マレーシア:政権交代と汚職対策法制・外資規制の視点
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
2018年5月、マレーシア議会下院選挙において、マハティール元首相が率いる野党連合が過半数の議席を獲得し、その結果、1957年の同国独立以来、初となる政権交代を実現した。マハティール首相が率いる新政権は、早速2018年6月1日から日本の消費税に相当する物品・サービス税(GST)の税率を現行の6%からゼロにすることを決定している。また、報道によれば、政府系投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)が関与する汚職嫌疑でマレーシア腐敗対策委員会によるナジブ前首相に対する再捜査が進められている。加えて、新政権は国益の観点から一部のインフラプロジェクトに係る対内直接投資へのより精緻な精査と見直しの可能性についても言及している。
かかる汚職再捜査や既存プロジェクト見直しに加え、新政権下での一般的な汚職撲滅に向けた取組や外資規制等に係るスタンスも、日系企業を含む外国投資家がその動向を特に注視しているところと思われる。そこで、本稿は、上記各事項に関する今後の動向を注視する際の参考として、現行マレーシアの汚職対策法制、及び外資規制等に関する法的枠組の基礎的事項を簡潔に紹介することとしたい。
汚職対策法制
贈収賄等の腐敗行為を規律するマレーシアの主要な法令としては、マレーシア腐敗対策委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)が挙げられる。それ以外にも刑法等が個別の規定により所定の腐敗行為を規律しているが、腐敗対策委員会法の方が刑法よりも贈収賄等の腐敗行為に関する処罰範囲が広く、また重い法定刑が規定されていること等から、実務上、腐敗行為に対する捜査は、腐敗対策委員会が腐敗対策委員会法に基づいて行うことが多い。同法に定める主な処罰対象行為等の概要は、以下のとおりである。
主要法令 | 項目 | 概要 |
マレーシア腐敗対策委員会法 |
主な処罰対象行為 |
いずかの事項・取引に関する何らかの作為・不作為、又は公的機関が関係する当該事項・取引に関する公的機関職員の何らかの作為・不作為の誘因・褒賞として又はそのために、何らかの利益を不正に要求若しくは収受し、若しくは収受する約束をし、又は不正に利益を供与若しくは約束し、若しくはその申入れを行ったこと
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上記行為に対する罰則 |
(ⅰ) 20年以下の禁錮、若しくは、(ⅱ) 当該犯罪に係る対象利益額の5倍(算定可能な場合)若しくは1万リンギットのいずれか高い額の罰金、又は、(ⅲ) 上記(ⅰ)(ⅱ)の併科 |
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捜査の主体・方法 |
腐敗対策委員会が、関係者の取調べや捜索・差押え等の所定の捜査権限を行使して腐敗対策委員会法を執行 |
なお、腐敗対策委員会法が、公務員への不正な利益供与等に限らず、私人間賄賂と呼ばれる私人間の所定の腐敗行為も規制対象としている点、留意する必要がある。すなわち、腐敗対策委員会法は、私人に対する不正な利益供与等も処罰対象に含む点で、外国公務員等に対する不正な利益供与等の禁止を定める日本の不正競争防止法と比べても処罰対象範囲が広くなっている。
外資規制等
マレーシアは、近年、対内直接投資を促進するための自由化を積極的に進めてきており、シンガポールを除くASEAN主要国の中では対内直接投資に対する制約は一般的相対的に小さくなっている。現在のマレーシアにおける外資規制等の枠組みとその代表的業種に関する大枠は、概要以下のとおりである。
項目 | 概要 | |
外資規制等の枠組み |
外国投資の業種横断的・包括的規制 |
現在なし |
現在の規制枠組み |
個別業種毎の外資規制 |
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ブミプトラ政策
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代表的業種の外資規制等 |
製造業 |
100%出資可能(一部の例外業種を除く。)
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サービス業 |
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その他の業種 |
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- ※ 本稿は一般的な情報を記載したもので、法的助言を構成するものではなく、個別具体的事案に関するものではありません。