企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1. 企業規範の4つの層 各層の内容と制定責任者
(2) 第2層(方針)
3)「取締役会規程」等で、取締役会に付議すべき事項(決議事項、報告事項)を示す。
- (注)「取締役会規程」及び「取締役会付議基準(左記規程に含むこともある)」は、取締役会が決めるべき事項である[1]。
次に、「取締役会規程」の主な内容(例)を示す。
- ・ 取締役会の目的・役割
- ・ 構成
- ・ 資格要件(再選回数を含む)
- ・ 開催、開催場所
- ・ 招集、通知
- ・ 議題
- ・ 議長、副議長
- ・ 成立(定足数等)
- ・ 決議の方法(全員賛成の場合の書面決議、ネット決議を含む)
- ・ 取締役会付議事項 (注)「取締役会付議基準」等として独立の規程を設ける例もある。
- 決議事項(株式・株主に関する事項、役員に関する事項、グループに関する事項、重要な規程の制定・改廃、決算に関する事項、財務に関する事項、内部統制に関する事項、コーポレート・ガバナンスに関する事項、その他の法定審議事項)
- 報告事項(3ヵ月に1回以上、取締役の職務の執行状況)
- ・(必要に応じて、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の設置等に関係する事項)
- ・ 取締役以外の者の出席
- ・ 議事録
- ・ 欠席取締役への通知
- ・ 取締役会への報告の省略
- ・ 事務局
- ・ 取締役会が外部(法律事務所・会計事務所等)に依頼する調査等の費用
(3) 第3層(標準=業務の基本とすべき基準・規格等)
第2層(方針)を業務の現場で統一的に行うための標準が、第3層(標準)である。
部長・工場長等の責任において起案し、担当役員が決裁する事項が多い。特に重要な事項については、社長決裁又は取締役会決議とすることもある。
- (注)「情報システム」に関する管理基準は、運用管理・情報セキュリティ管理・データ管理・ログ管理・外注管理等のように、企業内の多くの部署に影響するだけでなく、取引先や顧客サービスに影響する可能性も大きいので、リスク・マネジメントの観点を合わせて、取締役会で審議・決定することが望ましい[2]。
顧客に提供する商品・サービスの水準を定める基準・規格、及び、各業務部門(開発、設計、製造、販売、代金回収、人事、経理、総務、情報システム等)が遵守すべき具体的な業務の基準等が含まれる。
第3層の具体的な標準は、規程・基準・規則等の形で制定されることが多い。
- 例 顧客と契約時の留意事項、固定資産等管理規程、開発テーマ選定基準(大きなテーマは取締役会案件になる)、清掃業務基準、建物(会館等)利用基準
規格は、その目的・対象によって次の4種に分類される。
- 1. 製品規格(製品が、形状、寸法、材質、成分、品質、性能、耐久性、安全性、機能等の基準に適合していることを証明するために用いられる。)
-
2. マネジメントシステム規格(企業の経営管理システムが一定の水準にあることを証明するために用いられる。)
(注) Plan→Do→Check→Actを業務執行の基本手順として、組織のマネジメント品質の継続的な向上を図る企業が多い。 - 3. 基本規格(用語、記号、単位の定義等)
- 4. 方法規格(試験、分析、検査、測定、作業方法等)[3]
本稿では、この中の「1. 製品規格」と「2. マネジメントシステム規格」を参考にして、企業の管理の仕組みを考察する。
- (注)「3.基本規格」及び「4.方法規格」は、「1.製品規格」及び「2.マネジメントシステム規格」を支える基盤の役割を果たしている。
基準・規格に適合しているか否かを評価する手順を「適合性評価」といい、製品・プロセス・システム・要員・機関に関する規定要求事項(法令・規格・技術仕様書等の基準文書の中で明示される。)が満たされていることを実証する[4]。
なお、公的な規格と同じ対象について社内規格を制定するときは、両者を対比して、社内規格を常に最新の公的規格と同等以上の水準に維持しなければならない。
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(注) 製品規格では個々の製品が対象になるのに対して、マネジメントシステム規格は一定の範囲の組織(経営体)が対象になる。従って、製品規格に適合する製品には、個々の製品にマーク等が表示されるが、マネジメントシステム規格の場合は、審査対象の範囲(製品は含まれない)が誤解されないように表示する[5]。
例 ISOには、ネジ・カードの大きさ等の製品規格[6]と、品質・環境等のマネジメントシステム規格[7]がある。
[1] 会社法362条4項に関する事項を、具体的に規定する。
[2] 経済産業省「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver2.0(2017年11月16日公開)」は、経営者が認識すべき3原則として(1)経営者のリーダーシップが重要、(2)自社以外(ビジネスパートナー等)にも配慮、(3)平時からの情報共有・コミュニケーションを挙げ、株主・顧客・取引先等を含む社内外のステークホルダーに自社の「サイバーセキュリティ対応方針」を宣言・開示することを勧めている。
[3] (例1)新機種の家庭用浄水器に家庭用品品質表示法を適用する目的で、従来の家庭用浄水器試験方法JIS S3201(ろ過流量試験方法、除去性能試験方法、ろ過能力試験方法)が改正された(2017年〈平成29年〉1月)。(例2)2017年のJAS法改正により、JAS規格の対象が、それまでのモノ(農林水産物・食品)の品質から、モノの「生産方法」(プロセス)、「取扱方法」(サービス等)、「試験方法」等に拡大された。
[4] JIS Q17000:2005(ISO/IEC17000:2004)「適合性評価 用語及び一般原則」2.1 3.1
[5] 事業所紹介パンフレット、建物入口(玄関)の看板、所属社員の名刺等に「ISO 9001 認証取得」と表示される。
[6] ISO68(ネジ)、ISO/IEC7810(カード・サイズ)等
[7] ISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO14001(環境マネジメントシステム)等。これが日本語に翻訳され、日本の国家規格(JIS Q 9001、JIS Q 14001)として発行されている。