◇SH2311◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(22) 大皷利枝(2019/02/04)

未分類

法務担当者のための『働き方改革』の解説(22)

労働者派遣と同一労働同一賃金

TMI総合法律事務所

弁護士 大 皷 利 枝

 

Ⅹ 労働者派遣と同一労働同一賃金

 第1章で述べたとおり、働き方改革関連法は、処遇が一般的に低いとされている短時間労働者、有期雇用労働者及び派遣労働者について、処遇改善(いわゆる「同一労働同一賃金」)のための改正を行っている。

 前稿までは、このうち、自己の使用者の指揮命令下で勤務する前二者(短時間労働者及び有期雇用労働者)の同一労働同一賃金について述べてきた。

 本稿からは、派遣労働者の同一労働同一賃金について、主に派遣先の観点から整理したいと思う。

 前提として、「労働者派遣」とは、派遣労働者を雇用する派遣会社(派遣元)が、顧客(派遣先)との間で、労働者の派遣契約を締結し、派遣労働者が、派遣先の社内において、派遣先の指揮命令を受けて職務を遂行することをいい、労働契約は派遣元と派遣労働者の間に存在するものの、派遣労働者は派遣先において派遣先の指揮命令下で職務を遂行するという特徴がある。

 そのため、派遣労働者の処遇改善は、主として、労働契約の当事者である派遣元と派遣労働者の間における問題であるものの、派遣労働者は派遣先において職務を遂行すること、また、派遣労働者の待遇は派遣先が派遣元に対して支払う派遣料金に影響を受けることなどから、改正法では、後述のとおり、派遣元と派遣先について、それぞれ義務の新設・強化を行っている。

 

 不合理な待遇の禁止

 改正法が目指す派遣労働者の同一労働同一賃金は、以下のいずれかである。

  1. 派遣先の通常の労働者との均衡・均等待遇
  2. ⑵ 派遣元における労使協定で定める以上の待遇

(1) 派遣先の通常の労働者との均衡・均等待遇

 前述の労働者派遣の特徴に由来する派遣労働者の同一労働同一賃金の大きな特徴の一つとして、派遣元社内での均衡・均等待遇ではなく、派遣先の通常の労働者との均衡・均等待遇を提供することが、派遣元に義務づけられているという点が挙げられる。

 そして、派遣元及び派遣労働者は、基本的に派遣先の従業員の待遇を知り得ないため、派遣先には、比較対象となる派遣先の従業員(「比較対象労働者」と呼ばれる。)の待遇情報を、書面、ファックス、電子メール等で派遣元に対して提供することが義務づけられており、かかる情報提供がなければ、派遣元と派遣先は労働者派遣契約を締結することができないこととされている(新労働者派遣法26条7項、9項)。

 ただし、派遣先の従業員の職務内容等と派遣労働者の職務内容等は異なることの方が多いと思われるため、比較対象労働者を決定する方法(優先順位)が、以下のとおり、定められている。なお、具体例については、今後、厚生労働省による提示や実例の蓄積が待たれるところである。

  1. ①「職務の内容(*注)」と「『職務の内容』及び『配置』の変更の範囲」の両方が同じ通常の労働者
  2. ②(①がいない場合)「職務の内容」が同じ通常の労働者
  3. ③(①と②がいない場合)「業務の内容」と「責任の程度」のいずれかが同じ通常の労働者
  4. ④(①~③がいない場合)「『職務の内容』及び『配置』の変更の範囲」が同じ通常の労働者
  5. ⑤(①~④がいない場合)①~④に相当する短時間・有期雇用労働者(短時間・有期雇用労働法等に基づき、派遣先の通常の労働者との間で均衡待遇が確保されていることが必要)
  6. ⑥(①~⑤がいない場合)派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
  1. *注 「職務の内容」とは、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。

 そして、派遣先が提供しなければならない比較対象労働者の待遇情報は、以下のとおりである(新労働者派遣法施行規則24条の4第1項)。

  1. ① 比較対象労働者の「職務の内容」、「『職務の内容』及び『配置』の変更の範囲」並びに雇用形態
  2. ② 比較対象労働者を選定した理由
  3. ③ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容
  4. ④ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
  5. ⑤ 比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項

 なお、派遣先は情報提供した書面等の写しを労働者派遣が終了した日から3年間保存しなければならない(新労働者派遣法施行規則24条の3)。

 派遣元は、派遣先から提供された情報に基づいて、派遣労働者に対して、均衡・均等待遇を提供しなければならない(新労働者派遣法30条の3)。

 均衡待遇が義務づけられる場面、均等待遇が義務づけられる場面等については、平成30年12月28日に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」が公表されているが、その内容は短時間労働者及び有期雇用労働者の同一労働同一賃金と概ね同じである。

(2) 派遣元における労使協定で定める以上の待遇

 前述1(1)で述べた派遣先の通常の労働者との同一労働同一賃金を貫くと、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になることが想定されること、また、職務の難易度にかかわらず、大企業の方が一般的に賃金水準が高いという傾向を受けて、待遇が決定されることで、派遣労働者個人の段階的・体系的なキャリアアップ支援と不整合な事態を招くこともあり得るため、改正法では、派遣元が労使協定を締結し、当該協定に定める以上の待遇を派遣労働者に対して提供することも認められている(新労働者派遣法30条の4)。

 労使協定は、派遣元が、過半数組合(過半数組合が存在しない場合は、過半数代表者)との間で締結し、以下の事項を定めなければならないとされている。

  1. ① 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲(派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由)
  2. ② 賃金の決定方法(派遣先の所在地を含む地域において、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者で、当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金(厚生労働省が毎年6~7月に通知予定)の額と同等以上の賃金額となるもので、派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善(*注)されるもの)
  3. ③ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定する旨
  4. ④ 賃金以外の待遇(労使協定の対象とならない教育訓練及び福利厚生を除く。)の決定方法(派遣元の通常の労働者との間で不合理な相違がないもの)
  5. ⑤ 派遣労働者に対して、段階的・計画的な教育訓練を実施する旨
  6. ⑥ 有効期間
  7. ⑦ 労働契約期間中に、労使協定の対象となるか否かを変えようとしない旨
  1. *注 職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当等)は、職務の内容等の向上に基づく改善は不要である。

 派遣元と派遣先の間の労働者派遣契約において、派遣ないし受け入れる派遣労働者は前述の労使協定の対象者に限定すると定めた場合、前述1(1)記載の待遇情報を提供する必要はなく、派遣先が派遣元に対して提供する必要がある情報は、以下に限定される(新労働者派遣法施行規則24条の4第2項)。

  1. ① 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の従業員に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練の内容(そのような教育訓練が存在しなければ、その旨)
  2. ② 給食施設、休憩室、更衣室の内容(そのような施設が存在しなければ、その旨)

(3) 内容変更時の情報提供義務

 派遣先の通常の労働者との均衡・均等待遇を提供する場合(前述1(1))と労使協定で定める以上の待遇を提供する場合(前述1(2))のいずれであっても、派遣先は、提供した情報に変更が生じたときは、遅滞なく、変更した情報を派遣元に改めて提供しなければならない(新労働者派遣法26条10項)。

(4) 追加情報の提供その他の協力配慮義務

 派遣元が合理的な待遇を派遣労働者に提供する義務、派遣労働者に対して教育訓練等を行う義務、派遣労働者への説明を行う義務を適切に遂行できるよう、派遣先は、派遣元の求めに応じ、派遣先の従業員に関する情報、派遣労働者の業務遂行状況その他の情報を提供するなど、必要な協力をするよう配慮しなければならないとされている(新労働者派遣法40条5項)。

(5) 派遣料金の交渉における配慮

 派遣先は、派遣元が合理的な待遇を派遣労働者に提供できるよう、派遣料金の額について、配慮することが義務づけられている(新労働者派遣法26条11項)。

 

タイトルとURLをコピーしました