営業秘密・限定提供データに関する制度改正の議論の動向
(令和4年11月28日の不正競争防止小委員会会合)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 後 藤 未 来
弁護士 城 所 尚 史
1 はじめに
令和4年11月28日、産業構造審議会不正競争防止小委員会(以下「本委員会」という。)の第20回目の会合(以下「本会合」という。)が開催され、主として、①商標法のコンセント制度導入と関連する諸規定の整備、②営業秘密の使用等の推定規定の拡充、および③営業秘密・限定提供データに関するライセンシーの保護制度の創設について議論がされた。本稿では、このうち、②および③に関する議論の内容について概観する。
2 営業秘密の使用等の推定規定の拡充について
⑴ 議論の背景等
営業秘密侵害訴訟においては、侵害者による不正競争に関する立証責任は、原告(被侵害者)側にあるものの、不正競争に関する証拠は侵害者の内部領域に偏在しているため、被侵害者による立証(証拠収集)がきわめて困難であるという課題が存在する。こうした問題意識の下、不正競争防止法(以下「不競法」という。)では、具体的態様の明示義務(同法6条)や書類等の提出命令(同法7条)の制度整備が行われ、さらには、営業秘密の使用等の推定規定(同法5条の2)の創設とその一部拡充が行われてきた。このような状況のなか、特許法においては令和元年改正により新たに「査証制度」(同法105条の2)が導入されたことを受け、令和元年度委託調査研究においては、営業秘密侵害における立証負担の軽減措置として、主に査証制度の導入是非について検討が行われた。同調査研究では、特許法上の査証制度について、被疑侵害者の営業秘密流出の懸念がある旨が指摘される一方、被侵害者の立証の困難性の解決を図るために、すでに不競法に導入されている営業秘密の使用等の推定規定(同法5条の2)について、その適用範囲や対象のあり方の検討を併せて議論していくべきとの指摘がなされていた[1]。
以上を踏まえ、本委員会では、技術・重要データの保全の視点、また、データ利活用のさらなる推進の視点も念頭に入れ、改めて、営業秘密侵害訴訟における被侵害者の立証の困難性を解消するための措置について、以下の論点①~③について検討が行われた。
⑵ 論点①(対象情報の拡充)について
平成27年の不競法改正では、原告(被侵害者)の立証責任を軽減するための推定規定(同法5条の2)が導入されたが、同条が規定する対象情報は、技術上の秘密のうち「生産方法」と「情報の評価又は分析の方法」[2]に限定されている(下図参照)。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(きどころ・たかし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年慶應義塾大学法学部卒業。2021年東京大学法科大学院中退。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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