実学・企業法務(第138回)
法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅱ〕医薬品、化粧品
〔Ⅱ-1〕医薬品
6. 事故・事件の例
(3) Kの対策(組織全体の取り組み)
1 新体制の方針及び責任者の処分
常務理事以上の役員を全員外し、全て外部出身人材にする。全理事が辞任又は辞職。役員全員が出荷停止時まで遡って報酬額を返上。理事会メンバーに外部出身人材を逐次追加。役員人事案・役員報酬案を検討・起案する外部委員主体の諮問委員会を設置。評議員を減員してその過半数を外部から起用。
2 信頼性保証体制の改善
- ① 法務・コンプライアンス部門の強化(理事会直轄化、内部通報制度の運用強化・拡充)
- ② 業務監査体制の改善・強化(内部業務監査体制の整備、監査業務の積極展開、総括製造販売責任者の理事長直轄化、薬事部・品質保証部・医薬安全管理部の3部を製造販売業を統括する「信頼性保証部門」として再編、品質試験を担当する品質管理部を製造業の組織とする、外部第三者機関活用・キャリア採用を含めて信頼性保証部門のマンパワーを強化)
3 GMP[1]管理運用面の改善
- ① GMPの改善状況の当局への定期報告(医薬品全製品の製造管理・品質管理につき外部第三者機関のチェック・アドバイスを受け、必要な改善を逐次実施)
- ② 製造体制の改善(従来の「製造部」を製造に特化する「製造部」と「製品開発部」に分離)
4 医薬品品質システムの再構築
- ① PQS[2]/QMSの改善計画の作成・実行と報告体制(ICH-Q10[3]と製造管理・品質管理・信頼性保証の要求事項とのGAP分析を外部機関により実施して整備・改善計画を作成・実行し、毎月レビュー会議を開催)
- ② 各製造部・品質管理部(品質試験担当)に「サイトQA」を常駐させ、現場の品質課題・逸脱等を的確に把握して、品質保証責任者・総括製造販売責任者に報告し、迅速・適切に対応
- ③ 品質保証部による自己監査の改善(計画的監査、抜き打ち監査)
- ④ 品質管理部の改革(当局と相談して実施等)
- ⑤ 薬事部に外部人材登用(承認書とGMP文書の誤記・齟齬の再発防止、当局とのパイプ役)
5 従業員の教育
- ① コンプライアンス教育の見直し・強化
- ② PQS教育
- ③ GMP教育
- ④ コンプライアンス違反行為に対する厳正処分の徹底
- ⑤ 品質文化の醸成(「品質方針」を設定し、品質文化を醸成する。)
6 その他
- ① 過去の事件の風化防止(「薬害エイズ和解[4]の日」「GMPコンプライアンスの日」を設定)
- ② 人事ローテーションの改善(人事交流、担当替え、配置移動)
- ③ 会議体の改革(各人の担当業務を発表して業務課題を共有する機会を教育研修中に設け、経営トップも参画して対話)
(4) 厚生労働省における「 GMP査察体制の見直し」
1 製造所等に無通告(抜打ち)査察を実施する旨を、PMDA・都道府県・関係業界に通知。(2016年1月15日付)
2 今後のさらなる改善に向けた検討項目
- ⑴ 査察体制の抜本強化 PMDAにおける査察担当者の増員、抜打ち査察回数の増加等
- ⑵ 新たな査察方法の導入 欧米諸国を参考に、不正をより効果的に発見する査察方法を導入
- ⑶ 査察能力の向上 PMDA・都道府県の査察担当者のスキルアップ
- ⑷ 厚生労働省とPMDA間の連携強化 定期的な連絡会議の設置
[1] “Good Manufacturing Practice”の略。医薬品の製造管理及び品質管理
[2] 医薬品品質システムPharmaceutical Quality System
[3] 医薬品品質システム。ICH Q10は国際標準化機構(ISO)の品質概念に基づき、適用される製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)を包含し、ICH Q8「製剤開発」及びICH Q9「品質リスクマネジメント」を補完する、実効的な医薬品品質システムに対する一つの包括的なモデルを記述する。ICH Q10は、製品ライフサイクルの異なる段階にわたり実施し得る医薬品品質システムの一つのモデルである。(厚生労働省・薬食審査発0219第1号)
[4] 1996年に「薬害エイズ」民事訴訟で和解が成立。被告の負担割合は、国(4割)と製薬企業5社(ミドリ十字、バイエル薬品、バクスター、化血研、日本臓器)(6割)。