実学・企業法務(第155回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
1. 業界の特徴
(1) 建設業界の特徴
4) 建設業界の経済規模
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○ 日本の建設業の規模は次の通り[1]。
産出額64.2兆円、生産額(付加価値)29.4兆円(2015年)
建設業就業者数は495万人(2016年)←ピーク時(1997年)の72%
許可業者数 46.5万(2017年3月末)
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○ 日本の建設投資の内訳[2]
民間32.7兆円 60%(民間住宅16.0兆、民間非住宅建築11.2兆、民間土木5.6兆)
政府22.2兆円 40%(政府住宅0.8兆、政府非住宅建築2.3兆、政府土木19.2兆) - (注) 新設住宅着工戸数は2008年まで毎年100万戸を超えたが、近年は90万戸台で推移。
5) 業界の事業構造
- ○ 多層下請構造のビジネスである。
- 元請から下請まで複数の専門業者が集って特定の工事を設計・完成することが多い[3]。
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・ 建築工事は、元請け、1次~3次下請等のピラミッド構造で行われることが多い。
1物件に、基礎・外構・内装等の専門工事の組み合わせが必要で、多層下請け構造になっている。
1次、2次、3次等の多層下請け業務全体の効率化が課題。
事業者間における信頼関係構築と契約遵守が不可欠で、作業者の質の確保と管理の徹底が重要。
複数の事業者が同一物件の建設作業を行うので、連鎖倒産回避の債権回収リスク管理が重要。 - ・ 土木・建設工事を発注者から直接請け負い、工事全体を纏める総合建設業者を「ゼネコン[4]」という。
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・ 複数企業が一つの建設工事を受注・施工する目的で形成する事業組織体を「共同企業体[5]」という。
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○ 多くの商品は完成・販売後も維持管理を必要とし、メンテナンス・ビジネスが存在する。
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○ 建設工事では公共入札[6]が多く、入札談合事件が後を絶たない[7]。(官製談合もある[8])
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○ 建設工事の業務フローの概要は次の通り。
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1 提案(企画設計、測量、工事原価積算)、契約交渉(見積額提示時の基本設計)又は入札
(注)受注前の作業で、大きな費用が発生することがある。 - 2 受注決定、契約締結
- 3 設計(受注後に行う実施設計)、工事原価総額の詳細見積の作成(当初契約で決めた修正枠の範囲内)
- 4 具体的な工程表を作成、各種工事の発注先を決定(工期対応力、技術力、価格等を評価)して施工
- 5 工事進捗状況を管理、工事の品質管理を目的とする工事監理(設計事務所等が設計図書と照合)
- 6 出来高査定を行って出来高分を支払い(着工時・工事中・完成引渡後の3回に分けて支払う例が多い)
- 7 工事完成、発注者による検査、引渡し
- 8 竣工後、一定期間の瑕疵担保責任
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1 提案(企画設計、測量、工事原価積算)、契約交渉(見積額提示時の基本設計)又は入札
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○ 外国における建設事業は、カントリーリスク、商慣行、労働者の質等が日本と大きく異なる点に留意する。
受注契約交渉の過程でリスクを洗い出し、それへの対応方法を契約条件に反映する。
6) 就業状況
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○ 就業者数の減少・高齢化が建設業界全体の問題で、特に、女性技術者の活用が課題。
建設業就業者は、55歳以上が34%、29歳以下が11%。[9]
就業者に占める女性の比率は、全産業43.5%に対し、建設業は14.9% と低い。[10] -
(注) 大手建設業者53社の女性比率は、事務職33.1%、技術職4.2%、その他2.1%、合計10.8%。[11]
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○ 仕事の現場が屋外で、場所も一定ではない。
季節・天候・地形・地質等の周辺環境の影響を大きく受ける。
資材・機械・作業員が案件毎に、別の工事現場に移動する。
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○ 作業現場には危険が多く、作業者の安全確保が重要
建設業界には、「重層下請構造」「所属の異なる労働者が同一場所で作業」「短期間で作業内容が変化」という特徴があるので、労働災害防止対策にあたっては、特に、次の4点に留意する[12]。 - ・ 工事現場において、元方事業者[13]による統括管理
- ・ 工事現場を管理する本店、支店、営業所等の工事現場への的確な指導・援助
- ・ 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)と、その結果に基づく措置の実施
- ・ 事業者の主体的能力に応じた労働安全衛生マネジメントシステムの導入を推進
[1] 内閣府「国民経済計算」、総務省「労働力調査」、国土交通省「建設業許可業者数調査」
[2] 国土交通省「建設投資見通し(2017年度)」
[3] マンション工事は、基礎工事(杭打ち等)→躯体工事(柱・梁等の骨格等)→内外装仕上げの工程を経て完了する。40~50社が関与することもある。
[4] 大手5社として非同族1社(大成建設)と同族4社(鹿島建設、大林組、清水建設、竹中工務店)が挙げられる。
[5] Joint Venture(JV)
[6] 国土交通省「土木工事積算基準」「公共建築工事積算基準」参照
[7] 公正取引委員会の法的措置件数(官公需入札談合に対する排除措置命令)は、2010年度3件、2011年度7件、2012年度4件、2013年度2件、2014年度0件、2015年度4件、2016年度5件である。(公正取引委員会「年次報告書」各年度版等より)
[8] 官製談合を規制する法律として「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(通称、官製談合防止法)が2002年に制定された。
[9] 2016年3月末。国土交通省「建設業の現状について」より。
[10] 総務省「労働力調査(2016年)」
[11] 国土交通省「平成28年 建設業活動実態調査の結果」より。大手建設業者53社、2016年10月1日時点の直近の決算期末の状況。
[12] 「建設業における総合的労働災害防止対策~建設業における自主的な安全衛生活動の促進を目指して~(厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署)」より。この活動では、事業者、発注者、労働災害防止協会、関係業界団体、行政が一体となって推進することが求められている。
[13] 「事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの」を「元方事業者」という。(労働安全衛生法15条1項)