◇SH2471◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第23回) 齋藤憲道(2019/04/11)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3.企業規範を監視する3つの目線

 企業規範とその執行状況の監督・監視・検査・審査・監査[1]は、次の3つの目線で行われる。

  1. ⑴ 社内の業務部門に所属し、「現場」の目線で、検査・監督・監視等を行う。
  2. ⑵「社内の中立的立場」の目線で、監督・監視・監査等を行う。
  3. ⑶「外部の第三者」の目線で、監視・監査・審査等を行う。
  4. (注) 企業における監督・監視・監査等の仕組み作りは、これに投入できる人材・資金の枠内で行うので、リスクが大きい重要分野が手薄にならないようにすることが重要である。

(1)「現場」の目線

 日常業務を遂行する「現場」では、指定された企業規範(社内の規程・基準・規格等)を確実に守るように心がけている。「現場」は全ての業務部門(設計・製造・販売等の直接部門、人事・経理・総務・情報システム等の間接部門)に存在し、その部門の専任業務だけでなく、企業全体で取り組むコンプライアンス管理やリスク・マネジメントの業務も行う。

 「現場」には、企業の従業員や資産の大半が配置され、そこで企業の商品・情報・データが取り扱われる。

 「現場」で運用する決裁規程・業務規程・業務指示書・作業マニュアル・コンピュータ管理システム・機械装置・検査装置・ICT機器等の中には、顧客に提供する商品やサービスの品質(性能・安全性を含む)を一定水準以上に保つとともに、業務品質(遵法を含む)の水準及び必要な業務手順等を確保する仕組み(いわゆる、経営管理システム)が組み込まれている。

 そして、これを適切に運用し、異常があればそれを早期に発見して措置するための監督・監視が行われる。

 企業の市場競争力は、このような「経営管理システム」と、それを確実に運用する実行力によって決まる。

(2)「社内の中立的立場」の目線

 「現場」の業務を、「社内の中立的立場」から専門的に監督・監視・監査する。

 取締役会が取締役[2]の職務執行を監督する役割[3]は、この「社内の中立的立場」で果たすことが求められる。

 近年、外部の眼を持つ社外取締役に対する期待が大きく、その増員・独立性強化・選任過程の透明化等を図る法令・上場規程等の改正が繰り返されてきた。

 社外取締役は、社内に潜む経営リスクの存在を察知して適切に対応するために、有効な情報網(例えば、内部通報)と経営判断の力を持つことが必要である。

  1. (参考) 現在、日本の社外取締役には次のタイプが比較的多い[4]
    事業経験があり経営判断の場面で勘が働く人、企業法務に強い人、会計の知識・経験がある人
    (注) 独立性がある人、及び、女性は優先される。

 また、内部監査部門及び内部通報受付窓口も、「社内の中立的立場」の目線で、任務を果たすことが求められる。

(3)「外部の第三者」の目線

 「外部の第三者」の目線で、監視・監査・審査・検査・捜査等して監査報告・是正命令・承認・承認取消等する機能には、客観性・中立性を有することが期待される。

 これには、監査役、会計監査人、行政機関、第三者認証機関、第三者委員会等の活動が該当し、監査・審査等を行う者には、資格や優れた技能を有することが求められる。

監査等の結果が法令・基準・規程等に不適合であれば、営業停止・認証取消等の措置が講じられ、場合によっては刑事罰が科される。

 近年、外部の第三者の目線で調査・評価等することに対する期待が大きく[5]、特に、重大な事故・不祥事については、第三者委員会の意見が求められるケースが多い。

  1. (注) 社外監査役についても社外取締役と同じく増員・独立性強化・選任過程の透明化等を図る法改正が行われてきた。社内の情報源が限られることに関する対策の必要性も、社外取締役と同様である。

 経営者等自身による、経営者等のための内部調査では、調査の客観性に関する疑念を払拭することができないのである[6]

 

例1 運輸安全委員会(航空・鉄道・船舶の事故原因・被害原因)

 運輸安全委員会設置法は、国土交通省の外局として運輸安全委員会を設置して(3条)、事故と被害の原因を調査し、国土交通大臣又は原因関係者に必要な施策・措置の実施を求めて、事故防止・被害軽減を図る(1条)。委員会は、委員長・委員が独立して職権を行使し(6条)、調査終了時に、調査の経緯・認定した事実・認定した理由・原因等を記載した報告書を作成して国土交通大臣に報告するとともに公表する(25条)。

 2008年10月に、航空・鉄道事故調査委員会が海難審判庁調査部門と統合して、運輸安全委員会(国土交通省の外局)に改組された。

  1. (報告例)
  2. ・ 2005年(平成17年)4月25日のJR西日本の福知山線脱線事故[7]「鉄道事故調査報告書(航空・鉄道事故調査委員会、2007年6月28日)」
  3. ・ 航空事故調査報告書「日本航空株式会社所属ボーイング式747SR-100型JA8119、群馬県多野郡上野村山中、昭和60年8月12日(運輸省航空事故調査委員会、昭和62年6月19日)[8]

 

例2 原子力発電所事故の4つの調査委員会

 東日本大震災(2011年3月11日)時に発生した東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融・水素爆発事故及びそれに伴なう大量の放射性物質飛散と汚染水の海洋流出に関して、政府・国会・民間・東京電力にそれぞれ事故調が設立され、各事故調から原因究明・対応検証・事故の背景分析等を行った結果が公表された。事業者と行政が行うべき事故防止対策・事故対応・防災対策等の課題も指摘されている。

 国会事故調の「あきらかに『人災』である」という結論に対して、政府事故調委員から「他の要因を考えなくなる」という懸念が示されるなど、第三者委員会の間でも、現象の捉え方や考え方が必ずしも一致しているわけではない。

  1. ① 政府事故調「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告」(2012年7月23日)
  2.   最終報告と中間報告(2011年12月26日)を合わせ、全体として一体の報告書を構成する。
     2011年6月7日 第1回会合(2011年5月24日閣議決定に基づき設置)
  3. ② 国会事故調「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」(2012年7月5日)
  4.   2011年12月8日、10名の委員を任命
    「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(2011年10月7日公布)」に基づき設置。
  5. ③ 民間事故調「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」(2012年2月27日)
  6.   一般財団法人日本再建イニシアティブが同委員会を設置して、調査、報告を行った。
  7. ④ 東電事故調「福島原子力事故調査報告書」(最終報告2012年6月20日、中間報告2011年12月2日)
  8.   事故発生の当事者である東京電力が設置した「福島原子力事故調査委員会」が作成した報告書で、「原子力安全・品質保証会議 事故調査検証委員会(社外の有識者で構成)」の助言が反映されている。

 

例3 ISO・JISの認証機関

 2017年10月8日に、(株)神戸製鋼所が、一部の製品についてデータの改竄等が行われていたことを公表した。

 これに伴って、JISやISOの認証が取消され、又は一時停止された。次に、その一部の経緯を示す[9]。 

  1. (株)コベルコ マテリアル銅管 秦野工場
  2.   2017年10月26日 JIS認証を取消し(一般財団法人日本品質保証機構JQA発表)
    2017年10月19~20日 臨時審査を実施(一般財団法人日本品質保証機構JQA発表)
  3. 神鋼アルミ線材(株) 本社工場
  4.   2018年5月10日 再審査結果を受け、認証の一時停止を解除(日本検査キューエイ(株)JICQA発表)
    2017年11月16日 臨時調査の結果、ISO9001認証を一時停止(日本検査キューエイ(株)JICQA発表)

 

例4 様々な第三者委員会

厚生労働省「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」
(厚生労働大臣の下に設置された「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告2019年1月22日)

スルガ銀行(株)「調査報告書(公表版)」(同社への「第三者委員会」の報告2018年9月7日)

三菱自動車工業(株)「燃費不正問題に関する調査報告書」(同社への「特別調査委員会」の報告 2016年8月1日)

東洋ゴム工業(株)「免震材料に関する第三者委員会 報告書」(国土交通省への同委員会報告 2015年7月29日)

(株)東芝「調査報告書」(同社への「第三者委員会」の報告 2015年7月20日)

オリンパス(株)「調査報告書」(同社取締役会への「監査役等責任調査委員会」の報告 2012年1月20日) 

フタバ産業(株)「責任追及委員会答申」(粉飾決算に係る役員責任。同社への同委員会の答申 2009年7月28日)

日本放送協会 NHK「調査報告書」(NHK会長への「職員の株取引問題に関する第三者委員会」の報告 2008年5月27日)



[1] 本稿の用語は、法令用語研究会編『有斐閣 法律用語辞典〔第3版〕』(有斐閣、2006)の説明を基本とするが、法令・規格(ISO、JIS等)・企業実務等で用いられている用語については、その用方に従う。なお、同辞典の説明は次の通りである。「監督」人又は機関が、他の人又は他の機関の行為の合法性又は合目的性を監視し、必要に応じて指示、命令等をすること。「監視」特定の人、機関等の行為が義務に違反しないか等について常時注意して見ること。「審査」行政庁が一定の事柄について結論を得るために、その内容をよく調査すること。「検査」何らかの基準に照らして調べること。「監査」事務・業務の執行又は財産の状況の正否を調べるために行う検査。

[2] 指名等委員会設置会社の場合は、執行役も対象になる。

[3] 会社法362条1項、2項。416条1項。

[4] 「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)2017年(平成29年)3月31日 経済産業省」に検討の糸口になる分析がある。

[5] 例えば、監査役・会計監査人・社外役員(社外取締役、社外監査役)等の地位・構成・権限・業務範囲等を強化・拡大。また、不祥事に関する調査を第三者委員会に依頼する例も多い。

[6] 「『企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン』の策定にあたって」2010年12月17日改訂(日本弁護士連合会)より。

[7] 107名(乗客106・乗務員1)が死亡、乗客562名が重軽傷。

[8] 昭和60年8月12日に日本航空123便が群馬県の御巣鷹山に墜落し、520名が死亡(乗客505、乗務員15)・乗客4名が重傷。

[9] (株)神戸製鋼所広報(2018年1月23日)、同社「当社グループにおける不適切行為に関する報告書(2018年3月6日)」、認証機関JQA及びJICQAの発表 による。

 

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