◇SH0325◇銀行員30年、弁護士20年 第30回「弁護士をどう選ぶか」 浜中善彦(2015/05/26)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第30回 弁護士をどう選ぶか

弁護士 浜 中 善 彦

 トラブルを抱えて弁護士に相談したいと思った場合、どこへ行ったらいいかわからないという人は多い。弁護士会も、法テラスや各地域に法律相談センターを設けるなどして、弁護士に対するアクセス障害をなくす努力はしている。 しかし、一般市民にとっては、病気になったとき、医者や病院を探すのに比べると、弁護士の場合は、そもそもそういう制度があること自体を知らない人の方が多い。

 法テラスその他で法律相談を受けた場合でも、いざ実際に弁護士に依頼をするとなると、どういう基準で選んでいいかは問題である。医者の場合であれば、風邪をひいた場合は内科医、骨折をした場合は外科医へ行くであろう。これに対して弁護士の場合は、そもそもどこに弁護士がいるかがわからない。仮に、区の法律相談等で弁護士相談で弁護士に相談できた場合でも、医者と違って弁護士は専門分野あるいは得意分野の表示がないので、本当にその人に頼んでいいかどうかわからない。全国の弁護士の経歴や得意分野を記載した全国弁護士大観を見ても、得意分野欄に法律全般、民事全般等とある例が圧倒的に多い。これでは、医者の場合の内科医と外科医の区別すらわからない。

 しかし、医者を選ぶ場合でも、がんになった場合はかかりつけの医者がいるからといってその医者に頼むということはまずないはずである。この場合は、その医者に紹介をしてもらうか、大学病院や総合病院等の大病院へ行くであろう。その場合も、果たして紹介された医者または大学病院の医者に任せていいかどうかは別問題である。この場合は、相談した弁護士に裁判を依頼していいかどうかと同じ問題が起きる。
 私は、約20年前、銀行の成人病検診の胃カメラによる検査で、食道に病変がありますといわれた。とっさに、先生がんですかと尋ねたら、検査した医者は、詳しいことは、東京医科歯科大学病院の遠藤光男先生に紹介状を書くから、そこへ行きなさいといわれた。食道の病変ということだったので調べてみると、食道がんしかないと確信した。食道がんは非常に難手術であり、当時は、手術をしても5年生存率が20%台であった。
 当時、食道がん手術では、遠藤光男先生と虎の門病院の秋山洋先生のお二人が最も有名であった。秋山先生にも伝手があったので、とりあえず遠藤先生にお会いをして、そのうえで秋山先生にお会いして、そのうえで、どちらの先生にお願いするか決めようと考えた。

 医科歯科の遠藤先生を訪ねて診察室へ入った途端、遠藤先生にお任せしようと迷わず決めた。その時遠藤先生は、白衣を着て、机に座ってカルテか何かを見ておられた。小柄な、格別特色のある感じではなかったが、直感的に、お人柄というか信頼できる先生だと感じた。なぜそう感じたかというのは理屈ではなく、これまでの経験からとしかいいようがない。その時は、持って行った胃カメラの写真とカルテをご覧になったような気がするが、はっきりした記憶がない。もう少し調べてみましょう程度の話だったと思う。そして、手術をすることになった。手術は7時間もかかったそうである。入院中もあまりお話をした記憶はない。しかし、何ともいえず人間味にあふれた、やさしい先生であったと思う。命の恩人であるだけではなく、立派な先生だったと、今でも尊敬している。尊敬している医師のもうお一人は、小学1年生のとき、頭蓋骨折をしてお世話になった大林義彦先生(大林宣彦監督のご尊父)である。
 弁護士も医者も、その技量については素人にはわからない。素人にとっては、どちらの場合も、選択の基準は、その人の人格とそれに対する信頼しかないのではないかと思う。

以上

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