金融庁、企業会計審議会監査部会の「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表
--「監査上の主要な検討事項」を監査報告書に記載する等--
金融庁は5月8日、企業会計審議会監査部会(部会長=伊豫田隆俊・甲南大学共通教育センター教授)が取りまとめた「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表した。6月6日まで意見募集を行った上で正式決定する。
近時、わが国では、不正会計事案などを契機として監査の信頼性が改めて問われ、その信頼性を確保するための取組みの一つとして、「財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性」が指摘されているところである。こうした中、主に世界的な金融危機を契機に、監査意見を簡潔明瞭に記載する枠組みは基本的に維持しつつ、監査プロセスの透明性を向上させることを目的に、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項(「監査上の主要な検討事項」)を監査報告書に記載する監査基準の改訂が国際的に行われている。
企業会計審議会は、こうした国際的な動向を踏まえつつ、わが国の監査プロセスの透明性を向上させる観点から、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める監査基準の改訂について審議を行い、監査部会において「監査基準の改訂について(公開草案)」を取りまとめたものである。
公開草案の概要は、以下のとおりである。
○ 企業会計審議会監査部会「監査基準の改訂について(公開草案)」の主な改訂点とその考え方
1 「監査上の主要な検討事項」について
(1) 監査報告書における位置付け
監査報告書における「監査上の主要な検討事項」の記載は、財務諸表利用者に対し、監査人が実施した監査の内容に関する情報を提供するものであり、監査報告書における監査意見の位置付けを変更するものではない。このため、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、監査意見とは明確に区別しなければならないことを明確にした。
(2)「監査上の主要な検討事項」の決定
監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から、
- ・ 特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項
- ・ 見積りの不確実性が高いと識別された事項を含め、経営者の重要な判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
- ・ 当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
等について考慮した上で特に注意を払った事項を決定し、当該決定を行った事項の中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を絞り込み、「監査上の主要な検討事項」として決定する。
(3)「監査上の主要な検討事項」の記載
監査人は、「監査上の主要な検討事項」であると決定した事項について、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、
- ・「監査上の主要な検討事項」の内容
- ・ 監査人が、当年度の財務諸表の監査における特に重要な事項であると考え、「監査上の主要な検討事項」であると決定した理由
- ・ 監査における監査人の対応
を記載する。
(4) 監査意見が無限定適正意見以外の場合の取扱い
財務諸表に重要な虚偽の表示があること、又は重要な監査手続を実施できなかったこと等により無限定適正意見を表明することができない場合には、監査人はその理由、影響等について、根拠区分を設けて記載しなければならないとされている。
不適正意見の場合には、重要かつ広範な事項について虚偽の表示があることから、通常、当該意見に至った理由が最も重要な事項であると想定されるが、当該理由以外の事項を「監査上の主要な検討事項」として記載する場合には、根拠区分に記載すべき内容と明確に区別しなければならない。
なお、意見不表明の場合において、その根拠となった理由以外の事項を「監査上の主要な検討事項」として記載することは、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができていないにも関わらず、当該事項について部分的に保証しているかのような印象を与える可能性がある。このため、意見不表明の場合には、「監査上の主要な検討事項」は記載しないことが適当である。
2 報告基準に関わるその他の改訂事項について
(1) 監査報告書の記載区分等
現行の我が国の監査基準では、監査報告書には、監査の対象、経営者の責任、監査人の責任、監査人の意見を区分した上で記載することが求められている。
この点に関して、以下の通り改訂を行うこととする。
- ・ 監査人の意見を監査報告書の冒頭に記載することとし、記載順序を変更するとともに、新たに意見の根拠区分を設ける
- ・ 経営者の責任を経営者及び監査役等の責任に変更し、監査役等の財務報告に関する責任を記載する
(2) 継続企業の前提に関する事項
現行の我が国の監査基準では、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合には、監査人は、継続企業の前提に関する事項が財務諸表に適切に注記されていることを確かめた上で、当該事項について監査報告書に追記することが求められている。
この点について、継続企業の前提に関する評価と開示に関する経営者及び監査人の対応についてより明確にするため、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合に監査人が監査報告書に記載する要件は変更することなく、独立した区分を設けて継続企業の前提に関する事項を記載することとした。あわせて、経営者は継続企業の前提に関する評価及び開示を行う責任を有し、監査人はその検討を行う責任を有することを、経営者の責任、監査人の責任に関する記載内容にそれぞれ追加することとした。
また、経営者は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合、当該疑義が存在する旨及びその内容を有価証券報告書の「事業等のリスク」に、経営者による対応策を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載することとされている。監査人は、監査の過程で継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の有無及びその内容を確かめることとされている。この点に関し、監査人は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、経営者による開示について検討することとなる。
3 改訂の実施時期
- ① 改訂監査基準中、「監査上の主要な検討事項」については、平成33年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査から適用することを妨げない。
- ② 改訂監査基準中、報告基準に関わるその他の改訂事項については、平成32年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。
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金融庁・企業会計審議会監査部会、「監査基準の改訂について(公開草案)」の公表について(5月8日)
https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20180508.html -
○ 別紙1 監査基準の改訂について
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/1.pdf -
○ 別紙2 監査基準(抄)新旧対照表
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/2.pdf -
「監査基準の改訂について(公開草案)」の公表について(5月8日)【パブリックコメント手続】
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=225018004&Mode=0