法務担当者のための『働き方改革』の解説(4)
非正規労働者の処遇改善(同一労働同一賃金)
TMI総合法律事務所
弁護士 藤 巻 伍
Ⅰ 同一労働同一賃金とは
本稿より、働き方改革の大きな柱の1つである非正規労働者の処遇改善(同一労働同一賃金)に関する解説を行う。
第2章の目次は以下のとおりである。
Ⅰ 同一労働同一賃金とは Ⅱ 法改正の概要 Ⅲ 最高裁判決(ハマキョウレックス事件)の概要 Ⅳ 基本給、賞与及び退職金の均等・均衡待遇の確保 Ⅴ 職務に関連する手当の均等・均衡待遇の確保 Ⅵ 福利厚生的な手当の均等・均衡待遇の確保 Ⅶ その他福利厚生や教育訓練の均等・均衡待遇の確保 Ⅷ 定年後再雇用と同一労働同一賃金 Ⅸ 労働者派遣と同一賃金同一労働 Ⅹ 不合理な格差を是正するための実務的対応 |
1 政府の狙い
平成29年3月28日に公表された「働き方改革実行計画」では、非正規労働者の処遇改善(同一労働同一賃金)により、非正規労働者の勤労意欲を向上させ、労働生産性の向上につなげるとともに、生産性向上や経済成長の成果を労働者に分配し、日本経済の潜在成長力の底上げを図るという政府の狙いが示されるとともに、「我が国から『非正規』という言葉を一掃することを目指す。」と力強い宣言がなされた。
2 日本版同一労働同一賃金の中身
労働契約法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 |
現行法において不合理な労働条件の禁止を規定する労働契約法20条の内容を簡単に説明する。
対 象 :
無期雇用労働者VS有期雇用労働者
規制内容 :
両者間における労働条件の相違は不合理と認められるものであってはならない。
不合理性の考慮要素 :
㋐ 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)
㋑ 当該職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)
㋒ その他の事情
格差禁止の対象となる「労働条件」とは、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含する。
また、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を意味し、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を意味する。そして、「その他の事情」とは、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されている。
本規定は、各要素を総合的に考慮して不合理であると認められる格差を禁止するものであり、職務の内容等が同一であったとしても、「その他の事情」を考慮した結果、格差が不合理でないと判断される可能性がある。他方で、職務の内容等が同一でなくても、格差の大きさによっては格差が不合理であると判断される場合があり、つまり、職務の内容等が異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるといえる。
以上を前提に、「同一労働同一賃金」という視点から分析した労働契約法20条のポイントとしては、以下の点が挙げられる。
- ①「労働(職務の内容、人材活用の仕組み)」と関連していない賃金(家族手当等)も格差禁止の対象となる。
- ②「賃金」以外の労働条件(福利厚生等)も格差禁止の対象となる。
- ③「労働」が同一でなくとも、「労働」の違いに比べて労働条件の格差が大きく、これが不合理と評価されれば、違法となる。
- ④「労働」が同一であって、労働条件が同一でない場合であっても、その他の事情を考慮して、それが不合理な格差でなければ、違法とはならない。
以上の点からもわかるとおり、「同一労働同一賃金」という言葉から受けるイメージと労働契約法20条が意味する内容は必ずしも同一ではないのである。