◇SH3584◇シンガポール:DIP型再建手続(スキーム・オブ・アレンジメント)とDIPファイナンス(1) 酒井嘉彦(2021/04/19)

未分類

シンガポール:DIP型再建手続(スキーム・オブ・アレンジメント)と
DIPファイナンス(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

1. はじめに

 本稿では、2020年7月に施行されたシンガポール倒産法(「倒産法」)に規定される法的手続のうち、DIP型再建手続であるスキーム・オブ・アレンジメント及びDIPファイナンスの法的枠組みについて概説する。

 

2. DIP型再建手続(スキーム・オブ・アレンジメント)

(1) スキーム・オブ・アレンジメントとは

 スキーム・オブ・アレンジメントとは、会社の債権者の法定多数の承認及び裁判所の認可を得ることにより、会社と債権者との権利義務関係を規律することを可能とする法制度であり、支払不能状態にある会社が債権者から支払猶予や債務免除を受けつつ会社を再建するためのいわゆるDIP(Debtor in Possession)型の再建手続としてしばしば利用されている。シンガポールの倒産法におけるスキーム・オブ・アレンジメントは、米国のチャプター11のDIP型再建手続の法的枠組みを積極的に取り入れたものと考えられている。

 

 なお、シンガポールの倒産法では同じく再建型の手続であるJudicial Management(会社更生手続)も用意されているものの、Judicial Managementでは現経営陣が会社の経営権及び会社財産の管理処分権を失い、Judicial Manager(更生管財人)が裁判所の監督の下で手続を遂行することになっており、この点が、現経営陣が会社の経営権を維持したまま再建を目指すDIP型であるスキーム・オブ・アレンジメントとの大きな違いの一つである。

 

(2) シンガポールのスキーム・オブ・アレンジメントの概要

 シンガポールにおけるスキーム・オブ・アレンジメントの主要な手続の流れは、概要以下の通りである。

  1. (ⅰ) まず、スキーム案(再生計画案)について債権者の承認を得るために、裁判所に対して債権者集会の招集が申し立てられる。
  2.  
  3. (ⅱ) また、申立人は、裁判所に対して、モラトリアム(債務者である会社に対する財産差押え、担保権実行等の法的手続や処分を一定期間停止させる期間のことをいう。)の付与を申請することができ、原則として、暫定的なモラトリアムが自動的に開始される。これは、会社を債権者からの債権回収行為から一定期間解放することにより会社財産の流出を防ぎ、会社の再建に資することを目的とするものである。
  4.  
  5. (ⅲ) スキーム案を実行するためには、債権者集会において、債権者のクラス毎に、法定多数の賛成(頭数ベースで過半数の賛成、及び、総債権額の4分の3以上の債権額を保有する債権者の賛成)による承認を得る必要がある。
  6.  
  7. (ⅳ) あるクラスの債権者の承認が得られない場合であっても、①全ての債権者の過半数の賛成及び総債権額の4分の3以上の債権額を保有する債権者の賛成があり、また、②異なる複数のクラスの債権者を不当に差別しておらず、かつ、承認が得られないクラスの債権者にとって公正かつ衡平であること等の一定の要件が満たされる場合には、裁判所はスキーム案を認可することができるとされている(いわゆるクラムダウン制度)。
  8.  
  9. (ⅴ) 最後に、スキーム案の実行について裁判所により認可される。裁判所の認可がなされた場合、スキーム案は法的拘束力を有することになり、会社及び全ての債権者はスキームに従う必要がある。

つづく

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました