◇SH1720◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(57)―掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑧ 岩倉秀雄(2018/03/23)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(57)

―掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑧―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、9. 顧問弁護士の役割とパワーについて述べた。

 顧問弁護士は、法の専門家として経営者に情報・専門性のパワーを発揮してコンプライアンス経営を求めることができる。また、法務・コンプライアンス部門と共に(特に現場に赴いて)コンプライアンス研修を実施することにより、組織全体のコンプライアンス意識の強化に資することもできる。

 今回は、監査法人等、外部監査人やその他のステークホルダーについて考察する。

 

【掛け声だけのコンプライアンスを克服する⑧】

10. 外部監査人

 公認会計士や監査法人等の外部監査人は、監査を通して公式・非公式に意見を述べる義務と機会がある。外部監査人が監査人の倫理規定に基づき経営トップに実効性あるコンプライアンスを求める場合、通常、経営トップはこれを無視することはできない。

 したがって、内部監査部門や法務部門、コンプライアンス部門は、外部監査人と連携し、内部統制強化の視点から実効性のあるコンプライアンス経営の推進を、掛け声だけの経営トップに対しても求めることが可能であり、必要である。

 しかし、米国のエンロン事件、ワールドコム事件や、我が国のカネボウ粉飾決算事件、オリンパス事件、東芝不正会計問題等のように、監査法人自身が不正へ加担する場合や監査不徹底により結果として企業不祥事を見過ごす例が発生している。

 会計監査を依頼されている監査法人が、明らかな不備がある場合を除いて、実態はともかく形式上コンプライアンス体制の不備が認められない場合には、顧客である企業に対してコンプライアンスの徹底を求めるのは、難しいのかもしれない。

 そうであっても、外部監査人は、日ごろから監査役、内部監査部門、法務・コンプライアンス部門と連携して会計に関する情報交換は当然として、会計以外のコンプライアンスに関する情報についても意見交換し、組織におけるコンプライアンスの浸透・定着状況について情報と認識を共有し、必要によっては、それらの部門と一致してそれぞれの立場から経営者に対して真のコンプライアンス経営の実践を提言する必要がある。

 なぜなら、コンプライアンスが徹底されていない組織では、コンプライアンスよりも利益優先の組織文化になっている可能性が高く、法や倫理を軽視する姿勢が、会計上の不正だけではなく業務全般において不正に手を染めることにつながりやすいからである。

 一方、外部監査人(法人)が会計面に限らず、顧客組織のリスク削減に協力し存在感を示すことができれば、外部監査人(法人)自身のスキルを高め業務の拡大に役立ち、同時に掛け声だけの経営者にコンプライアンス経営を促すことにつながる。

 筆者の経験では、現実の監査の現場では、担当監査人が非常に多忙であることや会計以外の専門性にばらつきがあること、予算面の制約等から、内部監査部門や監査人とリスク管理やコンプライアンスに関する日常的な意見交換の場を確保できていない場合が多いと思われる。

 それゆえに、外部の監査人(法人)は、中長期的視点から、関連部署(監査法人あるいはその子会社が有するリスク管理部門やCSR部門等)と連携し、グループトータルとして存在価値を示すことが組織の差別化につながる。これは、法人化されていない個人経営の公認会計士であっても、他の専門家と連携しネットワークを形成することにより対応が可能である。

 いずれにしても、外部監査人は、その情報専門性のパワー、権限と役割から見て、掛け声だけの経営トップの認識をコンプライアンス重視に変えることができるので、不正予防の視点からその役割を果たすべきである。

11. その他

 これまで述べてきたステークホルダーの他に、経営トップに影響力を行使して実効性のあるコンプライアンス経営を促すパワーを持つものとして、経営トップとコミュニケーションのある学識経験者、コンプライアンス・CSRについて啓蒙普及を行っている各種団体、管理職を含む従業員で意識の高い人々、各種格付け機関等が考えられる。

 また、既に考察したが、ソフトローとして企業の評判や評価に影響を及ぼし市場での経済的利益を左右することにより経営トップに実効性あるコンプライアンスの取組みを促すものとして、国連グローバルコンパクト、OECD多国籍企業行動指針、ISO26000、SDGs(国連持続可能な開発目標)、証券取引所の上場規定類、各種業界の標準や規格・自主規制等、消費者団体や人権保護団体、環境保護団体等のNGO・NPOも、掛け声だけの経営トップを真のコンプライアンス経営の実施に向かわせるパワーを有している。

 法務・コンプライアンス部門は、これらのパワーを活用して関係部門と共に掛け声だけの経営トップのマインドを変える努力が必要である。

 

 今回は、掛け声だけで本音ではコンプライアンスを重視しない経営者に、コンプライアンス経営を重視させる方法について考察した。

 次回からは、中小企業やベンチャー企業の組織特性と、それを踏まえたコンプライアンス施策について考察する。

 

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