SH4183 最新実務:スポーツビジネスと企業法務 NFTのマーケティングの法的留意点(2)――エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に 加藤志郎/フェルナンデス中島 マリサ(2022/11/02)

取引法務表示・広告規制

最新実務:スポーツビジネスと企業法務
NFTのマーケティングの法的留意点(2)
―エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に―

長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎

フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ

 

(承前)

⑶ 懸賞・総付景品該当性

 後記で具体的な内容について触れるが、景品表示法上の景品規制においては、懸賞と総付景品とで、提供できる景品類の限度額が異なる。そのため、NFTのエアドロップが「景品類」に該当し、景品表示法上の景品規制の対象となる場合においては、キャンペーンが懸賞に該当するのか、総付景品に該当するのかの区別が重要なポイントとなる。

 一般的に、来店または申込みの先着順によって景品類の提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶものではないことから、懸賞には該当せず、原則として、総付景品の提供に該当すると解されている[10]。したがって、イベントの来場者のうち先着順でNFTをプレゼントするキャンペーン方法の場合は、通常、懸賞ではなく、総付景品の提供に該当すると解される。

 もっとも、先着順であっても、来店または申込みに際して消費者が自己の順位(景品類の提供を受けられるかどうか)をあらかじめ知ることができない場合には、消費者にとっては偶然性により景品類の提供の相手方を定めるものといえる。そのため、ウェブサイト等における新規会員登録者のうち先着順でNFTをプレゼントするキャンペーン方法の場合において、新規会員登録時点であらかじめ景品類の提供の有無を知ることができないようなときは、懸賞に該当しうると考えられる。

⑷ 価額算定方法
  1.  ア 景品類の限度額
  2.    「一般懸賞」においては、提供できる景品類の最高額及び総額が下表の通り定められており、かかる最高額及び総額の両方の制限内で行わなければならない。

【一般懸賞における景品類の限度額】

  懸賞による取引価額 景品類限度額
最高額 総額
一般懸賞 5,000円未満 取引価額の20倍 懸賞に係る売上予定総額の2%
5,000円以上 10万円
  1.    「総付景品」については、提供できる景品類の最高額が下表の通り定められている。

【総付景品における景品類の限度額】

  取引価額 景品類の最高額
総付景品 1,000円未満 200円
1,000円以上 取引価額の10分の2

 

  1.  イ 景品類の価額算定
  2.    景品類の価額算定につき、景品類と同じものが市販されている場合は、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入するときの価格により、他方、景品類と同じものが市販されていない場合は、景品類を提供する者がそれを入手した価格、類似品の市価等を勘案して、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入すると想定したときの価格によるものとされている[11]。また、景品類と同じものも類似品も市販されていない場合は、景品類を提供する者がそれを入手した価格、当該景品類の製造コスト、当該景品類を販売することとした場合に想定される利益率等から、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入すると想定したときの価格を算定し、その価格によるものと考えられている[12]
  3.    この点、一般的に、NFTはそれぞれ唯一無二という性質を有すると言われる。もっとも、たとえば、選手の画像・プレー動画等をNFT化したデジタルコレクティブルの場合、全く同じ画像・動画等の複数のNFTが発行されるケースもある。したがって、景品類として提供するNFTにつき、「同じもの」が市販されているといえるか、また、仮にいえないとして「類似品」の有無や範囲を判断するにあたっては、具体的なNFTの性質や取引実態等を踏まえたケースバイケースでの検討が必要になると考えられる。
  4.    たとえば、通常の物品の場合、製造番号だけが違っても「同じもの」と考えられるが、NFTの場合、全く同じ画像・動画等であっても、若いシリアルナンバーや選手の背番号と同じシリアルナンバーがより高値で取引されることがあり、そのようにシリアルナンバーが取引上重要な意味を持つような場合でも、画像・動画等が同じである限り「同じもの」といえるかは、検討を要すると思われる。また、非売品のNFTの「類似品」の検討にあたり、たとえば、その事業者がそれぞれ希少性(Common、Rare、Legendary等)を明示した別のNFTを市販しており、非売品のNFTについても希少性が明示されている場合には、希少性が同等の市販のNFTを類似品と見られるケースもあろう。
     
  5.  ウ 二次流通市場での価格の高騰
  6.    二次流通市場でNFTの価格が高騰した場合、景品規制における価額算定にあたって、二次流通市場での価格を何らか考慮すべきか。かかる二次流通市場での価格高騰が起こりうるのはNFTに限らないが、デジタルコレクティブル等のNFTを販売する事業者の場合、自社のプラットフォーム等に二次流通市場を組み込んだサービスを展開するケースも多く、二次流通市場での価格がより明確に把握され、二次流通市場での売買について売買価格の一定料率の手数料を収受する等、サービス全体と密接に関連しうることから、事業者にとって関心事となりうる。
  7.    まず、NFTのエアドロップキャンペーンにおける景品類の価額算定との関係では、二次流通市場での価格高騰が考慮されれば、景品類の限度額に抵触しやすくなり、キャンペーンの実施上の制約になりうるが、少なくとも、事後的に二次流通市場で当該NFTの価格が想定外に高騰したようなケースでは、予測可能性の観点からも、かかる高騰後の価格が考慮されるべきではなかろう。
  8.    他方、NFTのエアドロップキャンペーンとは逆に、NFTの販売において、たとえば選手のサイン入りグッズ等、何らかの(NFT以外の)景品をプレゼントするキャンペーンを行う場合には、景品類の限度額の基準となる取引価額または売上予定総額との関係で、NFTの価額算定が問題となりうる。この場合、事業者としては、むしろNFTの二次流通市場での価格高騰を考慮できれば、景品類の限度額を引き上げ、より高額のキャンペーンを実施しうることになるものの、二次流通市場での取引は事業者と消費者との間の取引ではなく、その価格も事業者が設定するものではないこと等からすると、かかる二次流通市場での価格高騰を考慮することは、通常は難しいと思われる。もっとも、個別の事案毎に、具体的な取引実態等を踏まえた検討の余地はあると考えられる[13]
⑸ 景品表示法に基づく表示規制

 後記3⑶に記載のとおり、NFTに関する景品表示法上の表示規制についても検討する必要がある。かかる表示規制の詳細は後記3⑶で解説するが、エアドロップキャンペーンとの関係で特に注意が必要な例として、ホームページ等に記載された当選者数と同数の景品類が提供されるかのように表示していたにもかかわらず、実際は記載された当選者数を下回る数の景品類を提供していたような場合には、有利誤認表示に該当し、景品表示法違反となりうる[14]

(3)につづく

 


[10] 「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」(平成24年消費者庁長官通達第1号)第3項

[11] 「景品類の価額の算定基準について」(昭和53年事務局長通達第9号)第1項

[12] 消費者庁ホームページ「景品に関するQ&A」Q8 (https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/premium/#q8

[13] 二次流通市場での価格高騰に関連して、2022年5月11日の参議院消費者問題に関する特別委員会における質疑では、購入物に付随して無料配布されたNFTにつき事後的に二次流通市場で想定外に本体以上の価値が付いた場合に景品表示法上の規制対象となるのかという質問に対して、消費者庁は、必ずしも趣旨は明確ではないが、一般論として、景品類を受け取った消費者等による取引であり、当該NFTを配布する事業者による取引には該当しないため、景品表示法の規制対象とはならないと回答している(第208回国会 参議院消費者問題に関する特別委員会会議録第5号)。

[14] 消費者庁による株式会社秋田書店に対する景品表示法に基づく2013年8月20日付措置命令参照。

 


(かとう・しろう)

弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。

2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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(ふぇるなんですなかじま・まりさ)

日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。

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