日産自動車、ガバナンス改善特別委員会による報告書を公表
――ガバナンスの在り方で38の提言、暫定指名・報酬諮問委員会も設置して取組みを加速――
日産自動車は3月27日、2018年12月17日付でその設置が発表されていた「ガバナンス改善特別委員会」から「ガバナンスの改善策及び、将来にわたり事業活動を行っていくための基盤となる最善のガバナンス体制の在り方についての提言をまとめた」とする報告書を受領したとし、これを公表した。
ガバナンス改善特別委員会は、同社において発生した元代表取締役会長らによる不正行為を巡り(SH2212 日産自動車、ゴーン会長ら2代表取締役を内部通報・内部調査を経て解職(2018/11/27)、SH2254 東京地検特捜部、日産自動車前会長らを虚偽有価証券報告書提出の容疑で起訴・再逮捕(2018/12/18)、SH2350 日産自動車、ゴーン前会長らの取締役解任等で臨時株主総会開催を決議(2019/02/19)等既報)、(1)今般の有価証券報告書の虚偽記載等を招いた日産のガバナンスの問題点に関する根本原因の解明を行ったうえで、(2)同社の取締役報酬の決定プロセスの改善を始めとするガバナンスの改善策を提言するとともに、(3)同社が将来にわたり世界をリードしていく企業として事業活動を行っていくための基盤となる健全なガバナンス体制の在り方を提言することを目的として設置されたもので、独立第三者委員4名・同社独立社外取締役3名の計7名からなる。
独立第三者委員4名には、独立社外取締役3名の総意により(a)会社法・コーポレートガバナンスに知見のある元裁判官の弁護士、(b)上場企業を経営した経験のある経営者、(c)上記とは異なるバックグラウンドを有する弁護士、(d)ガバナンス・内部統制に知見のある会計の専門家といった立場から計4名が選定されており、共同委員長として(a)の元裁判官(都内の法律事務所に所属する弁護士、元東京地裁民事第8部部長、元広島高裁長官)および(b)の経営者(前日本経済団体連合会会長)が就任した。なお、日産取締役会から委嘱を受けた独立社外取締役3名が株主からの付託に応えるかたちで、ルノー・三菱自動車工業とのパートナーシップを踏まえつつ「独立性・客観性と専門性が確保された提言を速やかに行うために、独立社外取締役自らが外部の独立した専門家と協力する体制が最適であると判断」したことから日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に基づく第三者委員会の形態は採用しなかったとしており、上記の体制とすることを総意により決定したものとされる。
ガバナンス改善特別委員会では、(ア)日産から内部調査の結果に関する2019年2月1日現在の調査報告書(以下「本件調査報告書」という)の提出を受け、その内容を精査するとともに、(イ)日産の内部調査担当者から内部調査の対象、方法、結果について説明を受け、(ウ)現CEO、取締役、監査役を含む7名の日産関係者に対するインタビューを実施し、(エ)他の日産関係者の発言やインタビュー記録、日産の定款その他の内部規則(権限分掌規程、統制プロセス・組織に係る規程を含む)、過去の議事録、監査記録など多数の資料およびデータの分析・検討を行ってきた(以下、同委員会が検討対象とした説明、インタビュー、資料、データを「本件検討資料」という)。
これら本件検討資料を精査した結果、同委員会では本件調査報告書の内容が不合理なものではないと判断。加えて、同委員会では本提言を日産のガバナンスに対する国内外のステークホルダーからの信頼回復に足るものとするため、国内外の機関投資家の意見を参照するとともに、国際的な知見を有する英米3名のインターナショナル・アドバイザーと議論を行ったという。
このようにして取りまとめられた報告書の「第3章 日産のガバナンスの問題点及び根本原因」によると、本件不正行為等は「典型的な経営者不正」であり、「しかも、経営者が私的利益を追求している点で、いわゆる『会社のため』を不正の正当化根拠としていた過去の上場会社での経営者不正(粉飾決算・不正会計)と根本的に異なる」と指摘。そのうえで、具体的な事実認定とともに次の5点を「本件不正行為等の根本原因」と判断した。①1人の取締役に権限が集中したこと(特に人事・報酬)、②一部の管理部署がブラックボックス化したこと、③取締役会の監督機能が一部有効に機能しなかったこと、④他の会社機関の監視・監査機能が一部有効に機能しなかったこと、⑤社内各部署の牽制機能が一部有効に機能しなかったこと。
報告書では「第4章 機関設計(ガバナンスの基本的枠組み)」以降を「第5章 取締役会(執行と監督の分離)」「第6章 執行役(業務執行機関)」「第7章 監査」「第8章 企業風土改革、企業倫理の再構築、社内体制整備」「第9章 その他」と構成し、ほぼすべての章において「関連する根本原因」を示しながら、これに対処しうる「提言内容の検討」を展開。
たとえば第4章では、提言<1>として「2019年6月末をもって、指名委員会等設置会社に移行する。」ことを掲げており、現状の機関設計(監査役会設置会社)により未然防止できなかった現実を真摯に受けとめ「取締役の指名及び報酬の決定権限の集中を防ぐことができる、国際的にわかりやすいベスト・プラクティスを構築する必要がある」として、指名委員会等設置会社への移行が望ましいとする検討過程とともに、その移行時期を明言する体裁を採っている。
同様に第5章では「社外取締役・独立取締役の人数」「社外取締役の構成」「指名委員会(の具体的な在り方)」「報酬委員会(の具体的な在り方)」「『取締役会議長』及び『会長』」「取締役会の監督機能の補完措置」といった6項目に絡んで計17の提言を行っており、以下、第6章:計3、第7章:計9、第8章:計6、第9章:計2と、報告書における提言は総数38にのぼるものとなった。
日産自動車は3月29日、提言を踏まえて指名委員会等設置会社へ移行する方向で準備を進めていくことを同日開催した臨時取締役会で確認したと発表。本年6月末の移行を目指して社内体制を構築し、準備を進めていくとして「暫定指名・報酬諮問委員会」の設置を決議した。
6月の定時株主総会に向けて取締役会メンバー候補者を選定、その後の報酬案を検討し、取締役会へ助言を提供するもので、委員には報告書の作成に関与した同社独立社外取締役3名が就任するほか(うち1名を委員長とする)、上記(b)の経営者および提言の作成過程で議論したとされるインターナショナル・アドバイザーのうち2名の計3名がアドバイザーとして助言を行い、「新しいガバナンス体制への早期移行を目指し、その取り組みを加速させていく」としている。