意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~
第17回 内部公益通報受付窓口(6)
森・濱田松本法律事務所
弁護士 金 山 貴 昭
Q 内部公益通報受付窓口以外への内部公益通報の取扱い
当社の従業員が通報窓口ではなく、上司に対して通報した場合、上司はどのように対応する必要がありますか。
A 【ポイント】
上司に対する通報も、公益通報者保護法上の公益通報に該当し得ます。この場合、通報を受けた上司は、公益通報者保護法や法定指針に基づく通報対応業務を遂行する義務を負うわけではありませんが、通報者を特定させる事項を必要な範囲を超えて共有することは避けなければなりませんし、通報者に対して不利益な取扱いを行うことは禁止されます。また、上司への通報も公益通報となることから、上司が書面で通報を受けた場合、通報した日から20日を経過しても調査を行う旨の通知をしない等の場合には、マスコミなどの事業者外部への通報の保護要件の一つを満たすことになる点に留意が必要です。 |
【解説】
事業者が設置した通報窓口以外への通報についても、公益通報者保護法上の「公益通報」に該当し得ます。通報窓口以外への通報としては、たとえば、職務上のレポーティングライン(上司)への通報や監査役等への通報等が考えられます。これらの通報は、公益通報者保護法が定める要件を満たせば「公益通報」に該当するので、当該通報を行った者に対して公益通報者をしたことを理由として解雇することや損害賠償請求することはできず、その他の不利益な取扱いも禁止されます。
他方で、公益通報を受け付けた上司等について、公益通報者保護法及び法定指針では、具体的な対応方法については規定していません。内部公益通報への対応方法について規定している法定指針の第4の1は、当該規定は事業者が設置した内部公益通報受付窓口への通報への対応について定めたものであり、当該窓口以外への通報については当該規定は適用されません。そのため、公益通報を受け付けた上司等が法定指針が定める方法で対応しなくても、公益通報者保護法や法定指針に違反しません。ただし、上司等においても下記の点については留意が必要です。
1 上司等に対する範囲外共有の禁止等
上司等への通報についても公益通報となり、公益通報を受け付けた上司等については、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて第三者に共有すること(「範囲外共有」)は禁止され、事業者は当該上司等が範囲外共有することを防止するための措置を講じ、また、範囲外共有をした上司等については、懲戒処分その他適切な処分を行うことが義務付けられます(法定指針第4の2(1))。
なお、上司等への公益通報は、事業者が設置した内部公益通報受付窓口への公益通報ではないため、上司等は公益通報対応業務従事者に指定する必要はなく、上司等は公益通報者保護法上の刑事罰付きの守秘義務(法12条)は負いません[1]。
この記事はプレミアム会員向けの有料記事です
ログインしてご覧ください
(かなやま・たかあき)
弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。
掲載されているQAに関する疑問や、新たにQAに追加して欲しいテーマなどを募集しています。 |