にこれらの新法は国会で成立することが想定されているが、最終的にどのような内容で落ち着くのか、注意深く見守りたい。