経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)」に対する意見公募
岩田合同法律事務所
弁護士 冨 田 雄 介
本年4月27日、経産省は、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)」(以下「本ガイドライン案」という。)をパブリックコメントに付した。
昨今IoT・ビッグデータ解析やAIの活用が急速に進展している一方で、それらに係る法的問題への対応が必ずしも十分になされていない状況を踏まえ、経産省は、契約によるデータの適切な利用やAIに係る責任関係・権利関係を含む法的問題への対応、さらには関連する知的財産に関する問題の整理等の調査・検討を行っている。
本ガイドライン案は、その一環として、データの利用・共用を促すための契約類型・契約条件を整理し、個別取引やユースケースを紹介するなどしたものであり、「データ編」と「AI編」からなる。
「データ編」では、データ契約(データの利用、加工、譲渡その他取扱いに関する契約をいう。)を、①「データ提供型」契約(データ提供者から他方当事者に対してデータを提供する際に、他方当事者の利用権限等を取り決める契約をいう。)、②「データ創出型」契約(データが新たに創出される場面において、関係当事者間でデータの利用権限について合意する必要のある場合の契約をいう。)、及び③「データ共用型」契約(プラットフォームを利用したデータの共用を目的とする類型の契約をいう。)に分類し、各契約類型について、構造、主な法的論点(例えば、「データ提供型」契約については、派生データの取扱いや、クロス・ボーダー取引におけるデータ・ローカライゼーション及び越境移転規制等)、適切な契約の取決め方法等についての説明がなされている。さらに、「データ提供型」及び「データ創出型」については、モデル契約書案も示されている。
なお、本ガイドライン案の①「データ提供型」契約についての説明は経産省が平成27年10月に公表した「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」と一本化されており、②「データ創出型」契約についての説明は経産省が平成29年5月に公表した「データの利用権限に関する契約ガイドライン ver.1.0」からの拡充がなされている。
次に、「AI編」では、AI技術を利用したソフトウェア開発・利用契約についての基本的な考え方(契約検討に向けた視点等)についての説明がなされている。
AI技術の実用化の過程は、 (a-1)センサやカメラ等から得られた生データを加工して「学習用データセット」を作成し、(a-2)「学習用データセット」を学習用プログラム(当該データの中から一定の規則を見出し、その規則を表現するモデルを生成するためのアルゴリズムを実行するプログラムをいう。)に入力することにより「学習済みパラメータ」を得た上で、(a-3)「学習済みパラメータ」を特定の「推論プログラム」に組み込むことにより「学習済みモデル」を得るという「学習段階」と、(b)「学習済みモデル」に「入力データ」を入力して一定の成果を得るという「利用段階」の二つの段階からなる。
本ガイドライン案では、「学習済みモデル」の開発契約及び利用契約における考慮要素(権利帰属・利用条件をどのように定めるべきか、責任分配をどのように定めるべきか等)についての説明がなされている。また、AI技術を利用したソフトウェア開発に関する秘密保持契約書、導入検証契約書及びソフトウェア開発契約書のモデル契約書案も示されている。
今後は、パブリックコメントの結果を踏まえた「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の公表が予定されている。当該ガイドラインの内容は、データ契約又はAI技術を利用したソフトウェア開発契約を締結するに当たって実務上参考になることは勿論のこと、将来的には当該ガイドラインが示した考え方や整理が契約実務の基準となっていくことも予想される。さらには、パブリックコメントの結果において経産省の法解釈や契約解釈が示された場合、これらが契約実務に与える影響についても注意を要しよう。
【データ契約の類型と主な法的論点等】
「データ提供型」契約 | 「データ創出型」契約 | 「データ共用型」契約 | |
構造 |
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主な法的論点等
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(経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)概要」より引用)