◇SH0671◇法のかたち-所有と不法行為 第十四話-4「私のもの」の維持・回復 平井 進(2016/05/24)

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法のかたち-所有と不法行為

第十四話 「私のもの」の維持・回復

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

5  プーフェンドルフ

 プーフェンドルフは、1672年の『自然と万民の法』の「何人も害されるべきでなく、何らか損害が加えられたときは回復されるべきこと」という表題の章において、損害の回復について次のように述べている。

 「他者を害してはならず、他者に損害を与えたときは回復しなければならない」という絶対的な義務がある。これは「いかなる人間の制度が形成されるよりも前に、すべての人々を拘束する最初の位置にあった。」[1]この原理は、自然が与えた人間の生命・身体・四肢・徳・名声・自由をはじめとするものを守り、我々に帰属するものが破壊・損傷・奪取されることを禁ずる。

 以上で古代ローマ以来のsuum(私のもの)とそれを維持・回復すべき規範概念の系譜を簡単に見てきた。suum概念はその人間主体との関係において、「絶対的」「相対的」という対比をするとすれば、主体と切離せず譲渡できない人間的な実体が「絶対的」であり、その主体の外にあって対象化されて譲渡できる財産的な実体が「相対的」である。

 この概念が実際の歴史にインパクトをもったのは、当然にして、その「絶対的」な実体に関する理念においてであった。それが人の自由の保護の運動に与えた影響について、次に見ていきたい。



[1] Samuel Pufendorf, De Jure Naturae et Gentium, Libri Octo, Vol. 1 (The Photographic Reproduction of the Edition of 1688), Clarendon Press, 1934, III,1.1., pp. 212-213. 英語訳として、同Vol. 2 (Translation by C. H. Oldfather & W. A. Oldfather). Ibid., III,1.2.

 

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