SH4389 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第22回 公益通報者の保護(4) 金山貴昭(2023/04/03)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 

第22回 公益通報者の保護(4)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

Q 請負会社の従業員による通報の場合

 当社は、建築業を営んでおり、大手ディベロッパーの下請会社として建物の建築を請負っています。当社の従業員が、大手ディベロッパーの違法行為について、同ディベロッパーに対して公益通報したところ、大手ディベロッパーは当社との請負契約を解除しました。このような解除は公益通報者保護法に違反しないのでしょうか。また、当社は、通報をした当社従業員を解雇することは認められますか。

 

A 【ポイント】

請負契約に基づいて行われている事業に従事する受託業者の従業員は、発注業者の違法行為等の通報対象事実を、発注業者に対して公益通報することができ、公益通報者として保護されます。具体的な保護の内容としては、公益通報者の雇用主である受託業者が、公益通報したことを理由として行う公益通報者(受託業者の従業員)の解雇は無効であり、その他不利益な取扱いをすることが禁止されています。また、公益通報を受け付けた発注業者が、公益通報したことを理由として、公益通報者(受託業者の従業員)に対して損害賠償請求することはできないと規定されていますが、請負契約を解除することや公益通報者(受託業者の従業員)に対して不利益な取扱いを行うことを禁止する規定はありません。

 

【解説】

1 請負契約等の契約相手方の従業員による公益通報

 公益通報者保護法は、「前二号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者」は「当該他の事業者」に対して(内部)公益通報をすることができると定めています(法2条3号)。この条文はやや複雑な規定ぶりとなっていますが、派遣労働者による公益通報の場合と比較すると理解しやすくなります。すなわち、派遣労働者による公益通報の場合は、事業者間で派遣契約が締結されており、当該派遣契約に基づき派遣される派遣労働者が、派遣先に対して、派遣先の違法行為等の通報対象事実を公益通報することができます。他方、法2条3号は、事業者間で請負契約等の契約が締結されている場合に、当該契約に基づき行われている業務に従事している従業員等は、発注業者等の契約相手方に対して、契約相手方の違法行為等の通報対象事実を内部公益通報することができると定めています。

 なお、「内部公益通報」とは、「事業者の内部者」=「事業者の労働者」からの公益通報ではなく、「事業者内部(事業者が指定した者を含む)」への公益通報を意味しており、「内部」については通報主体ではなく、通報先を基準としています。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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