◇SH0950◇日本企業のための国際仲裁対策(第19回) 関戸 麦(2017/01/05)

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日本企業のための国際仲裁対策(第19回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第19回 国際仲裁手続の序盤における留意点(13)-仲裁人の選任等その4

5. 仲裁人の資格・要件

(1) 概要

 第3回で述べたとおり、国際仲裁においては広範な私的自治が認められており、その一つの表れとして、当事者が合意の上指名した者は誰でも、仲裁人になれるというのが基本である。弁護士資格がなくても、仲裁人になることは可能であり、仲裁人となるための資格・要件について、厳格な規制は基本的に存在しない。

 但し、各国の仲裁法規や、仲裁機関の規則によって、仲裁人となるための資格・要件が若干ではあるが制限されている。

 また、仲裁人となるための資格・要件について、当事者が仲裁条項等で定めれば、それは法的拘束力を持つ。例えば、英語のネイティブスピーカーに限る、日本法の弁護士資格を持つ者に限る、といったことを定めれば、仲裁人は当該資格を持つ者に限定される。

 以下、仲裁人の資格・要件として、一般的に問題となる、①公正性・独立性(impartiality・

independence)と、②国籍について論じる。また、③仲裁機関の名簿への掲載についても言及する。

(2) 公正性・独立性

 仲裁人は、中立的な立場から判断を示す必要があることから、資格・要件として、公正性・独立性(impartiality・independence)が求められる。すなわち、仲裁人は、公正ないし不偏であり、仲裁手続の当事者から独立していることを要し、常にそのようにあり続けなければならない。この点は、各仲裁機関の規則において明示されている(ICC規則11.1項、SIAC規則13.1項、HKIAC規則11.1項、JCAA規則24条1項)。

 日本の仲裁法においても、裁判所が仲裁人を選任する場合には、選任される者の公正性及び独立性に配慮しなければならず(17条6項2号)、また、仲裁人の忌避事由として、仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足る相当な理由があるときを定めている(18条1項2号)。

 具体的にいかなる場合に公正性・独立性を欠くことになるかは、一概には言い難い点であるが、この点につき、国際法曹協会(IBA)がガイドラインを定めている。すなわち、国際仲裁における利益相反に関するIBAガイドライン(IBA Guideline on Conflicts of Interest in International Arbitration)[1]は、不偏、独立及び開示に関する一般基準(General Standards Regarding Impartiality, Independence and Disclosure)について定める第1章と、かかる一般基準の実際の適用(Practical Application of the General Standards)について定める第2章からなり、この第2章において、利益相反の問題が生じる具体的な場面を、4つの段階に分けて列記している。この4つの段階というのは、①放棄不可能なレッド・リスト、②放棄可能なレッド・リスト、③オレンジ・リスト、④グリーン・リストである。

  1. ① 放棄不可能なレッド・リストというのは、当事者の意向に拘わらず、およそ仲裁人となることができない、重大な利益相反の場面を列記したものである。例えば、仲裁人が一方の当事者又は事件の結果について、重大な財務上の利害を有する場合である。
  2. ② 放棄可能なレッド・リストというのは、重大な利益相反の場面ではあるが、当事者双方がその利益相反の事情を承知した上で、それでもなおその人を仲裁人とすることを明示的に述べた場合には、仲裁人となれる場面を列記したものである。例えば、仲裁人が、現在、一方の当事者又はその関係会社を代理するか又はこれに助言をしている場合である。
  3. ③ オレンジ・リストとは、当事者から見た場合、仲裁人の公正性又は独立性に正当な疑いをもたらす可能性のある利益相反の場面を列記したものである。オレンジ・リストに該当する場合、仲裁人候補者はその事由を開示する責務を負う。但し、開示が求められるからといって、仲裁人となることが直ちに否定されるわけではなく、かかる開示後適時に当事者から異議が申し立てられない場合は、当事者は仲裁人を承認したものとみなされ、当該候補者は仲裁人となれる。また、仮に当事者から異議が申し立てられたとしても、仲裁人としての資格・要件を否定する程の利益相反ではないと、仲裁機関等が判断すれば、当該候補者は仲裁人となれる。オレンジ・リストに該当する場合とは、例えば、仲裁人が、過去3年以内に、一方の当事者又はその関係会社から、2回以上仲裁人に指名された場合である。
  4. ④ グリーン・リストとは、利益相反が存在せず、仲裁人となることに問題がない場合を列記したものである。仲裁人候補者は、グリーン・リストに該当する事由につき、開示する必要はない。グリーン・リストに該当する場合とは、例えば、仲裁人が、他の仲裁人又は一方当事者の代理人と、同じ専門家団体若しくは社会的団体への加入を通じて、又はソーシャルメディアを通じて関係を有している場合である。

 なお、このIBAガイドライン第2章における列記は、網羅的なものではなく、ここに列記されたものでなくても、仲裁人の利益相反が問題になる場面があることを前提にしている。

(3) 国籍

 仲裁人の国籍が、一方当事者の国籍と同じであるからといって、直ちに中立性が否定される訳ではない。民事訴訟においても、裁判官の国籍が、一方当事者と同じで、他方当事者と異なることは珍しくないが(外国法人又は外国人が、民事訴訟の当事者となる場合には通常のことである)、それによって裁判官の中立性が損なわれるとは考えられていない。

 しかしながら、国際仲裁では、仲裁人が1名である場合の仲裁人(単独仲裁人、sole arbitrator)と、仲裁人が3名である場合の3人目に選任される仲裁人(仲裁廷の長たる仲裁人、presiding arbitrator)については、いずれの当事者とも異なる国籍とされることが一般的である。ICC規則では、この点を明示的に求めている(13.5項)。

 もっとも、この国籍の制限は、仲裁人が3名である場合に、各当事者が選任する2名の仲裁人(party-appointed arbitrators又はco-arbitrators)には適用されない。すなわち、各当事者は、自らと国籍が同じ者を、仲裁人として指名することができる。

 また、単独仲裁人及び仲裁廷の長たる仲裁人についても、当事者双方が合意すれば、一方当事者と同じ国籍とすることができる。当事者双方が合意しない場合であっても、状況によっては、仲裁機関は、当事者双方が所定の期限内に異議を述べないことを条件として、一方当事者と同じ国籍とすることができる(ICC規則13.5項は、この点も明記している)。

 なお、JCAA規則は、単独仲裁人及び仲裁廷の長たる仲裁人の国籍の点につき、若干緩やかな定めをしており、いずれの当事者とも異なる国籍とすることを当事者が求めた場合に、JCAAが仲裁人の選任に際し、その当事者の意向を尊重すると定めている(27条4項、28条6項)。すなわち、JCAA規則では、この国籍の制限を、当事者が積極的に求めた場合に限って適用するとしている。

(4) 仲裁人候補者名簿への掲載

 多くの仲裁機関は、仲裁人候補者の名簿(list)を作成し、仲裁機関が仲裁人を指名・選任する場合には、その名簿の中から指名・選任するというのが通常である。但し、ICCは、そのような名簿は作成せずに、広範な候補者の中から、案件毎に調査を行い、仲裁人を指名・選任している。

 また、他の仲裁機関においても、名簿は絶対的なものではなく、当事者が名簿に掲載されていない者を仲裁人として指名したり、または仲裁機関が指名・選任する場合に、候補者として推薦することは何ら妨げられない。すなわち、名簿への掲載は、仲裁人となるための資格・要件として求められるものではない。

 但し、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)では、その名簿に掲載された者しか仲裁人になれないというのが基本であり、当事者が仲裁人を指名する場合も、その名簿の中から指名することが求められている(CIETAC規則26.1項)。当事者間において、名簿外から仲裁人を指名するとの合意をした場合には、指名された者が、CIETAC主任の確認を得た後に、仲裁人となれると定められている(CIETAC規則26.2項)。すなわち、CIETACでは、仲裁人の選任に関する当事者の私的自治が制限されており、CIETACが認めた者でなければ、仲裁人となれないとされている。

以 上



[1] IBAのホームページにおいて入手可能である。
  http://www.ibanet.org/Publications/publications_IBA_guides_and_free_materials.aspx

 

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