社外取締役になる前に読む話(23)
ーその職務と責任ー
潮見坂綜合法律事務所
弁護士 渡 邊 肇
XXIII 社外取締役が解任されることはあるのか。辞任はできるのか(1)
ワタナベさんの疑問その15
当社の取締役の任期は1年である。私の任期も、そろそろ3期目が終わろうとしている。 私は、昨年の指名委員会において社長の再任に反対し、且つ報酬委員会において、社長を含む役付取締役の報酬が高すぎるとの意見を述べたのだが、結局社長が交代することはなく、役員報酬額も維持されている。そしてそれ以来社長は、人事に口を挟むような社外取締役は当社には不要であるなどと公言し始めたばかりでなく、私を任期途中で解任させようとしているという話も聞いた。 会社は、社外取締役である私を解任することはできるのだろうか。仮に解任されるとすると、私に何か対抗策はあるのだろうか。 また、このような状態の会社で社外取締役を続けるのは私にとっても意味のないことなので、辞任しようかとも思うのだが、それは可能なのだろうか。その後私に対して損害賠償請求のようなものが起こされる心配はないのだろうか。 |
解説
会社の経営方針等を巡る対立から、社長や会長が解任される実例は、昔から枚挙にいとまがない。第19回においてご紹介した株式会社セブン&アイ・ホールディングスの件のみならず、株式会社大塚家具の事例なども記憶に新しいところである。また、経営陣の解任劇には発展しなかったものの、株式会社大戸屋ホールディングスなどでも、創業家一族と経営陣との内紛が表面化している。
但し、このような会社支配権を巡る争いに社外取締役が巻き込まれ、辞任または解任に追い込まれたような事例は、筆者の知る限り公表されていないし、恐らく殆ど存在しないのではないかと思われる。社外取締役が業務執行行為に関与することができない以上、経営陣と社外取締役が尖鋭に対立するなどという事態はそうそう発生し得ないことがその理由ではないかと想像する(但し、このような「お家騒動」の終息に伴い、それまでの社外取締役が再任されず、新たなメンバーに入れ替わるという例は、しばしばみられる。)。従い、本設問は相当特殊な事例ということになろうが、抽象的には社外取締役が辞任を余儀なくされ、あるいは解任されるという事態も発生し得る。極端な事例ではあるが、このような状況に追い込まれたときに、社外取締役はどのように振る舞ったら良いのか、考えてみよう。
ワタナベさんの疑問に答える前に、社外取締役の選解任手続を概観する。
取締役の選任および解任の要件や手続について、社外取締役に特殊な規定は存在しない。総てその他の取締役と同様である。すなわち、社外取締役もまた株主総会の普通決議によって選任され(会社法329条1項)、任期の満了により終任となる(会社法322条1項、2項)。また社外取締役もその他の取締役と同様、株主総会の決議により解任させられる(会社法339条1項)。この決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)」による賛成によって成立する(特殊普通決議と言われる。)。
因みに余談ではあるが、代表取締役は取締役の中から取締役会決議により選任されるから、代表取締役の代表権を剥奪することは、取締役会の決議により可能である。但し、代表取締役が代表権を失っても、それにより取締役としての地位を当然に失うことはない。取締役としての地位は、株主総会の決議がなければ剥奪することはできないからである。逆に、株主総会決議により代表取締役が解任された場合は、取締役としての身分を喪失することになるので、自動的に代表権も失う。但し、既に解説したとおり、社外取締役には業務執行権限はないので、代表取締役に就任することはない。
解任の事由は問われない。すなわち取締役は、解任事由の合理性の有無を問わず、株主総会決議により解任されてしまう。しかしながら、解任に正当な理由がない場合、会社は解任した当該取締役に対し、解任により生じた損害を賠償しなければならない(会社法339条2項)。
いかなる場合に解任の正当な理由があるか否かにつき、最近出された東京地裁平成29年1月26日判決は、「(この点は)会社・株主の利益と当該役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり、具体的には、会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があることをいうものと解するのが相当である。」と言っている。この点について、これより以前に出された東京地裁平成28年6月8日判決は、若干踏み込んだ判示をしており、「解任について正当な理由がある場合とは、取締役に職務を執行させるに当たり障害となるべき状況が客観的に生じた場合をいい、大株主の好みや代表者との折り合いというような単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には正当な理由の存在は認められない。」としている(いずれも下線は筆者)。
解任に正当な理由が認められない場合、賠償すべき損害は、当該取締役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額、すなわち、任期満了時までの報酬額および退職慰労金支給会社における退職慰労金相当額ということになる。但し、社外取締役に退職慰労金が支給されることは通常考えられないから、正当な理由なくして解任された社外取締役が請求可能な損害は、解任された時点から、再任されない旨の株主総会決議がなされるはずであった株主総会終結時(ワタナベさんの場合は、次期定時株主総会終結時)までの報酬相当額ということになろう。
また取締役は、いつでも辞任することができる。会社と取締役間には委任契約が存在することに基づく(民法651条1項)。因みに、同条2項の規定により、抽象的には、会社の不利な時期に辞任したことにより会社に損害が発生した場合には、当該損害の賠償責任が発生する可能性がある。但し、取締役の辞任により会社に金銭的損害が発生することは、実際は想定しづらいと思われる。
以上が、社外取締役の選任および辞任・解任に関して要求される要件及び手続である。次回は、以上を前提としてワタナベさんの疑問に答えることにする。