意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~
第4回 従事者に関する運用上の留意点(4)
森・濱田松本法律事務所
弁護士 金 山 貴 昭
Q 従事者の守秘義務違反と刑事罰の成立
公益通報者保護法では、公益通報対応業務従事者が守秘義務に違反した場合には刑事罰が科せられるとのことですが、具体的にはどのような場合に刑事罰が科されるのですか。
A 【ポイント】
(i)公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者が、(ii)正当な理由がなく、(iii)その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを(iv)漏らした場合には、30万円以下の罰金が科せられます。なお、過失犯を処罰する規定は設けられていませんので、故意に漏らした場合に刑事罰が科せられることになります。 |
【解説】
公益通報者保護法12条は、「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない」と規定し、同法21条で、公益通報者を特定させる事項を漏らした者は、30万円以下の罰金に処すると規定しています。以下、各要件について説明します。
1 主体(「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者」)
公益通報者保護法上の守秘義務が課せられるのは、「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者」であり、公益通対応業務従事者に指定されていない者には同法上の守秘義務は課されません。そのため、仮に従事者に指定すべき者を事業者が従事者に指定していなかった場合で、当該者が公益通報者を特定させる事項を漏らしてしまった場合でも、当該者は従事者に指定されていないので刑事罰は科されません(なお、事業者は、従事者の指定漏れにより法定指針違反(内部公益通報体制整備義務違反)となり、指導等の対象となります。)。
また、公益通報者保護法上は、内部公益通報受付窓口への通報のほかに、上司に対する通報や役員に対する通報等の「公益通報」となりえます。そのため、当該通報を受け付けた上司や役員も内部公益通報に対応することとなりますが、法定指針では、内部公益通報受付窓口への公益通報に対応する者に限定することを義務付けているので、仮に上司や役員が公益通報を受け付けたとしても、これらの者を従事者に指定する義務はなく、また、これらの者は従事者に指定されていない以上、守秘義務は課されません。ただし、このような上司や役員についても、下記⑵に記載する公益通報者を特定させる事項を必要な範囲を超えて共有(範囲外共有)した場合には、懲戒処分等の対象となるので、公益通報者を特定させる事項の取り扱いには十分に留意しなければなりません。
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(かなやま・たかあき)
弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。
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