◇SH2481◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(156)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉘ 岩倉秀雄(2019/04/16)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(156)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉘―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ㈱の失敗と成功の要因を整理して述べた。

 日本ミルクコミュニティ㈱の失敗と成功のケースは、一般の会社合併において発生が想定される様々の課題への示唆を提示していると思われる。

 失敗の要因を一言で言えば、準備期間が短く、たすき掛け人事と出身会社主義を排除できず、各社の主張を中途半端に入れたために、以下の様々の弊害が発生したことであると言える。

  1. ⑴ 設立準備期間が短か過ぎたので、①システムへの習熟不足、②商品知識不足、③物流センターの混乱、④経営管理手法への不慣れが発生した。
  2. ⑵ たすき掛け人事を行ったために①役員の数が増え縦割りと遠慮を生み、②管理職の相互理解不足と管理手法の個人依存による部下の混乱と不満が発生し、③一般職では、慣れた仕組みを活用する者が評価され他は冷遇されやすいので、主流会社以外の出身者は肩身が狭くストレスが多かった。
  3. ⑶ 出身会社主義を排除する認識が不足していたので、①組織文化の違いがあらゆる場面で顔を出したが、特に、②給与体系が出身会社主義で出発したことへの不満が大きく、③不公平な人事評価や④本社と現場の在り方に対する管理スタンスの違いが、現場の不満と混乱を生んだ。
  4. ⑷ あらゆる面で中途半端な絞り込みだったために、①取扱アイテム数の過多や②不採算取引先の持込み、③物流拠点・配送ルートの合理化不足、④不採算営業拠点・工場の持込み等が行われ、混乱と経費増を生んだ。

 それらの反省を踏まえ、構造改革プランでは、

  1. ⑴ 経営方針を明示し現場に浸透させるために①「実力主義と現場主義」を表明し、②経営者が方針と構造改革プランを全国の現場に出向き説明した。
  2. ⑵ 人事制度の改革を実施し、①不満の多い出身会社主義の給与制度を廃止し、同一職位・同一賃金とするとともに、②目標達成とチームへの貢献を評価基準とする評価制度を設定した。
  3. ⑶ 構造改革戦略は、①生産・物流体制の再構築(青森工場の閉鎖と狭山工場の売却)、②物流・営業拠点の絞り込み(合計63→48)、③不採算アイテムの整理(1,914→800)と内製化、④重点チャネルと縮小・撤退チャネルの選別、⑤商品構成及び宣伝促進費の適正化、⑥退職者不補充による人員削減(340名)、⑦資材費・管理費等あらゆるコストの見直し・削減、⑧収支管理の徹底を実施した。

 また、新会社の新しい組織文化(風土)を形成するために、

  1. ⑷「チーム力強化」の取組みを実施し、①コミュニケーション活動への費用補助、②チーム力強化アイディアの募集と全社への案内、③コーチング研修の実施、④チーム力強化自己チェックシートの配布回収、⑤大学の公開講座・通信教育の受講補助、⑥寄付講座「マネジメントのための組織行動論」の開設等

を行った。

 今回は、危機を乗り越えた当時の役員の心境を考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉘:経営者の心境】

 日本ミルクコミュニティ(株)の構造改革は、倒産の危機をバネに、経営者が先頭に立って組織革新の方向を示し、従業員の意識調査を基にした革新の方向と整合性のある制度改革と経営再建戦略を果断に実行し、成功したケースである[1]

 今回は、実際に先頭に立って実行した当時の経営者の心境を確認する。(『日本ミルクコミュニティ史』520頁~526頁「日本ミルクコミュニティ(株)を振り返って」より)

 

  1. 1. 小原實代表取締役社長
  2.  「……私が思うに、合併新会社においては各人が各企業独自の文化を吸収してきています。合併新会社を運営するには、おのおの企業文化が骨の髄まで染み込んだ従業員を認めた上で意識改革を促す、いわば、異体同心で最大の力を発揮していただく事がベースになると思っています。……」
     
  3. 2. 田高良茂代表取締役専務
  4.  「……日本ミルクコミュニティ(株)は3社統合により設立された寄り合い所帯の会社であったため、……組織風土、業務の進め方、業務用語の意味合いに至るまで随所に違いが見られ、それらが効率的な業務遂行を阻害していたのは事実です。……寄り合い所帯に特有な異文化の混在とそれによる空気の澱みをできるだけ早期かつ短期間に払拭し、会社全体に求心力を植え付けることを狙いとしたこの取り組みは、会社が目標とするチーム像を全社員に明確に示し、その実現に向けてチームごとに日常的な活動を計画し実行していくという、一見「当たり前の事を当たり前にやっていく」内容でした。しかし、会社の永続的発展のためには旧来の慣行(組織風土)の変革が必要不可欠という危機意識のもと、社長以下経営陣が先頭に立って機会のあるごとに「しつこく」「うるさく」「粘り強く」チーム力強化の取組みを呼びかけていきました。……この取組みは、日本ミルクコミュニティ(株)の組織風土(企業文化)を再構築するために取り入れた全社的・日常的活動でしたが、組織論として内部統制システムをより有効に機能させていくための環境整備でもありました。……」
     
  5. 3. 難波隆夫常務取締役
  6.  「……会社が持続的に成長していくためには、全従業員の価値観、目標のベクトルを合わせ、全員の「知恵と行動力」を引き出す職場風土、「日本ミルクコミュニティ(株)の企業風土」を作る必要性を強く感じていました。そのための取組みとして「チーム力の強化」活動を運動的な位置付けのもとに開始しました。各部門から選抜した副部長・課長クラスのメンバーを中心に会社が目指すべき組織風土として「明るく楽しく元気の良いチーム(会社)」(標語)とマネージャーに実践してもらう「マネジメントの基本」(手引き)を策定し、取組みの定着化を図る目的で、人事評価項目の中で「チーム力強化」を進めるための活動目標の設定をお願いしました。……」

 このように、組織存続の危機の中で、経営者が問題を共有し強い目的意識をもって取組んだことが、構造改革の成功要因だったと言える。

つづく



[1] 筆者の主張、「コンプライアンス・CSRは、組織文化に浸透・定着させなければならず、そのための経営革新は経営者が率先垂範しなければならない」と一致する。

 

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