SH4268 最新実務:スポーツビジネスと企業法務 女性活躍とスポーツビジネス(1)――企業活動との関わりも念頭に 加藤志郎/フェルナンデス中島 マリサ(2023/01/11)

組織法務サステナビリティ

最新実務:スポーツビジネスと企業法務
女性活躍とスポーツビジネス(1)
―企業活動との関わりも念頭に―

長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎

フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ

 

1 はじめに

⑴ 一般社会における女性活躍の推進

 社会における女性活躍の推進は日本の重要な課題であり、日本政府の成長戦略の中核である。

 2020年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画[1]では、指導的地位に占める女性の割合を2020年代の可能な限り早期に30%程度とし、2030年代には誰もが性別を意識することなく活躍可能で、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会が目指されている。

 また、2016年に全面施行された女性活躍推進法[2]においては、常時雇用する労働者が一定数を超える企業における女性活躍推進に関する行動計画の策定および関連する情報公表の義務付けや、その取組状況につき優良な企業の認定等が定められており、近年の改正では対象企業の拡大や情報公表の充実も図られている。

⑵ スポーツにおける女性活躍の推進

 一般社会と同様、スポーツにおける女性活躍の推進も、日本のスポーツ界の重要な課題の一つである。特に、近年の欧米においては、女子スポーツの盛り上がりが大きな注目と投資を集めており、また、スポーツ団体の要職は当然として、男子プロチームのコーチ・指導者の地位に女性が就くことすら珍しくない時代が近付いている。その中で、日本のスポーツ界における女性活躍は、やはり一般社会と同じく遅れている状況にある。

 スポーツにおける女性活躍には複数の側面があるが、たとえば、スポーツ団体における女性役員の増加は、企業における女性役員の増加と共通する側面である。そして、スポーツが社会に対して持つ影響力・発信力も考えると、スポーツ界の状況や取組みは、企業においても参考とされ、その取組み等に影響しうると考えられる。

 また、女性競技者・指導者の増加、女子スポーツの発展といった側面は、今後、その世界的な潮流に合わせて、日本においても進展が期待されるところであり、企業としても、スポンサーシップその他の取組みを通じたさまざまな関わりの機会が予想される。

 そこで、本稿では、企業としての関わり方という観点も含めて、スポーツにおける女性活躍に関連する国内外の近況等を概観する。

 

2 スポーツにおける女性活躍

⑴ スポーツにおける女性活躍の多面性と政策の概要

 日本において、「スポーツを通じた女性の活躍促進」は、スポーツ基本法[3]第9条に基づき2017年に策定された政府の第2期スポーツ基本計画[4]において、重要な施策の柱の一つとして位置付けられた。その後、スポーツ庁が2019年に定めたスポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>[5]においては、競技団体における女性理事の目標割合を40%以上とすること等が定められた(後記において詳述)。前述の2020年に決定された第5次男女共同参画基本計画においても、「スポーツ分野における男女共同参画の推進」として、女性のスポーツ参加促進のための環境整備や女性指導者の参画推進等の施策があげられている。

 スポーツにおける女性活躍は複数の側面を持ち、スポーツ庁が2018年に取りまとめた「女性スポーツの促進方策」[6]では、以下の3つが取組みの柱とされている。

  1. ① 世代ごとのスポーツ実施率の向上
  2. ② 団体の女性役員の増加
  3. ③ 女性指導者の育成

 以下では、上記②を含むものとしてスポーツ団体の組織における女性活躍、上記①にも関連するものとして女子スポーツの発展(女性競技者の活躍)、上記③に対応するものとして女性指導者の活躍について、順に取り上げる。もっとも、スポーツにおける女性活躍全体からの観点では、上記促進方策でも指摘されている通り、これらの側面・取組みが相互に連動することで好循環を実現していくことが重要と考えられる。

(2)につづく

 


[2] 正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)。職業生活における女性の活用を迅速かつ重点的に推進するための10年間の時限立法として制定された。

[3] 平成23年法律第78号

 


(かとう・しろう)

弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。

2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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(ふぇるなんですなかじま・まりさ)

日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。

 

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