厚労省、2022年度雇用政策研究会「議論の整理」を公表
――コロナ禍での環境変化とアフターコロナを見据えた課題に対し「4つの仕組み」作りを提言――
厚生労働省は7月7日、2022年度雇用政策研究会(座長:樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長)における本年4月~6月の計3回の審議結果を「議論の整理」として公表した。
雇用政策研究会は同省職業安定局長が学識経験者の参集を求めて開催する諮問機関で、職業安定局雇用政策課が事務局を務める。「経済構造及び労働力需要・供給構造の変化に関する分析と展望」「雇用に関する問題の分析と今後の雇用政策の方向」を研究課題とし、2020年10月~12月に計4回にわたり開催された前回(2020年度)の雇用政策研究会によっては「コロナ禍における労働市場のセーフティネット機能の強化とデジタル技術を活用した雇用政策・働き方の推進」と題する報告書が取りまとめられ、同年12月24日に公表された。
同報告書では機動的・効果的な雇用政策が求められること、同時にデジタル技術の活用などの不可逆的な変化にも対応していく必要があることなどが指摘されたところ、今回の審議は、コロナ禍が依然として継続する「一方で、徐々に社会経済活動の回復に伴って人手不足感が高まるなど、雇用情勢の局面変化の兆しも見られ」る状況下、同報告書を基に「その後の雇用情勢等の変化を踏まえ、取組を加速させるべき点や、取組を推進するに当たってより一層注意を要する点などを御議論いただくとともに、その議論を踏まえつつ、コロナ禍の後に予想される人手不足を念頭に置いた労働力供給の確保等の観点、円滑な労働移動の観点から、アフターコロナを見据えた雇用政策の方向性についても御議論をいただきたい」として4月6日に初会合が開催されたもの(引用箇所について「令和4年度第1回雇用政策研究会議事録」における職業安定局長発言参照)。以降、5月20日・6月20日と計3回の会合が開かれた。
取りまとめられた「議論の整理」は副題に「コロナ禍の経験を踏まえた、不確実性に強いしなやかな労働市場の構築に向けて」を掲げる(編注・「しなやか」に傍点が付されている)。第1章で開催趣旨などを説明、第2章を「コロナ禍での労働市場を取り巻く環境変化とアフターコロナを見据えた課題」とし、5つの課題を掲出した。課題1~課題5として掲げられる各課題は、順に次のとおりである。労働供給制約とそれに伴う人手不足、働き方の多様化、デジタル化への対応と労働生産性の向上、豊かな人生を支える健康的な職業生活の実現、都市部と地方部における地域間格差。
これを受けた第3章では、課題解決のために「どのような労働市場を構築していく必要があるか」を検討。「4つの仕組み」作りが必要であるとし、本章で提言するⅠ~Ⅳの各仕組みに対して <仕組みの考え方> および <具体的な政策の方向性> を示す。仕組みの筆頭に掲げられるのは「Ⅰ.労働者のワーク・エンゲージメントを高め、労働生産性と企業業績の向上につなげる経済の仕組み」である。
ここでは、①「企業はコロナ禍での経験を活かしながら、労働者の多様化にも対応しつつ、ワーク・エンゲージメントを高める雇用管理を行い、企業業績への労働者の貢献が適切に賃金等の処遇に反映されることが求められている」こと、②「労働者の高いワーク・エンゲージメントと企業の戦略的な人材育成が効果的に組み合わさり、労働生産性の向上につながることが望まれる」こと、③「キャリア形成のミスマッチをなくすため、企業と労働者がこれまで以上に密にコミュニケーションをとり、企業側が求める人材と労働者側が実現したいキャリアの擦り合わせを行うことが求められる」ことなどを指摘。
具体的な政策の方向性として「ワーク・エンゲージメントを規定する要因やそれを向上させる方策について整理」することの要請を始め、「企業内での能力・スキルの在り方とその評価について整理」することの重要性、「キャリアに関する希望だけでなく、就業に関係する家庭事情等を把握すること」の重要性、テレワーク下「例えば、1on1の実施、エンゲージメントサーベイやHRTechの活用なども含め、企業で組織的な対応が図られること」の重要性について言及する。
さらに「社会における女性のワーク・エンゲージメントを高めていくこと」が重要であるとするとともに、管理的地位にある職員に占める女性職員の割合など女性に関わる職場情報の労働市場・資本市場での公開について「こうした指標は、企業自身が女性活躍に関する自社の状況を客観的にチェックするためにも重要である」とし、幅広く取り組まれていくことが望まれるとした。
本「議論の整理」における他の3つの仕組みは「Ⅱ.多様なチャネルを活用した労働者のキャリア形成と企業の人材育成を促進する仕組み」「Ⅲ.ウェル・ビーイング向上への取組が人材確保と労働供給の増加につながる仕組み」「Ⅳ.労働市場の基盤強化と多様性に即したセーフティネットの構築を通じ最適な資源配分を実現する仕組み」である。適宜参考とされたい。