◇SH1893◇債権法改正後の民法の未来31 消費貸借における抗弁の接続(2) 石川直基(2018/06/07)

未分類

債権法改正後の民法の未来 31
消費貸借における抗弁の接続(2)

米田総合法律事務所

弁護士 石 川 直 基

 

3 議論の経過

(1) 第1ステージでの議論状況

 第15回部会(第1ステージ)では、民法の消費貸借の規定の見直しに際し、抗弁の接続規定を入れるとの提案について、消極、積極両意見があった。

 消極意見は、割賦販売の適用除外とされている部分について、民法において抗弁接続を認めると、たとえば、少額取引(政令で4万円、リボ払いで3万8000円とされている)について、抗弁接続を認めると、このようなビジネスが成り立たなくなる恐れがあるとか、マンスリークリアの対象と考えられる鉄道料金やスーパーマーケットでの利用ができなくなる恐れなど様々な混乱が生じるのではないかとの疑問を呈し、また不動産ローンでは、すでに宅地建物取引業法における消費者保護等が図られていることから、割賦販売法の適用が除外されている点などを指摘し、抗弁接続の範囲は、政策的な判断に依存し、行政庁の判断とも密接にかかわるので、行政庁の制度を飛び越えて、民法に規定することへの違和感を述べていた。

 これに対して、積極意見は、売買契約に問題があるのにクレジット契約について抗弁できないことがおかしいと考えるのが一般人の考え方であること、マンスリークリアに対する苦情も多いこと、もともと下級審において取引の一体性、当事者の一体性といった取引実態に着目して抗弁の接続を認めたという蓄積があることなどを指摘し、民法へ抗弁接続の規定を設けることに積極的な意味があるとしていた。

 ただし、積極意見をとるとしても、抗弁接続の対象となる第三者与信型を消費貸借に限定することに疑問を呈し、リース契約など他の契約類型もカバーできるようにすべきとの意見、抗弁接続の要件として、供給契約と消費貸借契約を一体として行うことの合意を要求する立法提案は、狭すぎるとの意見、政策目的を考慮しつつ特別法を置いているのにすべてについてもっと広いものを民法におくということになると、かえって特別法が実効性を失う可能性もなくはないとの指摘、特別法に配慮してそれと抵触しないように民法に規定を置くというのは本末転倒な考え方であるなど、抗弁接続の対象となる法律行為の範囲や、要件について、様々な意見が出た(第15回議事録23頁)。

(2) 第2ステージでの議論状況

 第1ステージでの議論を経て、中間論点整理では、民法に抗弁の接続の規定を設けることを疑問視する意見があることも踏まえて、更に検討してはどうか。また、その際には、どのような要件を設定すべきかについても、割賦販売法の規定内容をも踏まえつつ、更に検討してはどうかと、論点が存続した。

 さらなる議論が継続されることになり、第2ステージでは、最終提案で示したように、具体的な要件を2種類提示するとともに、規定しないとの消極案を併記して、検討がなされた。

 甲-1案は、部会審議の当初から紹介されていた債権法改正検討委員会による立法提案であり、①与信の態様を消費貸借に、また、②消費者契約に限定し、③抗弁接続の要件も (a) 供給契約と消費貸借の一体性、(b) 供給者と与信者が供給契約と消費貸借を一体者とすることの合意を要求する案である。

 次に、甲-2案は、①与信の態様を消費貸借に限定せず、②消費者契約に限定せず、③要件も (a) 供給契約と与信契約との間の一体性[密接な関連性]、(b) 供給者と与信者との間の一体性[密接な関係]とし、合意を要求していない。なお、(a) と (b) の各要件は、互いに重複する部分が大きいと思われるが、(a) は取引と取引との関係を評価するもの、(b) は主体と主体との関係を評価するものとして、それぞれ理論的には独立したものと考えられるし、また、具体的な評価・認定の場面においても、一方は認められるが他方は認められないという場面が十分にあり得るとの指摘がなされている。

 これに対し、乙案は、抗弁の接続が問題となり得る事案のうち割賦販売法が規制の対象としているものについては割賦販売法上の規定で対処すべきであり、そうでないものについては信義則によって対処すべきであるとの批判、抗弁の接続に関する一般的な要件を定めると、その適用範囲が広がりすぎて不当な結果を招きかねないとの批判を踏まえ、規定を設けないことを提案していた。

 第54回部会では、甲-1案について、消費者契約、消費貸借契約に限定する案であり、適用範囲としては狭いけれども、間違いなく認められるコアな部分ととらえ、抗弁接続規定が、創設的な規定と解釈されている中、抗弁接続規定を民法に置くことは、私法の一般原則を示す点で学理的な意味があることを指摘する見解、信義則の具体化であると指摘する見解もあった。

これに対し、甲-1案は、現実の状況からは狭すぎるとして、甲-2案案を支持する見解が多かった(第54回議事録35頁)。

(3) 中間試案での論点落ち

 上記抗弁の接続規定の提案は、第二ステージまで議論されたが、平成25年7月4日付けの中間試案において、立法提案から落とされた。

 

タイトルとURLをコピーしました