パナソニック、大阪国税局からの更正通知書の受領と対応
岩田合同法律事務所
弁護士 佐 藤 修 二
パナソニックは、本年9月11日、2016年3月期及び2017年3月期につき、大阪国税局から、所得金額421億円の申告漏れがあるとする同日付の更正通知書を受領した旨発表した。発表によれば、パナソニックは、2017年8月から税務調査を受けており、指摘の内容は、同社の海外子会社の株式譲渡に係るものということである。以下、パナソニックのプレスリリースの内容を元に検討してみたい。
事案は、末尾に図示のとおり、パナソニックが海外持株体制の再編を進める中で、パナソニックノースアメリカ株式会社の全株式を、パナソニックの100%子会社であるパナソニックホールディングオランダ有限会社に譲渡したというものである。
大阪国税局は、かかる株式譲渡の価額は、時価を下回る価格によるものであり、時価との差額は、国外関連者への寄附金(租税特別措置法66条の4第3項)として、パナソニックの課税所得算定上、損金に算入できないものとした。しかし、パナソニックは、譲渡価額は客観的な評価に基づく適正な時価であるとして、不服申立て等の必要な手続を行う予定であるとしている。
パナソニックによる公表情報は、以上の程度であり、詳細は分からない。しかし、日本企業のグローバル展開という観点からは、課税に対してやや違和感も否めない。
折しも、本年4月1日、日本企業の海外M&Aに伴ういわゆるPMI(Post Merger Integration:買収先企業の統合)として行われる海外グループ会社の持株構造の再編(グループ内での株式譲渡)につき、これを税制が阻害しないためのタックス・ヘイブン対策税制の改正が施行された。タックス・ヘイブン対策税制は、いわゆる軽課税国に所在する日本企業のグループ会社に発生する所得のうち一定の要件を満たすものについて、「課税逃れ」であるとして、親会社である日本企業の所得に合算して課税を行うものである。昭和53年に導入されたこの税制は、課税逃れの防止を目的とするものであるが、近年、その目的を超えて、正常な経済活動を行っている場合にまで課税範囲を広げ、日本企業の経済活動を妨げているとする批判を受けるようになった。その結果、正常な経済活動を適用対象外とするための改正が重ねられており、上記のPMIに係る改正も、その流れの一環である。
平成30年度税制改正の内容は、こうである。従前は、PMIに伴う持株構造の再編によって海外子会社株式が日本企業のグループ会社間で譲渡される場合、これによって日本企業の海外子会社でいわゆる軽課税国に存在するもので発生する譲渡益は、タックス・ヘイブン対策税制によって、親会社である日本企業において合算課税の対象となっていた。しかし、このような課税は、日本企業の最適な海外事業展開の障害となるとの指摘があり、改正によって、PMIに伴って軽課税国所在の子会社に発生する譲渡益については、タックス・ヘイブン対策税制による合算課税の対象とはしないこととなった。
本件における株式譲渡は、PMIに伴うものではないようであり、またタックス・ヘイブン対策税制を適用した課税事案ではない。しかし、日本企業の海外展開を阻害しないという改正の背景にある精神にも鑑みると、米国子会社株式の譲渡が海外持株体制の再編によるものであり、その価額も客観的な評価に基づく適正な時価によるものであるとすれば、当該価額が「不当に安い」として課税対象とすることは、正常な経済活動を妨げるものではないかとも懸念される。パナソニックは、今後、課税処分に対する不服申立てを行うとのことであり、今後の動向に注目したい。
<事案の概要>