債権法改正後の民法の未来 69
損害賠償の各則ルールほか(1)
大阪梅田法律事務所
弁護士 松 尾 吉 洋
1 最終の提案内容
損害賠償の各則ルールの規律を明文化することが検討されたが、見送られることとなった。
【参考】中間的な論点整理(第3 債務不履行による損害賠償)
3 損害賠償の範囲(民法第416条)
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2 検討がされた背景(立法事実)
(1) 故意・重過失による債務不履行における損害賠償の範囲
学説やヨーロッパの立法提案等において、故意または重過失による損害惹起である点に強い非難の根拠を見いだし、故意または重過失による債務不履行という特殊性を踏まえた独自の規律を設けるべきとの考え方があることから、検討がなされた[1]。
(2) 損害額の算定基準時の原則規定
填補賠償がされるべき場合において、賠償されるべき損害の範囲が確定しても、その損害の具体的金額が時の経過によって増減する可能性がある。そのため、いつの時点の価値をもって損害額とするかという損害額の算定基準時が問題となるところ、判例は、この問題を民法416条の損害賠償の範囲の問題と捉えたうえで、具体的事例に応じて算定基準時の判断を重ね、履行不能による填補賠償については、確立した判例法理が形成されたと評価されることがある[2]。また、解除による填補賠償については、判例上も複数の異なる判断が示されている[3]。
そこで、損害額確定ルールの透明性を確保する観点から、これら判例を踏まえて、明文化することが望ましいという考え方があることから、検討がなされた。[4]
(3) 損害額の算定ルール
- ア 不履行後の価格騰貴の場合
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物の引渡しを目的とする債務の不履行後に目的物の価格が騰貴した場合における填補賠償の損害額の算定ルール(代替取引がされない場合)について、判例法理が確立しているとされており[5]、これを明文化することが望ましいという考え方があることから、検討がなされた[6]。
- イ 被不履行当事者が第三者と取引関係に立っている場合
- 被不履行当事者が第三者と取引関係に立っている場合における損害額の算定ルールについて、いずれも売買契約に関し、売主が目的物の引渡しを目的とする債務を履行しなかった事例について、買主が第三者との間で行った取引における価格を基準に損害額を認定する判例が存在することから[7]、この旨の規定を置くことが望ましいという考え方があることから、検討がなされた。[8]
[1] 部会資料5-2(42~43頁)
[2] 最判昭和30年1月21日民集9巻1号22頁、最判昭和35年12月15日民集14巻3060頁等。
[3] 解除時を基準としたものとして、最判昭和28年10月15日民集7巻10号1093頁等。
履行期としたものとして、最判昭和36年4月28日民集15巻4号1105頁。
[4] 部会資料5-2(43~44頁)
[5] 最判昭和37年11月16日民集16巻11号2280頁、同昭和47年4月20日民集26巻3号520頁等
[6] 部会資料5-2(48頁)
[7] 大判大正10年3月30日民録27輯603頁、最判昭和36年12月8日民集15巻11号2706頁、大判明治38年11月28日民録11輯1607頁、大判大正7年11月14日民録24輯2169頁
[8] 部会資料5-2(49~50頁)