◇SH1867◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(74)―企業グループのコンプライアンス⑦ 岩倉秀雄(2018/05/29)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(74)

―企業グループのコンプライアンス⑦―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織間関係の調整メカニズムについて述べた。

 組織間関係の調整メカニズムは、組織が自らの目標を達成するために、他組織との依存関係を処理、管理する機構である。

 企業グループの調整メカニズムは、互いに自主性を保持しながら協力を通じて組織間の相互依存に対処する「協調戦略」であり、それには、(1) 規範の形成(暗黙の了解)、(2) 契約・協定、(3) 役員の受入れ・兼任、(4) 合弁、(5) アソシエーション等がある。

 生活協同組合や農業協同組合の連合会等は、連合体の中心組織と会員との経済的結びつきが強くかつ会員の独立性が強い。そこでは、中心組織は会員組織に対して、連合体全体の利益(含コンプライアンスの徹底)が、中長期的には自組織の利益にもつながるという確信を持たせること(相利共生のメカニズムの形成)が重要である。

 今回は、組織間文化と組織の組織について、考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑦:組織間文化と組織の組織】

1. 組織間文化

 組織と組織の間にも、組織内と同様に組織間の価値や行動様式を決める組織間文化が形成される。

 組織間文化は、どのような基準で行動するべきかを決める組織間の「行動規範」でもあり、コンプライアンスの浸透・定着をグループで進める場合には、コンプライアンス重視の組織間文化を形成することが、組織内における場合と同様に重要である。

 一般に、組織間文化の機能と特性は、次の通りである。

  1. ⑴ 組織間文化は、組織間関係に共通の価値や信念を作り出すことによって、組織の組織間システムへのコミットメントを形成し組織の行動を構造化する手段を与え、組織間関係を調整する組織間関係の統合力である。[1]
  2. ⑵ 組織が不確実な環境下で組織間の対立を発生させたときに、これを解決し組織間の協調関係を形成・維持するための前提であり、組織間の構造を代替えし補完する。
  3. ⑶ 組織間コミュニケーションやパワー関係により形成されるが、それは自然発生的・創発的に形成されていく側面と目的意識的に設計していく側面を併せ持っているので、組織間文化の形成・維持・変革も意識的側面と無意識的側面がある。
  4. ⑷ 組織間文化は、焦点組織の政策、対境担当者の行動とそれらに対するメンバー組織の評価や行動が積み重なり形成される。

2. 組織の組織論

 組織の集合体は単なる構成単位の寄せ集めではなく、それぞれが意思を持ち組織としての異なる利害や価値を持ち、組織の集合体としてはまとまった全体を持っている。(前回検討した生協や農協の組織連合体等)

 組織の集合体の組織間の規範や協力行動、協力体制がなぜ形成・実効されるのかの研究は、「組織の組織論」と言われる。[2]

 媒介組織は、構成組織の様々な利害や要求に直面して常に『構造的緊張関係』におかれており、その緊張処理メカニズムや組織間統合メカニズムの構築が重要になる。

 組織間統合のメカニズムには、以下の4つがあり、後段で考察するコンプライアンス施策の考察に応用できる。[3]

  1. ⑴ 文化的統合とは、組織間システムの価値と焦点組織の価値が適合していることである。焦点組織は、対立する価値が存在する場合や、焦点組織の目標と他組織の価値との両立が不可能である場合には、自らの価値と他組織の価値を結びつけるイデオロギーを公表することによって対応する。戦略の基本は、存続のための組織アイデンティティの獲得と正当化である。
  2. ⑵ 規範的統合とは、他組織の期待と焦点組織との同調を図ることであるが、焦点組織の意図と他組織の期待との間に相違がある場合には実施が難しい。その場合には、焦点組織は、第3者の支持を動員することにより組織間の期待の相違を均衡化し、あるいは受容できない組織をその他の組織集団から隔離して、規範を補強することで対応する。いずれの場合も規範準拠集団の支持を得る必要があるが、組織が特定の他組織からの圧力を減ずる方法である。
  3. ⑶ 意思伝達的統合とは、組織間システムが統合を達成するために組織間の円滑な情報の流れを確保し組織間コミュニケーション・ネットワークを促進する方法である。
  4.  コミュニケーション・ネットワークの不完全性は、組織間の構造問題を発生させる原因になるので、焦点組織は個々の組織の別々の問題を共通の問題化して、他組織に対する特定の圧力を意図的に補強する。焦点組織は、他組織間の対立する利害を顕在化するか共通利害を顕在化する方法を取るが、前者の場合には他組織間の対立から利を得る「仲裁者」であり、後者の場合は他組織間の共同問題解決の枠組みを作り上げる「調停者」の役割を果たす。
  5. ⑷ 機能的統合とは、目標達成するために組織間の機能配分が不均衡であった場合に発生する不具合を解決するために、組織間活動を分割し意識的に連結する行動である。
  6.  組織間の機能配分の不具合が焦点組織の目標を達成するのに不具合なパワーの集中を作り出すときや、逆に機能配分がパワーの分散を生み出し共同努力に結びつかない場合に生じる。
  7.  前者では、共通の敵としての強者に対する弱者間の「防衛的結託」が形成され、後者においては、組織間の共同行為努力としての「発展的結託」が形成される。

 

 次回からは、企業グループのコンプライアンス施策を具体的に考察する



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)148頁 

[2] 山倉・前掲[1] 162頁、163頁

[3] 山倉・前掲[1] 171頁~175頁

 

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