トランプ政権発足とメキシコ投資環境(2)
NAFTA再交渉時の想定アジェンダ
西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士 松 平 定 之
メキシコ弁護士 フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス
3月下旬に、NAFTA再交渉に関するUSTR(United States Trade Representative:米国通商代表部)の代表代行であるStephen Vaughn氏名義の連邦議会上下院宛の書簡の草案(以下「本草案」という。)[1]が明らかとなった。トランプ政権の報道官は、本草案について「現時点でのトランプ政権の見解を正確に表明したものではない」旨を述べたとされる[2]ものの、その内容は、NAFTA再交渉において米国が取り上げる議題のヒントを提供すると考えられるため、本論稿ではその内容を紹介する。
NAFTA再交渉時に米国が目標とする事項として、本草案が挙げている事項は主として以下の通りである。
本草案の主な項目とその概要 |
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商品取引 |
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農業及び検疫 |
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原産地規則 |
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税関及び執行協力 |
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貿易の技術的障害 |
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知的財産権 |
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サービス貿易 |
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投資 |
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デジタル取引及び国際的データ・フロー |
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政府調達 |
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透明性向上と規制改革 |
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腐敗防止 |
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競争 |
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国有・国営企業 |
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貿易救済措置 |
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環境 |
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労働 |
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反ダンピング及び相殺関税に関する紛争解決 |
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国家間紛争解決及び制度条項 |
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本草案の内容は、非常に多岐にわたっている。
トランプ政権が目指す米国内での生産・雇用の拡大に関連するものが多いが、その典型例の1つは原産地規則(Rules of Origin)の見直しの点である。原産地規則は、NAFTAに基づく関税上の優遇措置の適用を受けるために充たす必要のある域内価値創出の基準を定めるものであり、例えば一定の自動車分野においては62.5%の価値が北米で創出されていることが要求されている。トランプ政権は、米国内での自動車生産・雇用を拡大させるために、北米で創出される価値の最低比率を高めるほか、加盟各国が独自の基準(例えば自国内で創出される価値の最低比率の基準)等を設定することを可能にすることを要求する可能性がある。
また、NAFTA302条により、新たな関税を設定し又は関税率を高めることは、禁止されているところ、本草案は、貿易救済措置として、他のNAFTA加盟国からの輸入の増加が自国産業への重大な脅威となった場合に、関税優遇を一時的に取り消すセーフガード措置の導入を明記している。もっとも、これについては自国産業を守るための恣意的な運用の可能性も否定できないことから、メキシコ等との交渉の難航が予想される。なお、NAFTA再交渉とは別に、トランプ政権が検討しているいわゆるBAT(Border Adjustment Tax:国境税)の導入については、その仕組みによってはWTOルールとの整合性が問われ、相手国による報復関税等の対象となり得ることから、VAT(Value Added Tax:付加価値税)として内外差別のない公平な制度とすることを目指すかなどその制度設計を見守る必要がある。
本草案には、労働規制や環境規制の執行の確保など、各国の企業活動環境のイコールフッティングを図ることによって、米国内産業の相対的競争力を高めようとするものもある。
また、紛争解決手段に関して、本草案は、反ダンピング及び相殺関税の決定に関するチャプター19(両当事国のパネルによるレビュー)が米国に必ずしも有利でなかったとして、その見直しが提案されている。
さらに、本草案には、デジタル取引の円滑化など、時代の変化に合わせたNAFTAの現代化の要素も含まれている。
なお、本草案に記載されている産業分野に加えて、エネルギー産業や放送等における通商・投資自由化の促進もテーマになる可能性がある。この点、NAFTA締結時にはメキシコのエネルギー産業は同国の憲法上国家の独占とされていたが、2013年の同国エネルギー規制改革により憲法上も民間資本の参入が許容されている。
上記の通り、本草案については、トランプ政権の報道官が「現時点でのトランプ政権の見解を正確に表明したものではない」旨を表明しており、今後の議会との協議結果も踏まえ、様々な見直しが行われることが想定されることから、引き続き動向を注視する必要がある。
以上
- (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。
[1] NAFTAの再交渉にあたっては、その90日前までに大統領が再交渉の開始を連邦議会に通知することが必要となる(SH1081 トランプ政権発足とメキシコ投資環境(1)~NAFTA再交渉時の想定タイムライン 松平定之/フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス(2017/03/27)参照)が、本草案はそれ以前の連邦議会との協議の過程において作成されたものである。