◇SH2204◇スルガ銀行、シェアハウス等融資問題につき現旧取締役・執行役員に対する損害賠償請求訴訟を提起(2018/11/21)

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スルガ銀行、シェアハウス等融資問題につき
現旧取締役・執行役員に対する損害賠償請求訴訟を提起

――監査役に対する提訴はせず――

 

 スルガ銀行は11月12日、シェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関して、同社の現旧取締役及び旧執行役員に対する損害賠償請求訴訟を提起したと公表した。

 スルガ銀行では、シェアハウス関連融資等における不正行為について、9月7日に「第三者委員会調査報告書」を公表し、さらに9月14日に「取締役等責任調査委員会」(委員長=小澤徹夫弁護士)および「監査役責任調査委員会」(委員長=西岡清一郎弁護士)の設置について公表したところであり、これに対して金融庁は10月5日、同社に対する行政処分を行ったと公表した(後掲の別稿参照)。

 スルガ銀行は、11月9日に「取締役等責任調査委員会」より受領したシェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関する調査報告書を踏まえ、同社社外監査役が、現旧取締役に対する提訴の要否を検討した結果、当該調査報告書の内容に従って、現旧各取締役の同社における地位、責任原因に対する関与の度合い等を考慮の上、損害額の一部について現旧各取締役8名(1名についてはその相続人)に対する損害賠償請求訴訟(11億円~35億円)を提起することを決定し、11月12日、静岡地裁に提起した(本訴訟については、代表取締役ではなく、上記社外監査役が会社を代表)。

 また、同社取締役会は、上記調査報告書を受けて、旧執行役員についても提訴の要否を検討した結果、当該調査報告書の内容に従って、旧執行役員1名に対する損害賠償請求訴訟(11億円)を提起することを決定し、同日、静岡地裁に訴えを提起した(本訴訟については、代表取締役が会社を代表)。

 次に、「監査役責任調査委員会」より受領した調査報告書を踏まえ、同社取締役会が、現旧監査役に対する提訴の要否を検討した結果、現旧の監査役について損害賠償責任は認められないとする当該調査報告書の内容に従い、現旧監査役に対しては損害賠償請求訴訟を提起しないことを決定した。

 同社では、訴訟の今後の経過について必要に応じ適時適切に開示していくほか、創業家ファミリー企業に対する融資等の問題に関しては、取締役等責任調査委員会・監査役責任調査委員会においてさらに調査を継続しており、今後、追加の調査結果報告を受けた場合には、適時適切に対処していくこととしている。なお、今般の提訴に係る調査報告書については、11月14日に公表している。

 また、同社は、上記の行政処分に対する取組みの一環として、投資用不動産向け融資における不正行為の全容解明に向けて、顧客に対するアンケート調査等を実施することも11月9日に公表している。

 以下では、取締役等責任調査委員会と監査役責任調査委員会の調査報告書(要約版)の概要を紹介する。

 

「スルガ銀行株式会社・取締役等責任調査委員会調査報告書(要約版)」の概要

第4 融資業務の実施に当たって銀行の取締役に求められる注意義務

 最決平成21年11月9日(刑集63巻9号1117頁)が判示するとおり、銀行の取締役は、融資業務の実施に当たって、「元利金の回収不能という事態が生じないよう、債権保全のため、融資先の経営状況、資産状態等を調査し、その安全性を確認して貸付を決定し、原則として確実な担保を徴求する等、相当の措置」(以下「債権保全措置」という。)をとる義務を負うのであって、これは法的義務である。

 これを前提に、取締役の善管注意義務違反について、第5では個別の債権保全措置及び監視監督義務の観点から、第6では債権保全措置に関する内部統制システムの構築義務の観点から論じる。

 

第5 シェアハウスローンの監視監督義務違反の有無

1 本件における監視監督義務に関する考え方

 銀行の取締役は、債権保全措置に関する監視監督義務を負う。

 本件では、各取締役において、シェアハウスローンについて相当な債権保全措置が講じられておらず、シェアハウスローンを実行し続けることがスルガ銀行に重大な損害を及ぼす危険性を認識し、又は認識し得た場合には、それぞれの地位や管掌に応じて損害発生回避のために相当な措置を講ずる義務が発生すると解すべきである。

 具体的には、代表取締役及び融資業務に直接関係する業務担当取締役(本件では営業及び審査の管掌取締役が該当する)には、シェアハウスローンに関する融資業務にあたって相当な債権保全措置が講じられていないことを認識し、又は認識し得た場合には、相当な債権保全措置が講じられるまで直ちにシェアハウスローンの実行を差し止める義務が生じ、シェアハウスローンに関する債権保全措置が講じられていないことを疑うに足りる事実を認識し又は認識し得た場合には、シェアハウスローンについて相当な債権保全措置が講じられているかの調査を開始する義務が生じると解すべきである。これらの措置が取られない場合は、監視監督義務に違反したことになる。

 そして、融資業務に直接関係する業務担当取締役以外の取締役には、シェアハウスローンに関する融資業務にあたって相当な債権保全措置が講じられていないことを疑うに足りる事実を認識し又は認識し得た場合は、取締役会や監査役に対し、相当な債権保全措置が講じられていない疑いがあることを報告したうえで、それを調査するよう求める義務が生じる。上記の義務を怠った場合には取締役としての監視監督義務に違反することになる。

 

第6 内部統制システムの構築に関する取締役の善管注意義務違反の有無

1 本件における内部統制システム構築義務に関する考え方

 債権保全措置に関する内部統制システムに機能不全が生じている場合、これを認識し、又は認識し得た取締役は、内部統制システムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が発生し得る。ただし、複数の機能不全により損害が発生した場合、いかなる機能不全を認識し又は認識し得た場合に、内部統制システム構築義務違反が認められるかは、各取締役の地位及び当該機能不全の性質に応じた総合考慮となる。

 具体的には、代表取締役及び融資業務に直接関係する業務担当取締役(本件では営業及び審査の管掌取締役が該当する)には、債権保全措置に関する内部統制システムの機能不全を認識し、又は認識し得た場合は、内部統制システムを構築すべき義務が生じ、その余の取締役には、これを認識し又は認識し得た場合は、取締役会や監査役に対し、内部統制システムの機能不全を報告したうえで、それを構築するよう取締役会に求める義務が生じる。

 

第8 取締役等の善管注意義務違反と損害

1 当委員会の損害についての考え方

 スルガ銀行は、本来、より早い時期にシェアハウスローンの実行を中止し、必要な調査を行うべきであったところ、取締役の善管注意義務違反及び執行役員の義務違反によりこれが遅れることとなった。すなわち、スルガ銀行は、本来であれば、実行すべきでなかったシェアハウスローンを実行していたものであり、このうち、回収不能となるものが善管注意義務違反(義務違反)と相当因果関係を有する損害となる。

 当委員会は、過去の貸倒実績率などを勘案して、義務違反発生後に実行されたシェアハウスローンの3割が回収不能となるものとし、各取締役、執行役員の善管注意義務違反(義務違反)が生じた時点ごとに分けてシェアハウスローンの実行額を明らかにし、その3割相当額を善管注意義務違反(義務違反)と相当因果関係を有する損害とみなすこととした。

 なお、実際に各取締役等に賠償を求めるとした場合には、各取締役等の地位、役割や寄与度、回収可能性、現時点で生じている実損の額、訴訟コスト等を勘案して請求額を定めるべきである。

5 信用毀損による損害

 本件一連の問題の発生によって、スルガ銀行のガバナンスに対する信頼は失墜し、スルガ銀行に対する信用は著しく毀損することとなった。

 スルガ銀行の信用が毀損し、顧客離れ等が生じたことによるスルガ銀行の損害は、少なくとも金1億円を下回ることはない。

 これも法的責任の認められる取締役及び執行役員の義務違反によって、スルガ銀行が被った損害となる。

 

「スルガ銀行株式会社・監査役責任調査委員会調査報告書(要約版)」の概要

第5 シェアハウスローンに関する監査役の善管注意義務違反の有無

1 日常の監査業務に関する善管注意義務違反の有無

 監査役が行っていた日常的な監査活動、すなわち、監査方針・監査計画の策定・作成状況やその内容、取締役会その他重要会議への出席状況、監査役の職務の分担、会計監査人との連携の状況、実地調査(往査)の手順・実施内容等は、スルガ銀行の監査役監査基準に則ったものであり、銀行の監査役が実施すべき監査の方法として特に不相当な点は認められない。往査がヒアリング中心であった点についても、監査役監査に充てられる人員等や時間が限られていることからすると不合理とは認められない。したがって、取締役の違法行為等の兆候が認められない限り、監査役としての善管注意義務違反があったとは認められない。

 

第6 内部統制システムの構築等に関する監査役の善管注意義務違反の有無

 スルガ銀行の取締役会において決議された業務の適正を確保するための体制の内容自体は相当であったが、その運用において、シェアハウスローンのリスク分析・管理体制の不備、審査部門の独立性の欠如・審査の機能不全、営業部門の業務フローにおける機能不全、情報の断絶等の不備が認められた。

 しかし、各監査役は、審査部門の独立性の欠如・審査の機能不全、営業部門の業務フローにおける機能不全、情報の断絶の各事実を認識し、又は認識し得たとは認められない。また、シェアハウスローンのリスク分析・管理体制の不備に関しては、各監査役は、シェアハウスの入居状況の確認が困難であること、シェアハウスローンについて商品開発時のリスク分析がなされていなかったことは認識し得たと認める余地があるが、これらの事実のみを認識し、又は認識し得たとしても、スルガ銀行の内部統制システムが実質的に機能不全に陥っていると疑うことは困難であった。

 したがって、各監査役は、内部統制システムの構築等に関する善管注意義務に違反したとは認められない。

 

 

  1. スルガ銀行、シェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関する当社現旧取締役及び旧執行役員に対する損害賠償請求訴訟の提起等に関するお知らせ(11月12日)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/11/181112.pdf
  2. ○ 取締役等責任調査委員会および監査役責任調査委員会の調査報告書(11月14日)
    https://www.surugabank.co.jp/surugabank/kojin/topics/181114.html
  3. ○ 投資用不動産向け融資における不正行為の全容解明調査実施について(11月9日)
    https://www.surugabank.co.jp/surugabank/kojin/topics/181109.html
  4.  
  5. 参考
    SH2094 山田康平「スルガ銀行、第三者委員会調査報告書を公表」(2018/09/18)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=7163776
  6.   SH2106 スルガ銀行、「取締役等責任調査委員会」および「監査役責任調査委員会」を設置(2018/09/26)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=7212519
  7.   SH2142 金融庁、スルガ銀行に対し新規の投資用不動産融資の停止等の行政処分(2018/10/16)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=7350189

 

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