金融庁、スルガ銀行に対し新規の投資用不動産融資の停止等の行政処分
――スルガ銀行は再発防止策を公表――
金融庁は10月5日、スルガ銀行に対する行政処分を行ったと公表した。
スルガ銀行では、シェアハウス関連融資等における不正行為について、9月7日に「第三者委員会調査報告書」を公表し、さらに9月14日に「取締役等責任調査委員会」および「監査役責任調査委員会」の設置について公表したところである(後掲の別稿参照)。
今回の行政処分では、①新規の投資用不動産融資等について10月12日から来年4月12日まで停止すること、②全役職員について法令遵守等に関する研修を実施すること、③今回の処分を踏まえた経営責任の明確化や業務運営態勢の確立等の健全かつ適切な業務運営を確保するための諸施策をとること、を命じるものとなっている。
これに対し、同日にスルガ銀行が公表したプレス・リリースでは、金融庁からの指摘事項について同社が現状把握している内容を次のように公表している。
⑴ シェアハウスおよび投資用不動産融資に係る書類の改ざんへの関与・黙認等
- ① レントロールの改ざん 131件
- ② 自己資金の改ざん 1,101件
- ③ 収入の改ざん 89件
- ④ 二重契約等 225件
⑵ 銀行法第13条の3第3号(抱き合わせ販売の禁止)違反 534件
⑶ 銀行法第52条の36第1項(銀行代理業の許可制)違反またはそのおそれのある不動産業者の数 88社
⑷ 創業家ファミリー企業への融資総額
- ① 創業家ファミリー企業への融資総額 488億円
- ② 創業家ファミリー企業から創業家個人への融資総額 69億円
⑸ 反社会的勢力との取引排除の取り組みに関する問題点
- ① 反社会的勢力として取り扱っている顧客との間で新規に口座開設している件数 46件
- ② カードローンの新規取引開始時には反社会的勢力と認定されなかったものの、その後新たに反社会的勢力として取り扱うようになった先について、既契約のカードローン枠内のカードローン残高増加を許容した件数 22件
⑹ 犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第1項(取引時確認等)違反
- ・ 法人の実質的支配者情報を確認しないまま特定取引を実行している件数 18件
さらに、スルガ銀行がすでに着手した再発防止策(ガバナンス体制刷新のための機構改革、コンプライアンス研修の実施等)も公表している。
以下では、金融庁による行政処分の内容と、スルガ銀行の再発防止策の概要を紹介する。
金融庁による行政処分の内容(銀行法26条1項に基づく命令)
⑴ 平成30年10月12日(金)から平成31年4月12日(金)までの間、新規の投資用不動産融資を停止すること。
また、自らの居住に当てる部分が建物全体の50%を下回る新規の住宅ローンについても同様に停止すること。
⑵ 上記⑴の期間において、当行の役職員が融資業務や法令等遵守に関して銀行員として備えるべき知見を身につけ、健全な企業文化を醸成するため、全ての役職員に対して研修を行うこと。その際、各役職員が少なくとも一定期間通常業務から完全に離れ当該研修に専念することにより、その徹底を図ること。
⑶ 健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行すること。
- ① 今回の処分を踏まえた経営責任の明確化(厳正な判断が期待できる社外の第三者による客観的な検証体制の構築及び責任追及を含む)
- ② 法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立(当局への正確な報告の実施にかかるものや過去の不正行為等に関する必要な実態把握を含む)と全行的な意識の向上及び健全な企業文化の醸成
- ③ 反社会的勢力の排除に係る管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の確立
- ④ 融資審査管理を含む信用リスク管理態勢及び内部監査態勢の確立
- ⑤ 当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立
- ⑥ シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立
- ⑦ 上記を着実に実行し、今後、持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化
⑷ 上記⑶に係る業務の改善計画を平成30年11月末までに提出し、直ちに実行すること。
⑸ 上記⑷の改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3ヶ月毎の進捗及び改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を平成30年12月末とする)。
スルガ銀行「当社に対する行政処分について」
4 再発防止策
⑴ ガバナンス体制刷新のための機構改革
現在、取締役会は社外取締役が過半数を占めており(社内取締役2名、社外取締役4名)、取締役会議長も本年9月より社外取締役が務めている。監査役会も、監査役5名のうち社外監査役が3名となっている。社外役員が積極的に発言して充実した審議を行っており、経営に対する監督・牽制機能が強化されている。
加えて、今後、会議体の改革を実施する予定であり、これまでの経営会議を廃止し、執行会議を改編して業務執行全般を一元的に担う体制とする。さらに、これまでは経営会議の諮問機関であった各リスク委員会を取締役会の諮問機関とし、各リスク委員会が取締役会へ直接報告を行うことで取締役会の情報収集機能を強化していく。また、取締役会において実効性のある審議が行われるように、決議事項および報告事項の充実などの見直しを行う。
⑵ 企業文化・ガバナンス改革委員会による取締役会への勧告・提言・助言等の実施(略)
⑶ シェアハウス等顧客対応室によるお客さま支援
6月28日、「シェアハウス等顧客対応室」を設置し、現在62名の専従職員がお客さまの置かれた個々の状況に応じてきめ細かく、貸出金利の引き下げ、元金据え置きなどの対応をしている。これまでに直接交渉可能なシェアハウス・オーナーについて全体の約9割と面談を実施し、うち約7割以上のお客さまについて金利・返済方法等の条件変更を実施した。金融機関として取り得るあらゆる選択肢について踏み込んだ検討を行い、必要に応じて金融ADRや民事調停等の手続を利用し、元本債権を一部放棄するなど、当社においても相応の負担に応じることとしている。
⑷ 経営陣の刷新ならびに新組織体制の構築
9月7日、一連の事案の経営責任を取り、代表取締役3名と役付取締役2名、計5名が辞任し、新経営体制として、有國三知男を代表取締役社長に選任した。また、経営の安定および信頼回復を図るため、佐々木弘氏を上席執行役員・業務改革担当として社外より招聘するとともに、新たに7名の執行役員を社内から選任した。
また、10月1日付で機構改革を実施し、経営企画部と経営管理部を再編し、これらの部から企画部門機能と財務管理部門機能を切り離して統合した「総合企画本部」を新設し、社内外の情報を一元管理するとともに、対外的な窓口も一本化することで内部管理態勢を強化した。さらに、従前の経営企画部から「コンプライアンス統括部」を独立させ、コンプライアンスを最優先とした業務運営を行えるよう、機能強化を図った。
⑸ 法的責任の追及(略)
⑹ 不正に関与した従業員および監督責任者等の処分(略)
⑺ コンプライアンス研修の実施
7月および9月に全部店長会(営業店および本部の所属長が全員参加)を開催し、お客さま本位の業務運営と法令等遵守の再徹底を行うとともに、グループミーティングなどの双方向型の研修を実施した。また、8月、営業社員約300名を対象とした研修を行い、双方向型の議論をすることでお客さま本位の業務運営と法令等遵守を再徹底した。
⑻ 反社会的勢力との取引の解消
反社会的勢力として取り扱っているにもかかわらず取引の解消に向けた取り組みが行われていなかった先について、9月以降、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会副委員長竹内朗弁護士や外部専門機関と連携し、取引の解消に向けた取り組みを開始している。
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金融庁、スルガ銀行株式会社に対する行政処分について(10月5日)
https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20181005/20181005.html -
○ スルガ銀行、当社に対する行政処分について(10月5日)
https://www.surugabank.co.jp/surugabank/kojin/topics/181005.html -
参考
SH2094 スルガ銀行、第三者委員会調査報告書を公表 山田康平(2018/09/18)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=7163776 -
SH2106 スルガ銀行、「取締役等責任調査委員会」および「監査役責任調査委員会」を設置(2018/09/26)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=7212519