最新実務:スポーツビジネスと企業法務
NFTのマーケティングの法的留意点(3)
―エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に―
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎
フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ
3 NFTのガチャ・パッケージ販売(ランダム型販売)
⑴ 賭博への該当性
- ア ガチャ・パッケージ販売の問題点
- 海外におけるデジタルコレクティブル等のNFTの販売に際しては、販売されるNFTがくじ引きのようにランダムに決定される販売方式(いわゆるガチャ)や、NBA Top Shotのように、一定数のNFTがランダムに含まれ、購入するまで中身がわからないパッケージを販売する方式が採用されていることも多い(以下、これらの販売方式を総称して「ランダム型販売」という。)。ランダム型販売自体は、日本においても紙ベースのトレーディングカード等の販売では従来から珍しくなく、そうして取得したカード等のうちレア物の転売価格が高騰するケースがあることも同様である。
- もっとも、海外でそれらのNFTを取り扱うサービスにおいては、二次流通市場が併設されている場合が多く、ランダム型販売でNFTを取得した者は、そのNFTを当該市場で直ちに売却することもできる。すなわち、サービスに二次流通市場があらかじめ組み込まれ、ランダム型販売で取得したNFTを即時かつ容易に転売・換金可能であることで、たとえば、かかる偶然性の高い金銭的な利得または損失のみに着目してガチャやパッケージの購入に興じるといった利用も想定される。このような観点からは、射幸性の高いサービスとの見方もあるところであり、同様または類似のサービスを日本で提供することを検討する事業者の間では、実務上、賭博罪の成否が懸念となっている。
- イ 賭博罪の要件
- 「賭博」(刑法185条)とは、①偶然の勝敗により②財物や財産上の利益の③得喪を争う行為をいう[15]が、④一時の娯楽に供するものを賭けたにとどまる場合には賭博罪は成立しない。
- ランダム型販売には偶然性(①)があり、対価を支払って購入されるNFTは財産上の利益(②)に通常は該当するだろう。また、「一時の娯楽に供するもの」(④)とは、即時娯楽のために費消するような寡少なものであり[16]、飲食物やタバコが典型であるところ、事案にもよるが、価値のあるデジタルコレクティブルとして購入されるNFTがこれに該当するケースはあまり想定されないと考えられる。
- そのため、NFTのランダム型販売につき賭博罪が成立するか否かについては、財産上の利益の「得喪を争う行為」(③)といえるか否かが重要なポイントとなる。
- ウ 財産上の利益の「得喪を争う」といえるか
- 財産上の利益の「得喪を争う」とは、勝者が財産上の利益を得て、敗者がそれを失うことをいい、当事者の一方が喪失の危険を負担しない場合には、これに該当しない[17]。したがって、ランダム型販売の購入者につき、常に販売価格以上の価値のNFTを取得することが確約されており、当該購入者に喪失が生じない仕組みのサービスであれば、「得喪を争う」との要件を充たさず、賭博罪は成立しないと考えられる。
- この点、NFTの客観的な価値を算定することは必ずしも容易ではないところ、サービスに組み込まれた二次流通市場において転売価格の相場が形成されているような場合には、かかる相場を参照するとの考えもありうる。そして、ランダム型販売で取得したNFTについては、かかる二次流通市場における相場が販売価格を下回るケースも想定されることに照らせば、購入者は喪失の危険を負担しており、「得喪を争う」との要件を充たすと解釈される可能性もある。
- 他方で、二次流通市場における価格形成は販売時の価格設定とは別個の事情に基づくものであることや、選手の成績等に応じた価格変動の可能性があることを理由に、「転売価格<販売価格」であることが直ちに「販売時の客観的価値<販売価格」と評価されるわけではないとの指摘もある[18]。
- エ 近時の状況
- 上記ウの通り、NFTのランダム型販売が賭博に該当するか否かは、具体的なサービスの仕組み次第であるため、日本においてサービス提供を検討する事業者としては、サービスとしての魅力や利便性を考慮しつつも、賭博に該当するリスクを可能な限り排除した仕組みを模索する必要がある。
- これに関連して、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討プロジェクトチームが2022年3月に公表したNFTホワイトペーパー(案)[19]においては、「このようなサービスの賭博罪の成否については、これまで法務省を始めとする関係省庁からその見解が示されたことはなく、事業者が委縮し、新しいNFTビジネスに取り組むことを阻害している状況が継続している」と指摘された上、以下の①~③の提言がなされた。
- ① 事業者が新たなNFTサービスを展開する際に、賭博罪の成否について、関係省庁から事前に見解を求めることができる仕組みを整える必要がある。
- ② 特に、NFTを用いたランダム型販売と二次流通市場の併設については、関係省庁において、少なくとも一定の事業形態が賭博に該当しないことを明確に示すべきである。
- ③ ランダム型販売や二次流通市場を利用してNFTを購入する消費者を保護する観点からのルール整備は別途検討を進めるべきであり、関係省庁の見解を踏まえた事業者におけるガイドラインの策定等が行われることが期待される。
- そして、上記③の提言を踏まえて、2022年9月、スポーツエコシステム推進協議会が、スポーツコンテンツを活用したNFTのパッケージ販売と二次流通市場を併設したサービスの提供について、日本において適法に展開可能なビジネスモデルを提示するガイドラインを公表した[20]。当該ガイドラインにおいては、少なくとも、NBA Top Shotに類似する以下の(ⅰ)ないし(ⅲ)の内容で、消費者保護の観点から一定の配慮がなされたサービスの提供であれば適法との法的整理が示された。
- (ⅰ) NFTをユーザーにパッケージ販売する。NFTの希少性により種類が分けられ、各パッケージにはどの種類のNFTがいくつ含まれるかが明示されており、それに応じてパッケージの価格は異なる。
- (ⅱ) ユーザーは、事業者が運営・管理する二次流通市場でNFTの転売・換金が可能で、取引価格は、ユーザーが自由に設定可能。事業者は転売の際の取引金額の一定割合を手数料として徴収する。ユーザーによる二次流通市場でのパッケージ販売は不可。
- (ⅲ) 事業者は、二次流通市場でNFTを販売せず、パッケージに含まれるNFTをユーザーから買い取ることもない。
-
その後、2022年10月には、当該ガイドラインにおける整理を参考に、一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会、一般社団法人日本ブロックチェーン協会、一般社団法人ブロックチェーン推進協会及びスポーツエコシステム推進協議会が共同で、賭博に該当しないNFTのランダム型販売の類型を整理したガイドラインを公表しており[21]、実務上は、これらのガイドラインの公表により、事業者が日本において同種のサービス展開に取り組みやすい環境につながることが期待されている。
(4)につづく
[15] 西田典之『刑法各論〔第7版〕』(弘文堂、2018)425頁
[16] 大判昭和4・2・18刑集8巻72頁
[17] 大判大正6・4・30刑録23輯436頁
[18] 橋爪隆「賭博罪をめぐる論点について」(経済産業省「第5回スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」2022年3月22日 資料5)(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2022/11/005_05_00.pdf)
[20] スポーツエコシステム推進協議会「スポーツコンテンツを活用したNFTのパッケージ販売と二次流通市場の併設に関するガイドライン」(https://www.c-sep.jp/wp-content/uploads/2022/09/C-CEP_NFT_guideline.pdf)
[21] 一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会、一般社団法人日本ブロックチェーン協会、一般社団法人ブロックチェーン推進協会及びスポーツエコシステム推進協議会「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」(2022年10月12日)(https://www.c-sep.jp/wp-content/uploads/2022/10/NFT_guideline_random.pdf)
(かとう・しろう)
弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。
2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
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(ふぇるなんですなかじま・まりさ)
日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。