◇SH1491◇ベトナム:ベトナム国際仲裁センター(VIAC)の新仲裁規則(2) 青木 大(2017/11/10)

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ベトナム国際仲裁センター(VIAC)の新仲裁規則(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 今回は、前回の「ベトナム国際仲裁センター(VIAC)の新仲裁規則(1)」に引き続き、VIAC新仲裁規則の主要な規定を紹介する。

 

7. 仲裁廷と当事者の私的な接触禁止

 仲裁手続の間、当該紛争に関して、仲裁人はいずれの当事者とも私的に接触してはならず、両当事者共に仲裁人に私的に接触をしてはならない(規則16条4項)。

 

8. 仲裁廷の権能

 仲裁廷は、事実認定のために当事者や第三者と議論を行うこと(規則18条)、当事者に証拠を提出することを命じること(規則19条)、証人を召喚すること(規則20条)等の権限を有する。

 

9. 仲裁廷による暫定措置

 仲裁廷が下すことができる暫定措置の種類が以下の通り明示されている(規則21条)。

  1. (a) 係争物の現状変更の禁止
  2. (b) 仲裁手続に害を及ぼすような行為を防ぐための特定の行為の差止め又は履行
  3. (c) 係争物の差押え
  4. (d) 当事者の資産の保全、保管、売却、処分
  5. (e) 金銭の仮払い
  6. (f) 係争物の権利の移転の禁止

 ただし、一方当事者が既に裁判所に対して上記の暫定措置を請求している場合には、仲裁廷は仲裁廷に対する請求を拒絶しなければならない。また、当事者が裁判所に暫定措置を求めた場合には、VIACに速やかにその旨の通知を行う必要がある。

 

10. 仲裁地

 仲裁地については、当事者合意がない場合には、仲裁廷が適当と認める場所に定める(規則22条)。合意がない場合に当然ベトナム国内になるというわけではない。

 

11. 仲裁言語

 「外国要素(foreign element)」がない紛争については、仲裁言語はベトナム語が強制適用される。

 「外国要素」がある、又は少なくとも一方当事者が外国投資資本の企業体である場合、仲裁言語は当事者間で合意が可能である。合意がない場合には契約での使用言語その他の関連事情を考慮して仲裁廷が仲裁言語を決定する(規則23条)。

 

12. 準拠法

 「外国要素」がない紛争については、ベトナム法が強制適用される。

 「外国要素」がある紛争については、当事者が合意した法が適用される。合意がない場合には、仲裁廷が最も適切と考える法が適用される。また、仲裁廷は紛争の解決に際して取引慣行を適用することができる(規則24条)。

 

13. 仲裁廷による調停

 当事者の求めにより仲裁廷は調停を行うことができる。調停が成立した場合、仲裁廷は議事録を作成し、当事者及び仲裁廷がこれに署名をする。仲裁廷は成立した調停内容を認める命令を下し、かかる命令は仲裁判断と同様の有効性を有する(規則29条)。

 

14. 仲裁判断

 仲裁廷は最終ヒアリングの後、30日以内に仲裁判断を作成しなければならない(規則32条)。仲裁判断はまず仲裁廷からVIACに提出され、VIACはその後直ちに正本又は謄本を当事者に交付する。

 この点、SIAC仲裁規則では仲裁判断のドラフトは45日以内とされており、VIACにおいては更に迅速な仲裁判断の作成が仲裁人に求められている。ただし、30日を超過して作成された仲裁判断の有効性に疑義が生じかねず、30日を超過する場合には形式的なヒアリングを再度開催した上で、その後の30日以内に仲裁判断を交付するという対応が行われることもある。

 

15. 仲裁費用

 仲裁費用は、①仲裁人報酬、②VIACの事務管理費用、③仲裁廷の旅費、宿泊費その他実費、④仲裁廷が資産の調査や鑑定人意見の取得に要した費用が上げられる。①及び②についてはVIACが定めた計算表に従って前払いが求められる。上記以外の費用(弁護士費用等)については、仲裁廷がその配分を決定することができる(規則34、35条、36条)。

 

 以上の通り、VIACの新仲裁規則は、「外国要素」の有無が問題になる場合には注意が必要となるが、それ以外については、特異なところは少なく、他の著名仲裁機関の仲裁規則と比べてもさほど遜色がない程度に精緻に作り込まれているという印象を受ける。近年VIACの新件数はうなぎ登りに増加しており、2016年のVIACの新受件数は155件となっている。裁判手続の不透明さもあり、ベトナムにおいては紛争解決をVIAC仲裁に委ねる事例は今後も増えていくものと思われる。

 

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