◇SH3339◇インド:2019年消費者保護法上のProduct Liability(1) 山本 匡(2020/10/12)

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インド:2019年消費者保護法上のProduct Liability(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

 

 インドでは、2019年消費者保護法(Consumer Protection Act, 2019)(以下、「CPA」という。)が2019年8月に議会で承認され、大統領の同意を得た。その後、2020年7月下旬に多くの条文が施行された。CPAは、旧消費者保護法である1986年消費者保護法(Consumer Protection Act, 1986)(以下、「旧CPA」という。)を廃止し、全面改正したものである。CPAは、旧CPAに比べ、リコールに関する規定の新設やEコマース業者の責任、新たな規制当局としての中央消費者保護当局(Central Consumer Protection Authority)の設置等、消費者保護の大幅な強化が図られている。

 いわゆる製造物責任に関しては、CPA施行前においても、製造物等に欠陥があった場合の製造者等の責任は、1930年物品販売法(Sale of Goods Act, 1930)等の一般法や旧CPAにより認められ得たが、業種固有の法律を除けば、製造物責任について特に規定した法律は存在しなかった(旧CPA法にも製造物責任について特に規定した条文は存在しなかった。)。今後、4回にわたり、CPAにおいて新設されたProduct Liabilityに関する規定を概観する。インドでは、一般に、訴訟費用を含めてProduct Liabilityに関する訴訟を提起するハードルが低く、CPAの施行により、製造物の製造者等が責任を問われるリスクは高くなり得る。なお、日本の製造物責任法に基づく製造物責任は、製造物に関する民法上の不法行為責任の特則であるのに対し、以下で述べるように、CPA上のProduct Liabilityの内容は日本の製造物責任法上の製造物責任と根本的に異なる。

 以下で指摘しているものに限らず、CPAには、Product Liabilityに関する規制構造や条文相互の整合性・関係性等が不明な点、内容が不明確な規定がある。また、CPAは施行後約1か月(執筆時)しか経過しておらず、その解釈や運用は固まっていないため、今後の動向を注視する必要があることにはご留意いただきたい。

 

1.  Product Liabilityとは

 Product Liabilityとは、製造物またはサービスの製造物製造者または製造物販売業者の、製造または販売された当該欠陥製造物または当該製造物に関するサービスの欠陥によって消費者に生じた損害を賠償する責任をいう。日本の製造物責任法上、「製造物」にサービスは基本的に含まれないが、上記定義から明らかな通り、CPA上、製造物に関するサービスの欠陥についてもProduct Liabilityが発生する。なお、この定義によれば、Product Liabilityを負うのは製造物製造者および製造物販売業者であるが、製造物サービス提供者もProduct Liabilityを負う。

 

2.  欠陥

 製造物の欠陥(defect)とは、物品または製造物に関して、その時点で有効な法律もしくは契約(明示・黙示を問わない。)に基づき維持することが求められ、または取引業者が方法の如何を問わず主張する品質、数量、有効性、純度または基準の瑕疵、不完全性または欠点をいう。また、サービスの欠陥(deficiency)とは、その時点で有効な法律に基づき維持することが求められ、またはある者が契約その他に基づき履行することを約束した履行の品質、性質または態様の瑕疵、不完全性、欠点または不備をいい、消費者に損失または危害を生じる過失、不作為または作為および当該者が消費者に故意に関連情報を提供することを差し控えることが含まれる。

 上記の定義の通り、CPA上の欠陥の範囲は広汎で、日本の製造物責任法の「欠陥」のように、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」に限られない。

(2)につづく

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